みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。
その“満室”、本当にあなたの満足度を上げていますか?
円安と夏休み需要が重なって、今年の日本はとにかく“人が多い”。実際、7月は推計343.7万人、8月も342.8万人が来日し、ともに同月過去最高を更新しました。いま日本の観光は、月ベースで「340万人台」が普通になりつつあります。つまり、ホテルも民泊も“埋まる前提”の世界線に入っている。ではなぜ、現場では「満室なのに利益が薄い」声が消えないのか。この記事はそのギャップを埋めます。
結論はシンプル——売上の作りは「稼働率×客単価(ADR)」、利益を削るのは主に人件費と光熱費。この数式を体感で運用できるようになると、値上げ・販路・人員配置の意思決定が一気にラクになります。さらに行動経済学の視点を添えると、ゲスト側も「行列=価値」という錯覚に振り回されず、平日・時間ずらしで最強コスパを取りにいける。運営者・旅行者の双方に効く“数字の見方”を、むずかしい専門用語を避けて整理します。具体的には、
- いま何が起きているか(インバウンドの実数と季節性)、
- ホテル会計のミニマム(稼働・ADR・原価の関係)、
- 現場とゲストがすぐ使えるプライシング&混雑回避のコツ、
の3本立て。読み終えた頃には、「なぜ高いのか」「どこを下げられるか」「いつ狙えば安いか」が腹落ちしているはず。数字で景気を語るのではなく、数字で“判断”できる自分を手に入れましょう。7月・8月の訪日外客数の記録更新データや可視化はJNTOとJTB総研の統計をベースに噛み砕いていきます。
いま現場で何が起きている?

数字から入ろう。2025年7月の訪日客は推計343.7万人で7月として過去最高、8月も342.8万人と「同月初の300万人超え」。月ベースで“340万人台”が当たり前になった。背景はシンプルで、弱い円とスクールホリデー、長期休暇の重なり。台風や地震関連の不安がSNSで広がった時期でも、米欧や東南アジアの需要が全体を押し上げた。つまり、都市も地方も“人流の底上げ”が続いている。
月340万人台の正体
「過去最高」を作っているのはどの国か。7月は中国・台湾、米国・フランスなど主要市場が堅調。8月は韓国や中国、東南アジアに加えて欧米豪が広く伸び、18市場で8月の過去最高を更新した。ここで大事なのは、“特定の一国頼みではない”こと。為替の追い風に加え、直行便の復便やLCCの増便で“行きやすさ”が改善。リスク分散された需要は、少々の天候トラブルでも総数が崩れにくい。
混み方のクセ(季節×曜日×時間)
夏・連休・イベント日は当然高い。ただ、同じ週でも火水木の夜到着は割安になりやすい。理由は明快で、観光は週末チェックインの比率が高いから。さらに、台風シーズンの直前割や、帰国便が集中する翌平日は客室が“穴”になりやすい。都市部のビジネスホテルは平日ビジネス需要>週末観光需要のエリアもあり、逆にリゾートは週末偏重。カレンダーとフライト時刻、イベント開催日を重ねてみるだけで、混雑の“谷”が見える。実際、国内のホテル指標を見ると、稼働率は高止まりしつつもADR(平均客室単価)の上げ下げで埋めている動きが目立つ。
満室なのに赤字?のカラクリ
“パンパンに埋まっても収益が伸びない”ときは、単価の上げ幅<コストの上げ幅になっている。ここ数年は人手確保のための時給上昇、深夜・多言語対応の人件費、さらに光熱費の上振れがじわっと効く。客室部門の売上は稼働率×客単価(ADR)で決まるが、利益はそこから人件費・光熱費・清掃外注・OTA手数料が差し引かれる。満室を追うあまり安売りで埋めると、RevPAR(販売可能客室当たり売上)が伸びず、固定費の重さに負ける。投資家向け資料でも、ADR・RevPARの差し込みが増えており、「単価の質」が重要指標として定着している。
要するに、今年の日本は「総需要が強い」が、いつ・どこで・いくらで売るかの配分で勝敗が決まる段階に入った。運営側は“満室”よりも良い単価での満室、旅行者側は“人気日”より平日・時間ずらしに価値がある。数字は冷たいようでやさしい。混む理由と空く理由が見えれば、やることは自然に細る。ここまで掴めれば、次はホテル会計の最小単位——稼働率×ADRとコストの関係を、もう少し丁寧に解いていこう。
ホテル会計のミニマム——「稼働×ADR」とコストの地図

