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Jindyです。
ユニクロは、なぜ“在庫”で勝ち続けられるの?
ユニクロを展開するファーストリテイリングが、またしても過去最高益を更新しようとしています。2025年8月期の連結売上収益は3兆4,000億円、純利益は4,100億円と見込まれ、いずれも過去最高を更新する勢いです。このブログでは、その驚異的な好業績の「種明かし」に迫ります。ただ数字を並べるだけではなく、「粗利率」「販管費率」「為替」という3つの視点から業績を分解し、ユニクロ躍進の秘密を読み解きます。さらに、デジタルSPA(製造小売業のデジタル改革)や在庫会計、そして為替感応度といった投資・会計目線も交え、他では語られない独自の分析をお届けします。
このブログを読むことで、あなたはユニクロが在庫管理を武器に利益をどう守り抜いているのか、その具体策を知ることができます。価格改定や需要予測の巧みな戦略、デジタル技術による効率化、そして円安という追い風をどうPL(損益)に取り込んでいるのかを理解できるでしょう。「在庫を制する者が利益を制す」と言えるビジネスの醍醐味を、一緒に覗いてみませんか?カジュアルな語り口で噛み砕いて解説しますので、20代~30代のビジネスパーソンの方も肩の力を抜いてお読みください。それでは早速、ユニクロ快進撃の舞台裏へと参りましょう。
目次
最高益のカラクリ:数字が語るユニクロ快進撃

ファーストリテイリングの好調さは、まず主要な財務指標の改善に如実に表れています。例えば2025年8月期上期(2024年9月~2025年2月)の連結決算では、売上総利益率(粗利率)が53.3%と前年同期比+0.4ポイント改善し、販管費率も36.5%と0.7ポイント低下しました。これは無駄な在庫を減らして商品一つひとつの利益率を高めたことや、増収によって広告宣伝費や人件費など販管費の売上比率を抑制できたことを意味します。実際、同社は有明プロジェクトと呼ばれるサプライチェーン改革を推進し、倉庫の自動化や店舗・EC在庫の一元管理、需要予測の高度化といったデジタル変革に数年前から取り組んできました。その成果がコスト効率の向上となって現れ、売上高の伸び以上に利益を押し上げているのです。
粗利率の改善についてもう少し踏み込んでみましょう。2024年8月期通期では粗利率50.8%と前期比で2.9ポイントも上昇しました。特に上期(秋冬)に粗利率が大きく向上した要因として、「売上動向に応じた発注のストップ&ゴーを徹底」したことが挙げられます。つまり、売れ行きを見ながら生産オーダーを機動的に止めたり出したりすることで、過剰な仕入れを防いだのです。これによりシーズン終盤の値下げロスが減り、在庫リスクを抑えて粗利を確保できました。また、「追加生産に使用するスポット為替レートの影響を低減」する工夫も奏功し、為替変動によるコスト増を最小限に抑えています(この点は後ほど「為替」のセクションで詳述します)。
一方、販管費率の低下も見逃せません。2024年8月期通期の販管費率は34.2%と0.5ポイント改善し、効率経営ぶりがうかがえます。特筆すべきは人件費の扱いです。ユニクロは近年、店舗スタッフの時給引き上げや正社員給与のベースアップなど人材投資を積極化しました。当然人件費総額は増えたのですが、店舗オペレーションの効率化による生産性向上でそれを吸収している点が注目されています。実際、人件費率は改善しています。社員一人あたりの報酬が上がっても、一人あたり売上高を大幅に伸ばすことでカバーできているのです。ユニクロではRFIDタグ導入による無人レジや在庫管理省力化など現場業務の自動化・省人化も進めており、これが従業員の生産性向上とコスト削減につながりました。2018年から商品タグにRFIDを貼り付け始めたことで、どの商品がどこにどれだけあるか瞬時に把握でき、生産・物流・販売の各工程で情報共有がスムーズになっています。その結果、在庫確認に要していた人手・時間・コストを大幅削減し、ヒューマンエラーの防止にも成功しました。このようにデジタル技術と業務改革によって販管費の効率化を図り、売上規模の拡大以上に利益率を高める構造を築いているのです。
以上のように、粗利率アップと販管費率ダウンという両輪がかみ合い、ユニクロの営業利益率は直近で16%台に達するまでになりました。ユニクロは世界約25か国に展開するSPA企業として、売上高でZARAのインディテックスやH&Mに次ぐ世界3位に位置しています。しかしその収益性は同業他社を凌駕しており、「高収益・高成長」を同時に実現している点が際立ちます。背景にあるのは、在庫や費用対効果に徹底してこだわる経営姿勢です。次章では、ユニクロが“在庫で勝つ”ために講じてきた具体策を掘り下げてみましょう。
