みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。
未使用チケット、あなたの会社では“誰のPL”を赤字にしましたか?
万博(大阪・関西、2025)は10月13日に閉幕。公式は「原則払い戻しなし」と明言しつつ、終盤は“未使用チケット”が話題になりました。企業がまとめ買いした分や、配布予定だった分が「眠っている」――さて、会計的にはそれ、どの貸借対照表(BS)のどこに乗ってるのか。結論から言うと、実務では大きく二択。「前払費用(流動資産)」として持ち続けているケースか、配布・使用のタイミングで「販売促進費/広告宣伝費」や「福利厚生費」に落として、BSからは消えているケースです。閉幕済みで使い切れなかった分は、価値のなくなった“体験の権利”。ここで起きるのが、いわば体験の減損――会計上は費用化(評価損・雑損等の処理)され、気持ちのうえでは“感情PL”の赤字が残る、という話です。
背景として、万博協会の発表・報道では、会期末まで未使用チケットの相当数が残る見込みが取り沙汰され、払い戻しは原則不可でした。実際、閉幕直前の告知でも「未使用券は当日券と交換可(=返金ではない)」が強調されています。つまり、会期終了後に“在庫のまま”残ったチケットは、現金化できない資産。だからこそ、BSに置きっぱなしにはできず、費用として落とす着地点になるわけです。
もう一つの論点は“最初の仕訳”。取引先に配る前提で買ったなら、国税の整理では交際費ではなく販売促進費/広告宣伝費として処理できるという特例的な位置づけが示されました。一方、従業員向けに配る場合は福利厚生費にできるが、全員配布などの公平性や、実際に使われたかの確認といった要件を満たす必要がある。ここをあいまいにして「とりあえず福利厚生」にすると、後で給与課税リスクに化けます。配布前は「前払費用」や「貯蔵品」などで資産計上→配布・使用で費用化、未使用のまま会期終了なら評価損で落とす――この流れを押さえておけば、決算でバタつきません。
この記事では、(1)BSでの置き場の選び方、(2)福利厚生と広告宣伝の線引き、(3)“体験の減損”が起きた後の後始末――この3点を、初心者向けにやさしくほどきます。最後には、“感情PL”を黒字に戻すための現場オペ(配布設計・証憑の残し方・監査での説明トーク)まで整理。会計は冷たいようで、実は人の動きに正直です。さて、あなたの会社のチケットは、いまどこに眠っていますか。
目次
BSでの“置き場”をはっきりさせる

配る前のチケットは、まず「費用」じゃなくて“権利の束”。だからBS(貸借対照表)側に寝かせるのが基本ラインです。実務でよく使う棚は2つ。「前払費用(流動資産)」か「貯蔵品」。呼び方は社内ルール次第でも、意味は同じで“まだ使っていないから資産”という整理。ここで迷うと決算期末にグダるので、購買の瞬間に置き場を決め打ちしておくのが平和です。なお、万博側の公式FAQは原則払戻しなしを明言していたので、“現金化できる在庫”と勘違いしないこと。換金性はほぼゼロ=会期終了後は資産性が消える前提で扱います。
じゃあいつ費用に落ちるか。ここは“用途とタイミング”で分かれます。①取引先に配る=販売促進/広告宣伝。単独のチケット配布なら交際費ではなく販促費としてOKという整理が、愛・地球博の文書回答で示され、万博協会も同様取り扱いを案内しています。②社員に配る=福利厚生費。慰安・レクリエーション目的ならチケット代や通常要する旅費・宿泊費まで福利厚生でいける、というおなじみの線引き。つまり、配布して“使える状態にした時点”でBSからPLへ着地、が基本ムーブです。
ここで地雷になりがちなのが「とりあえず福利厚生で費用化したけど、実は招待は一部の部署だけ」みたいな不公平配布。福利厚生の名にふさわしい“全社的・一定の基準”がないと、給与課税リスクが顔を出します。配布範囲・抽選のルール・利用期限のアナウンスを紙で残す。誰に何枚渡したかを台帳化。ここまでやっておけば、福利厚生の“説明責任”は立ちます。一方、販促として配るなら、キャンペーン設計と証憑がカギ。告知ページ、当選通知、発送記録など“対外的な販促活動だった”と示す素材をひとまとめに。国税の照会事例も「販売促進目的のチケットのみ交付は交際費に当たらず販促費でOK」としています。