ホテルの売上はめちゃくちゃ単純です。稼働率(どれだけ埋まったか)×ADR(平均客室単価)。この2つのかけ算が客室売上のすべて。そこから人件費・光熱費・清掃やリネン外注・OTA手数料などが差し引かれて、ようやく“利益”が残ります。プロの現場ではRevPAR(販売可能客室1室あたり売上)やGOPPAR(販売可能客室1室あたり営業総利益)で「稼ぐ力」や「残る力」を見ます。言い換えると——埋めるだけでは足りない。いくらで埋めるか、いくら残すかが肝。用語の中身は後で噛み砕くので、まずは「売上はかけ算、利益は引き算」と置いてください。
指標の芯——ADR・稼働率・RevPAR・GOPPAR
- ADR(平均客室単価):売れた客室の平均価格。客室売上÷売れた室数。単価の“質”を測る物差しです。
- 稼働率:全部の客室のうち、何%が売れたか。
- RevPAR:ADR×稼働率でも計算できる、販売可能な全客室に対する売上の濃度。空室も含めて“ホテル全体の収益力”を見る指標。
- GOPPAR:売上から運営コストを引いた営業総利益を、販売可能客室で割ったもの。つまり「どれだけ残せたか」。収益の最終形を追うとここに行き着きます。
例(100室のホテル):
ADRが15,000円、稼働率80%なら客室売上は 15,000×80室=120万円/日。RevPARは 15,000×0.8=12,000円。ここからコストを引いて、GOPPARが決まる——という流れ。
コストの内訳——「固定」と「変動」を分けて考える
ホテルのコストは大きく固定費と変動費。
- 固定費:フロントやバックオフィスの人件費のベース、家賃・減価償却、基本電力、保守。満室でも半分でも、ほぼ一定。
- 変動費:清掃(客室1室ごと)、消耗品、朝食の食材、追加の水道・電気、そしてOTA手数料など。売れるほど増えます。
特にオンライン販売が主流の今は、OTA手数料(10〜20%が一般的、追加オプションでさらに上振れ)が変動費の大きな塊。単価が同じでも、“どの販路で売れたか”で手取りが変わるのが落とし穴です。
さらに、ここ数年はエネルギー費や人件費の上昇圧力が話題の中心。電気料金などの上昇がCPIでも確認され、ホテル事業者アンケートでもエネルギー費が重要課題として挙げられています。つまり、「埋まったら勝ち」ではなく、コストの階段を一段ずつ見にいく姿勢が必要。
現場で使える“ざっくり式”—損益分岐と「悪い満室」を避ける
1)ざっくり損益分岐
固定費をF、1室売れるたびにかかる変動費をv、ADRをp、販売可能室数をN、稼働率をrとします。
- 1日の粗利 ≒ (p − v) × (N × r) − F
この式で、p(単価)・r(稼働)・v(変動費)のどれを動かすと効くかが見えます。清掃外注やアメニティ見直しでvが下がれば、同じ稼働でも残りが増える。逆に安売りは*(p − v)*を削るので、稼働を上げても利益が薄くなりやすい。
2)「悪い満室」を見分ける
満室なのに疲れるだけ、という日があります。典型は単価を落としてOT A比率が高い満室。手数料を引いたネット単価で見ると、“埋めたはずなのにRevPARが伸びない”現象が起きます。販売チャネルを分散し、自社公式(手数料ゼロに近い)の比率をじわっと上げるだけで、同じ稼働でも利益は変わります。
3)価格と原価の“距離”を保つ
「需要が強いから上げる」ではなく、上げ幅 ≥ 原価の上げ幅が基本。たとえばエネルギー・人件費の上昇が気になる局面では、“人気日”は思い切って単価を上げる、谷日は値下げしつつも変動費を抑える運用(清掃頻度や朝食原価の設計、在庫の絞り方)でバランスを取る。RevPARではなくGOPPARで見るクセがつくと、「売上は増えたけど疲弊する」から抜けやすくなります。
ここまでの要点はひとつ——売上のかけ算を、コストの引き算で台無しにしない。指標の役割を整理すると、
- ADR・稼働率:売り方の“現在地”
- RevPAR:在庫全体での“濃度”
- GOPPAR:最後に“何が残ったか”
この3層で見るだけで、値付け・販路・人員の打ち手は自然にシンプルになります。次は、旅行者側のコスパ最適化。行動経済学の「行列=価値」バイアスに飲まれず、平日・時間ずらしで良い体験を取るコツをまとめます。
行列に価値を感じない——“ずらし”でコスパを取りにいく