在庫を制する者が利益を制す:デジタルSPAによる在庫戦略

アパレル業界では「在庫との闘い」が常につきまといます。流行変化や季節要因で商品が売れ残れば、値下げ処分や廃棄で利益を削ります。一方、在庫を絞りすぎると品切れで売上機会を逃す。このジレンマに対し、ユニクロは在庫リスク管理を武器に変え、粗利を守り抜く戦略を磨いてきました。その鍵となったのがデジタルSPAモデルの推進、すなわちサプライチェーン全体のデジタル化と需要予測の高度化です。
具体的には、2017年に始動した「有明プロジェクト」によってユニクロは情報製造小売業(Digital SPA)への大転換を図りました。商品企画から生産・物流・販売まで全プロセスをリアルタイムデータで繋ぎ、必要なものを必要なときに必要なだけ生産・配送・販売する――いわゆるEnd to Endの一元サプライチェーンを目指したのです。この改革により、生産リードタイムの短縮、在庫情報の即時共有、需要予測精度の向上などが進み、「売りながら作る」体制が整いつつあります。
こうした取り組みの成果は、在庫回転率の劇的な改善という数字にも表れています。ユニクロ事業の在庫回転率(年間に在庫が何回入れ替わるかを示す指標)は、2017年8月期の2.5回転から2024年8月期には3.1回転へと大きく向上しました。7年間で在庫効率が約24%良くなった計算で、同業他社と比べても際立つ改善です。「真のLifeWearを作り続けるための終わりなきプロジェクト」として進化する有明プロジェクトのもと、ユニクロは「ビジネスの成長と、無駄なものを作らない・運ばない・売らないの両立」を追求しています。お客様の声を起点に商品を企画し、必要なタイミングで必要な分だけ生産・供給する。この徹底によって在庫過多を防ぎ、値引き率も大幅に改善したのです。
実際、近年の好業績を支えたのは需要を読み切った適正在庫の確保でした。例えば2022年頃からの世界的な原材料高・円安局面では、ユニクロは大胆な価格改定に踏み切りつつも在庫リスク管理で利益を守りました。2022年6月には定番フリースを1,990円から2,990円へ約1.5倍に値上げするなど、大幅な価格改定を発表。企業努力だけでは吸収できないコスト増(原材料高騰や歴史的円安)が背景でしたが、値上げによって粗利益率の低下を最小限に留めています。また、それでも購買意欲が落ちないよう商品価値を磨き、マーケティング施策(感謝祭セールや話題性のあるコラボ企画など)で需要喚起に成功しました。結果として、在庫処分セールに過度に頼らずに済み、利益率を確保できたのです。
ユニクロの在庫戦略で特徴的なのは、「通年商品」の重視です。季節に左右されにくい定番商品(年間を通じて売れる商品)を増やし、その在庫を厚めに持つことで、冷夏や暖冬といった天候リスクに強いビジネスを実現しました。実際、日本国内ユニクロ事業では通年商品の在庫を十分に確保したことで季節外れの気温にも左右されず、通期を通して販売が好調だったといいます。例えば冬でもエアリズムやヒートテックなど定番インナーが売れ、夏でもフリースや薄手ダウンが想定外に動く、といった具合に、一年中“売れる商品”を途切れさせない戦略です。このおかげで、秋冬偏重だった収益構造が大きく変わりました。かつてユニクロは上期(秋冬)に稼ぎ下期(春夏)は失速する傾向がありましたが、今や春夏の柱商品を拡充しシーズン末まで戦略的に売れ筋在庫を残すことで、下期も利益を稼げる体質へと変革しています。実際、欧米や国内で下期(3~8月)でも営業利益率2ケタを継続的に出せるようになったとのことで、季節を問わず高収益を叩き出す企業となりました。
さらに、「必要な時に必要なだけ」の思想は在庫圧縮にも現れています。業績好調だった2023年8月期、ファーストリテイリングは前年比+0.3回と在庫回転率を改善させましたが、その理由は「好調な売上の一方で棚卸資産を圧縮したから」に他なりません。実際、同期の棚卸資産(在庫)は前期比で約366億円も削減されています。特に国内ユニクロ事業で在庫処分と発注コントロールを徹底し、その分だけ在庫を減らせたことが大きかった(約306億円減)と分析されています。売上が伸びても安易に在庫を積み増さず、むしろスリム化できるのは、需要予測の精度向上とサプライチェーンの柔軟性があってこそでしょう。