会期中の棚卸も忘れずに。電子チケットは“紙の束”がないぶん、IDベースの残数管理が命。購買(ID受領)→割当(部門・人へ)→使用(来場日時予約・入場実績)を、CSVでもいいのでトレースできる形で。とくに9月末の販売終了告知以降は、当日券化の交換窓口が限定的だったため、未使用のまま残るリスクが一気に上がりました。だからこそ、期中で消化見込みを見直し、配布条件を緩める/社内抽選を増やすなど、BSを軽くする打ち手を早めに回すのが吉でした。
そして閉幕後。ここで“体験の減損”が起きます。万博は10月13日で終了、未使用チケットは原則払戻し不可。つまり、“使える未来”が消えた瞬間に資産性ゼロ。BSに残っていた前払費用や貯蔵品は、評価損・雑損的な費用でPLに落とし、同時に社内の説明(なぜ残ったか/次回にどう活かすか)までワンセットで締める。会計だけ黒白つけても、社内の“感情PL”は赤字のまま。だから、決算仕訳と同じ熱量で、学びのドキュメントを残すのが後工程の価値になります。
最後にミニ・仕訳の目安を置いておきます。買ったとき:前払費用(または貯蔵品)/現預金。配ったとき(販促):販売促進費/前払費用。配ったとき(福利厚生):福利厚生費/前払費用。終わって未使用:評価損(または雑損)/前払費用。これだけでも、BSの“置き場迷子”はだいぶ防げます。あとは、用途別に費用科目を分ける、証憑をセットで残す、月次で残数を締める。この3点を守っていれば、監査からの“ツッコミ待ち”にも落ち着いて答えられます。
福利厚生か?販促か?—線引きと“証拠づくり”

「社員に配ったから福利厚生でしょ」「お客さま向けだから販促費でしょ」。気持ちはわかるけど、会計は“気持ち”では動きません。線引きは目的と配り方で決まります。ここを曖昧にすると、後で“給与課税リスク”や“交際費振替”が飛んできます。まずは国税の基本ルールをざっくり掴んで、次に証憑(エビデンス)の作り方を整える。最後に、万博チケット特有の注意点を踏まえた実務オペまでまとめます。
社員向け=福利厚生費の条件は「慰安・公平・業務外」
社員レクリエーションとしての取り扱いは、慰安目的で全社的・一定の基準で配布され、私的色が強すぎないことが前提。外形上“福利厚生”に見えても、部署限定・役職優遇・金銭との選択可などはNG寄りです。満たせないと給与課税になり、源泉・加算税まで波及することも。配布ルール(誰に・何枚・抽選or先着)/周知文面/参加実績の記録を残して「全員に開かれていた」事実を示すのが保険です。
取引先・一般向け=販促費(広告宣伝費)で落とす筋道
顧客・見込み客への配布は、“贈答”ではなく販売促進として処理できる道が明確にあります。地方博の文書回答事例では、入場券のみの交付は交際費等に当たらないと整理。つまり、販促キャンペーンの賞品や来場インセンティブでチケットを配るのは、交際費ではなく販促費でOKの論理が通ります。ここもエビデンスが命。企画趣旨、告知ページ、応募・抽選・発送ログ、当選通知、KPIレポートをひと束にしておけば、監査・税務の説明はスムーズです。
万博チケットならではの“落とし穴”と逃げ道
万博は原則払戻しなし。閉幕後も未使用なら現金化は無理筋です。終盤に当日券への交換枠が限定的に用意されましたが、枚数・期間とも限りがあり、実質的には“消化できる運用力”が問われました。だからこそ、福利厚生/販促どちらにせよ、早めの配布設計と残数モニタリングが重要。使い切れなかった分は、資産性が消えた時点で費用化(評価損・雑損など)へ落とす着地を準備しつつ、なぜ残ったかの振り返りを次の施策設計に接続するのが後味を良くします。
まとめると、目的(慰安か販促か)×配布設計(公平・公開性)×証憑の三点セットで線は引けます。迷ったら、「第三者に“そう見えるか”」でチェック。ルールは冷たいけれど、運用は人肌勝負。紙(データ)をちゃんと残しておけば、あなたの判断は強い。
“体験の減損”が起きた後の後始末

使い切れなかったチケットは、感覚的にはただの“残念”。でも実務はここからが本番です。BSからPLへ落とし切って、社内のモヤモヤ(=感情PLの赤字)もできるだけ回収する。手順を3レイヤーで並べます。むずかしい会計用語は避け、やることベースでどうぞ。
仕訳の締めと税務のケア
まずは会計処理をサクッと完了させる。
- やること:未使用分の残高を洗い出す → 会期終了日付で「評価損(または雑損)」に振替 → 明細(枚数・単価・金額)を台帳に残す。
- ポイント:福利厚生・販促で費用化済みのものは二重計上しない。まだBSにある分だけを落とす。