人は、行列を見ると「人気=価値が高い」と思いがちです。これが行列=価値バイアス。ホテルも同じで、「満室表示=良い日」と錯覚しやすい。でも、実態は“良い日”は運営がラクでコストが乗りやすい日。だから価格も強気になりやすい。旅行者の勝ち筋はシンプルで、日にち・時間・場所をずらすこと。この3つの“ずらし”を使うだけで、同じ予算でもグレードが1段上がることが珍しくありません。
日にちをずらす——平日・肩シーズン・穴の曜日
- 火・水・木チェックインが効く
週末入りより競合が減りやすく、価格が落ち着きやすい。連泊の1泊目を平日に置くと、通しで値段がなだらかになります。 - 日曜泊は“下り坂”を拾う
土曜→日曜で一気に空室が出る都市が多い。同じホテルでも日曜だけ1〜2割安いことはよくある。 - 肩シーズンを狙う
ゴールデンウィークやお盆の1〜2週間前後は、気候はほぼ同じでも一気に取りやすくなる。祭や花火の翌週も穴。 - 台風・雨予報の“直前割”
雨=体験が下がるとは限りません。屋内スポット中心に組むなら、むしろ価格が緩むぶん快適。
時間をずらす——深夜着・早朝発・滞在の設計
- 遅めのチェックインで単価を下げる
到着を21時以降にずらすと、在庫が戻ってきて直前で値が落ちることがある。寝るだけ夜は“箱”にお金を積みすぎない。 - 早朝発で“片側だけ贅沢”
最終夜は空港近くの実用品ホテルに切り替える。前半だけビュー客室にして、全体の満足度を崩さずコストを削る。 - 連泊は“素泊まり+選択朝食”
全泊朝食付きより、1〜2日だけ朝食付きに。近所の店で食べ歩けば、旅の楽しみも増えるし原価の高い朝食代を削れる。
場所と買い方をずらす——第二候補地・販路・心理のワナ外し
- “第二列”の立地がねらい目
駅前・繁華街の1本裏、観光地の1駅となりは、徒歩や1区間の電車で体験はほぼ同じ。価格だけ2~3割軽いことがある。 - 公式サイトとOTAを見比べる
表示価格が同じでも、公式は特典(レイトチェックアウト・ドリンク)が付くことあり。ポイントより手取りの実額で比較。 - 返金可プランで“待つ”戦略
早めにキャンセル無料のプランを押さえ、値下がりしたら乗り換える。キャンセル期限だけは必ずカレンダーに入れる。 - アンカリングに注意
“上から順に高い部屋”の並べ方で基準(アンカー)がつり上がる。まずは総額(税・サービス料・リゾート料込み)で判断。 - 行列=価値の錯覚を外す
「売り切れ間近」「残り1室」表示は、在庫の一部枠の話だったりする。焦りより、別日・別時間・別エリアの代替案を即チェック。 - 目的に資源配分
“部屋で過ごす時間が長い旅”は部屋に投資、“外で遊ぶ旅”はアクセスと体験へ。お金の重心をずらすと満足の密度が上がる。
「混んでいる=価値がある」は、旅では半分だけ正しい。混む日は体験の密度も落ちやすく、価格は上がりがち。だから、日にち・時間・場所の3つを少しずらせば、同じ予算で景色が変わる。その裏には、運営側の都合(スタッフ配置、エネルギー費、在庫の偏り)があるだけ。数字の事情を知っていると、目の前の“満室”や“行列”に振り回されなくなります。ここまで来たら、最後はもう一歩だけ踏み込んで、なぜホテル代が高いのかを感情と数字の両面から結びます。


結論
旅が高く感じる理由は、景気やインバウンドの“熱”だけじゃない。舞台裏には、売り方のかけ算(稼働×ADR)と、運営の引き算(人件費・光熱・手数料)の綱引きがある。人が集中する日は、清掃やフロントの負荷が軽く見えても、深夜対応や多言語、外注費やエネルギー費が一斉に跳ねる。さらに販路がOTA中心だと、手数料で単価の余白が削られる。だから同じ“満室”でも、良い満室=ネット単価が高い満室と、悪い満室=安売りと手数料で目減りする満室に分かれる。
一方で、旅行者から見れば「価格が上がった」の裏に、混雑コスト(待ち・詰まり・選択肢の欠乏)まで乗っている。これを外す最短ルートが、平日・時間・場所のずらしだった。行列を避け、チェックインを遅らせ、第二列の立地を選ぶ。これだけで、同じ予算でも体験は一段クリアになる。
運営も旅行者も、目線は同じだ。“数字で判断して、感情で選ぶ”。数字は、今日いくらで売るか・どこにお金を置くかの羅針盤。感情は、誰と何を味わいたいかの核心。両方を揃えると、値段の高さが“損”ではなく、“納得した投資”に変わる。ホテル側はGOPPARで「残す力」を磨き、ゲストは総額と体験密度で選ぶ。値段は情報だ。情報を読めれば、必要以上に高くはならない。次の旅で、数字を味方に。あなたの一泊が、相場に流されず、自分の基準で気持ちよく決まるように。
深掘り:本紹介
もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。
観光”未”立国~ニッポンの現状
最新の訪日客数・消費額の更新状況を踏まえて、政策と現場のズレを整理。インバウンド潮流の全体像を掴む導入に最適。
数字でみる観光 2024年度版
観光指標の“白書的”年鑑。国・地域別動向や消費、宿泊統計の基礎データがまとまっており、記事内の数値検証やグラフづくりの土台になる。
観光の実態と志向 第43回〈令和6年度版〉
旅行者の嗜好・行動、時系列推移をまとめた定点レポート。平日・時間ずらしの仮説検証に役立つ“生の傾向”が取れる。
インバウンド対策完全マニュアル
中小事業者向けの実務書。SNS・多言語対応・販路など、現場オペと集客のやることが整理されている。ホテル/民泊の販路最適化やコスト意識にも接続しやすい。
図解即戦力 ホテル業界のしくみとビジネスがこれ1冊でわかる本
ホテルの収益構造、IT・DX、レベニュー管理の基本を図解で解説。ADR/RevPARやPMS×OTAの連携など、本文の会計パートを視覚で補強できる。
それでは、またっ!!

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