要するにユニクロは、「売れ残らせない工夫」と「売り逃さない工夫」を両立させることで在庫リスクを利益に転じています。無駄な在庫を極限まで減らしつつ、機会損失も最小限に抑える——この綱渡りを可能にしたのがデータ駆動型の経営と現場力の向上でした。デジタル技術を駆使した在庫管理と、現場の的確な発注判断(ストップ&ゴー)、これらが合わさり「在庫で勝つ企業」へと進化したのです。粗利率が改善し続けていることが何よりの証拠でしょう。裏を返せば、ファーストリテイリング柳井正会長が常々語る「在庫は悪(無駄)であり、機会でもある」という哲学を体現しているとも言えます。次のセクションでは、そんなユニクロの強さを後押しした“為替”という要素に目を向けてみましょう。
グローバル展開と為替の追い風:海外収益の威力

ユニクロ躍進の背景には、日本国内に留まらないグローバル展開の成功があります。同時に、為替相場の変動もうまく追い風に利用してきました。円安基調のここ数年、それがファーストリテイリングのPLにどう寄与したのか、一枚絵を描くつもりで整理してみましょう。
まず押さえておきたいのは、海外事業の比重増大です。2025年8月期の第3四半期累計(9ヶ月)で見ると、国内ユニクロ事業の営業利益が1,506億円であるのに対し、海外ユニクロ事業は2,406億円にも上ります。売上高でも国内約8,014億円に対し海外は1兆4,571億円と、もはや海外の方が規模が大きい状況です。つまりファストリ全体の利益の過半を海外ユニクロが稼いでいるのであり、円の為替レートによって円換算される利益額が大きく揺さぶられる構造になっています。
この構造をポジティブに働かせたのが、近年の歴史的円安です。例えば2024年7月に同社が業績予想を上方修正した際には「日本の弱い通貨が海外売上高の価値を押し上げた」と報じられました。実際、円安により海外で稼いだ利益を円に換算した際の金額が増えるため、見かけ上の収益は押し上げられます。2023年頃には1ドル=150円近い水準まで円安が進行し、ユニクロ米国事業などの円換算利益が膨らみました。また、円安はインバウンド(訪日観光客)需要の追い風にもなりました。日本国内のユニクロ店舗にとって、円安で割安感を感じた海外からの観光客が爆買いしてくれる効果です。その結果、2024年通期では下期(春夏)の国内ユニクロ売上に占める免税売上比率が約8%に達し、前期から倍増したといいます。同社も「9ヶ月間で免税売上比率が2倍になった」と述べており、円安が観光消費を強力に後押ししたことが数字に表れています。
では、為替は良いことづくめかというと、もちろんリスクもあります。為替感応度が高いということは、円高に振れれば逆風となり得るからです。ユニクロの場合、商品生産コストに占めるドル建て比率も高いため、急激な円安局面では調達コスト増にも見舞われます。実際、過去には為替ヘッジ(為替予約)でコスト上昇を緩和する一方、ヘッジが切れた後のコスト増が課題となったこともありました。しかし前述の通り、同社は追加生産時の為替レート影響を抑える工夫を凝らし、さらには必要に応じ価格改定も辞さない姿勢で乗り切っています。結果として、為替の荒波を受けつつも円安の恩恵を最大化し、デメリットはミニマムに抑える経営ができています。
その強さは、地域別の収益力にも現れています。海外ユニクロ事業は、米州・欧州・アジアのどの地域でも営業利益率15%超を達成するまでになりました。円安で利益が膨らむだけでなく、そもそもの現地通貨ベースでも高収益を上げている点が重要です。たとえば北米ユニクロは長年苦戦が続いていましたが、2023年に初の黒字化を果たし、その後はニューヨークやロサンゼルスだけでなく中西部や南部への出店拡大が奏功して25%以上の売上増を達成するまでに躍進しました。物流拠点の自動化によるコスト削減などで利益率向上にも成功し、今やグループの「成長の原動力」と評されています。欧州でも売上3割増・利益大幅増益となり、ユニクロのベーシック衣料が欧州消費者に再評価されブランド認知が拡大しています(ただし国際物流費高騰で粗利率はやや低下と課題も)。東南アジア・インド・オーストラリアでも定番商品から冬物までニーズに合わせた商品展開が奏功し、大幅な増収増益となりました。このように世界中でユニクロが高収益を上げていること自体が、日本円に換算したときの利益額を押し上げる土台になっています。
ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は「主だった市場でナンバーワンにならない限り真のグローバル企業にはなり得ない。各市場で売上1兆円を目指す」と語り、米国やインドなど巨大市場でのさらなる店舗拡大に意欲を示しています。毎年5000億円ずつ売上を伸ばせば数年で5兆円、そして将来的に10兆円も視野に入ると豪語するその姿は、円安という追い風がなくとも自力で成長を続けるという自信の表れでしょう。もっとも、為替の影響は今後も業績説明でセットで語られるテーマになるはずです。同社はIR資料で為替感応度(1円の円高・円安が営業利益に与える影響額)も開示していますが、その数字以上に、実際には円安メリットを存分に享受してきたと言えます。弱い円をプラスに変える力——それもまたユニクロという企業の強さを象徴するエピソードではないでしょうか。


結論:在庫と未来を握るもの
ユニクロ“最高益街道”の種明かしとして、粗利率・販管費率・為替の3側面から見てきました。そこから浮かび上がったのは、「在庫」を制御することの圧倒的な威力です。適正在庫を追求し無駄を省くことで高い粗利率を実現し、同時に需要を逃さない在庫確保で成長を取りこぼさない。そして在庫と並んで重要な「人」にも投資を惜しまず、生産性向上でコストを打ち消す。ファーストリテイリングは、数字の裏にこうした経営努力を透かし見せてくれました。
投資家やビジネスパーソンの目線で振り返ると、ユニクロの物語は非常に示唆に富みます。粗利率の改善に映る影は、地道な供給チェーン改革と勇気ある価格戦略の賜物でした。販管費率の低下に宿るものは、社員一人ひとりの生産性向上とデジタル技術の融合でした。そして為替の追い風を受けて大海原を進むその船は、グローバル市場で培った強靭なエンジン(ブランド力と収益力)を備えていました。どの要素も一朝一夕に成し遂げられるものではなく、長年にわたる執念とも言える取り組みの成果です。
「企業として利益を追求するのは当然だが、社会への貢献とイコールになることが大切だ」という柳井会長の言葉が報じられています。無駄を省き、本当に良い商品だけを必要な分だけ届けるユニクロのビジネスモデルは、環境や社会にも配慮したサステナブル経営への道にも通じます。在庫を適正化することは廃棄ロス削減につながり、効率経営は余剰な資源の浪費を防ぎます。ただ儲けるだけでなく、その先にある社会的価値にも目を向けている点で、ユニクロの挑戦は単なる企業の成功物語を超えた意義を帯びているように思えます。
最後に、本稿のタイトルを改めて噛みしめてみましょう。「在庫で勝つ企業──粗利率・販管費率・為替を分解すると見える景色」。数字の奥にあった景色とは、在庫を制しデジタルを駆使し世界を舞台に戦う、ユニクロの躍動する姿でした。常識を覆す発想と徹底した執行力で、新しい産業モデルを切り拓くその姿は、私たち読者にも大きな刺激を与えてくれます。在庫という名の羅針盤を自在に操り、10兆円という地平をも見据えるユニクロ。その航路の先には、どんな未来の景色が広がっているのでしょうか。最高益を塗り替え続ける企業の物語は、これからも私たちに驚きと感動を届けてくれるに違いありません。
深掘り:本紹介
もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。
ユニクロ
創業からグローバル展開までを一次取材で描く最新ノンフィクション。柳井正の意思決定、デジタルSPA化、有明プロジェクトの裏側などがまとまっており、記事のストーリー補強に最適。海外戦略と収益モデルの変遷を押さえる導入書としても有効です。
図解でわかる 在庫管理の基本としくみ
発注点・安全在庫・在庫回転率などの定石を図解で整理。値引きロスの抑制や「売れ残らせない×売り逃さない」在庫設計の基礎式を復習でき、ブログの粗利率パート(在庫×値下げ管理)の理論面を支えます。
需給インテリジェンスで意思決定を進化させる サプライチェーンの計画と分析
需要予測・在庫最適化・S&OP(販売在庫計画)をデータサイエンス視点で体系化。「需給精度×在庫リスク管理」の実務フレームを補完でき、記事の“デジタルSPA×需給精度”の根拠資料として相性抜群です。
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外貨換算・ヘッジ会計・超インフレ会計まで網羅。海外子会社の利益が円換算でPLに落ちる“経路”や、為替感応度の会計処理上の論点を確認でき、ブログの「為替がPLに落ちる一枚絵」を実務的に裏づけます。
価格のマネジメント ― 戦略・分析・意思決定・実践
価格の弾力性、価値ベース価格、価格差別、ダイナミックプライシング等を網羅した最新の決定版。ユニクロの価格改定を“値づけの教科書”として分析する際の理論参照に有用です。
それでは、またっ!!

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