- 消費税の扱い:課税仕入にしていたなら、評価損で落とすこと自体はOK。ただし非課税・不課税になるわけではないので、仕入税額控除の要件(請求書・支払証憑)は引き続き必要。
- 社内配布と外部配布の境界:外部向けキャンペーン枠で未使用が出た場合、販促の一環としてのロスとして整理し、キャンペーン結果レポートに“未消化分”を明記しておくと税務説明が通りやすい。
監査・説明のトークトラックを用意する
数字の処理だけだと、毎年同じ失敗がループしがち。第三者(監査・税務・役員)に“筋が通って見える”話し方に揃える。
- 3枚の紙(データ)を準備:
- 「購入~割当~使用~未使用」までの枚数推移表(CSVでOK)
- 配布ポリシー(福利厚生 or 販促、対象と公平性、スケジュール)
- 反省メモ(なぜ残ったか/次回どう変えるか)
- よく聞かれる質問にテンプレで答えられるように:
- Q「なぜ払戻ししなかった?」→ A「規約上不可。当日券交換は試みたが、物理的に消化できる枠に限界」
- Q「給与課税の懸念は?」→ A「全社抽選・周知・実績の証憑あり。基準を満たす配布」
- Q「販促効果は?」→ A「応募数/来場誘発/CV などKPIと未消化率をセットで開示」
- 語尾は“断言+数字”で締める:「未使用は○○枚(○○円)。評価損で処理済み。次回は上限配布を△%縮小し、消化率95%を目標にします」。
次に活かす“運用デザイン”を更新する
ここが感情PLの黒字化ゾーン。同じ失敗を二度やらない仕組みに落とし込む。
- 在庫の“見える化”:Googleスプレッドシート等で、残数・割当・予約・入場実績を1シートに。週次で自動リマインド。
- 配布設計の工夫:
- 早期に“予約完了”をKPI化。配布=終了ではない。
- W配布(福利厚生→未使用ぶんを販促に転用)を最初から規程に入れておく。
- 使い切りの“最後の一押し”として、直前期の抽選回数を増やす/当日引換の運用担当を明確化。
- 費用対効果の定点観測:1枚あたりの実消化単価(=購入額÷実使用枚数)と、連動するKPI(来場・CV・商談化など)を毎週スナップショットで保存。意思決定が段違いに速くなる。
- リスクルール:一定日(例:閉幕1か月前)で消化見込みが80%未満なら、配布対象拡張・条件緩和を自動発動。人の勇気に頼らない。
未使用チケットはただの損ではなく、運用の穴を教えてくれる付箋です。BSとPLの後始末をすばやく終え、学びを“規程・テンプレ・ダッシュボード”に埋め込む。そこまでやれば、今回の赤字は次回の黒字の初期投資になります。
結論:BSを軽く、感情PLを黒字に戻す
万博チケットの話は、数字だけ見れば「資産→費用」への単純移動です。前払費用や貯蔵品に寝かせた権利が、配布・使用で販促費や福利厚生費に落ち、未使用のまま会期が終われば評価損で落ちる。仕訳は教科書どおり。けれど現場でつまずくのは、いつどの科目に落とすかの判断よりも、人の動きと段取りです。配布設計が遅れ、残数の見える化ができず、最後の一押しが決まらない。結果として、BSにも気持ちにも“重さ”が残る。ここが本質でした。
大事なのは、「体験は在庫にならない」という前提で動くこと。買った瞬間から消化の仕組みを一緒に設計する。福利厚生なら公平性と周知、販促なら目的とKPI、どちらでも残数のダッシュボードと証憑の束。これらは難解な会計理論ではなく、チェックリスト化できる運用です。使えなかった体験は、帳簿では評価損、心の中では“体験の減損”。でも、そこで学んだ「配布ルール」「在庫モニタ」「早期予約KPI」「自動トリガー」を次に埋め込めば、同じ失点は繰り返さない。会計は冷たい顔で、挑戦の学習曲線をちゃんと評価してくれます。
結局、問われているのはお金の使い方の品位です。誰の時間を、どんな場面で、どう動かしたかったのか――その設計図がある支出は、仕訳の行き先が決算前から決まっています。あなたの会社の未使用チケットが教えてくれた穴を、次の施策にそのまま縫い込む。BSは軽く、PLは締まり、そして“感情PL”も静かに黒字へ戻っていく。万博は終わっても、体験の設計はこれから上手くなる。会計は、その努力にちゃんと整合性を与える言語です。次のイベントでは、権利を“買う”だけでなく、体験を“設計する”ところまでが購買。その視点さえ持てれば、もう負け方はしません。
深掘り:本紹介
もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。
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