守りのCAPEX、攻めのR&D──境界線はどこにある?

みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。

その“安心料”、あなたの心の台帳では投資?それともただの出費?

あなたはネットショッピングで「ちゃんと安全かな?」と不安になった経験はありませんか?個人情報やカード情報が漏れたら…と心配しつつも、「有名なサービスだから大丈夫だろう」と信じて買い物を続けているかもしれません。その“信頼”や“安心感”には、一体どんなコストや価値が隠れているのでしょうか。本ブログでは、そんな「ネット購買の安心コスト」をひも解いていきます。

昨今、大手IT企業の情報漏えい事件が相次ぎ、企業はセキュリティ対策に巨額の費用を投じています。例えば2023年秋、日本の巨大プラットフォーム企業「LINEヤフー」では、システムへの不正アクセスにより約51万9000件もの個人情報が流出する事件が起きました。国から厳しい行政指導を受けた同社は、再発防止のため2024年度だけで約150億円ものセキュリティ対策費用を計上する計画を打ち出していました。この150億円という金額、あなたには「ただの出費」に映るでしょうか?それとも将来への「投資」と感じるでしょうか?

本記事を読むことで、セキュリティ費用は“費用”なのか“投資”なのか?という視点から、企業の守りと攻めの戦略を考えるヒントが得られます。さらに、企業がお金をかける「安全対策」と私たち消費者の感じる「安心」がどのようにつながり、私たち自身が心の中でどんな“お金の計算”をしているのか(心理会計)も見えてきます。日々ネットで買い物を楽しむ20~30代の社会人のみなさんにとって、安全なネット購買の裏側にある会計と投資のドラマを知ることで、安心してデジタル時代を生き抜く目利き力が身につくでしょう。それでは、そのドラマの幕を開けます!

情報漏えい事件が問いかける「セキュリティ費用=費用?それとも投資?」

2023年のLINEヤフー個人情報流出事件は、企業のセキュリティ意識と会計処理の在り方に大きな問いを投げかけました。約52万件にも及ぶユーザー情報が漏洩するという事態に、所管の総務省も「日本のインフラ企業とも言える規模なのに、そんな程度のセキュリティ対策で大丈夫か」という趣旨で強い危機感を示しました。事実、同社は親会社の韓国NAVER社とのシステム共通化が一因だったため、総務省からは資本関係見直しまで踏み込んだ指導を受けています。これを受けLINEヤフーは、2026年末までに認証基盤をNAVERと切り離し、委託関係も終了・縮小する計画を発表しました。つまり、同社は抜本的なセキュリティ強化に乗り出し、その費用として150億円規模の支出を決断したのです。

150億円という莫大なセキュリティ対策費用は、一見すると「不祥事の後始末」にかかるコストです。しかし、それは将来の安心のための先行投資とも捉えられます。実際、LINEヤフーはこの対策費用を捻出するため、一部サービスの展開を延期しました。例えば本来2024年度に予定していたLINEとPayPayのアカウント連携も「セキュリティ強化策を先行させる」ために見直しが行われ、事実上の延期となりました。短期的なビジネス拡大(攻め)よりも、ユーザーの信頼回復(守り)を優先した形です。この判断には、「セキュリティ対策は経営問題だ」という専門家の指摘も背景にあったのでしょう。

では、この150億円は会計上どのように扱われるのでしょうか?企業の経理担当者にとって頭を悩ませるのが、セキュリティ強化費用を資産(CAPEX)として計上すべきか、それとも費用(OPEX)として即時処理すべきかという判断です。一般的な会計ルールでは、ソフトウェアやシステム導入費用は購入額が10万円以上で利用期間が1年以上のものは無形固定資産として資産計上し、耐用年数に応じて減価償却します。例えば「25万円の業務ソフトを購入し、5年で償却する」といったケースですね。一方、10万円未満のセキュリティソフトや短期的なサービス利用料は消耗品費などとして全額をその年の経費にします。この基準に従えば、LINEヤフーが講じる対策の中でも、新たに構築する認証システムやセキュリティ設備などは資産(無形資産やサーバーなどの有形資産)となり、数年間にわたって償却していく可能性があります。つまり、同じ「セキュリティ対策費」でも、内容次第で“資産=未来への投資”として扱われる部分があるわけです。

もっとも、企業会計で資産計上できない費用(例えば従業員のセキュリティ研修費や緊急対応の外部コンサル費用など)は、その期の損益を直接圧迫します。しかし経営的な視点では、たとえ費用処理であっても「顧客情報を守るための支出」は将来の損失(ブランド毀損や罰金)を未然に防ぐ投資と考えられます。情報漏えいが起これば、社会的信用の低下だけでなく売上の低迷や株価下落など深刻な金銭的損失につながるリスクがあります。実際に情報漏えい事件は顧客離れや取引先からの契約打ち切りを招き、業績悪化をもたらすとも言われます。LINEヤフーのケースでも、もし十分な対策を怠ればユーザー離れやサービス離脱が起き、150億円どころではない損失を被ったでしょう。ですから、「セキュリティ費用=単なるコスト」と割り切ってしまうと見えない将来損失を招きかねず、逆に「将来の損失を防ぐ保険」と考えれば立派な投資なのです。

こうした背景から、このセクションの問い「セキュリティ費用は費用か投資か?」に対する答えは一筋縄ではいきません。会計上はルールに沿って処理しつつも、経営上は「守りのCAPEX」(防御のための資本的支出)と捉えて中長期的視野で判断する必要があるでしょう。守りの投資を怠れば、結局は攻めの芽(事業拡大の機会)を摘んでしまうかもしれません。実際、日本企業の多くでセキュリティ予算は「保険的コスト」として最小限に留められがちで、新しい対策導入を提案しても経営層から「で、それで売上はいくら上がるの?」と問い詰められる、なんて話も珍しくありません。そうして予算が確保できないまま場当たり的な対策に終始し、万一の際にDX(デジタル変革)も止まってしまうという悪循環さえ指摘されています。LINEヤフーの決断は、その悪循環を断ち切るための「必要な投資」だったとも言えるでしょう。

安心感はこうして売上に貢献する~“信頼”への投資リターン

企業がセキュリティにお金をかける理由は、罰則回避や損害防止だけではありません。お客様に安心して使ってもらうこと自体が、実は売上に直結する大切な要素だからです。私たちユーザー側の視点で考えてみましょう。見知らぬECサイトで買い物するとき、価格がいくら安くてもサイトの安全性に不安があれば購入をためらいますよね。逆に、名前を知っていてセキュリティもしっかりしていそうな有名サイトなら、多少値段が高くても「ここなら信頼できるから買おう」と思うのではないでしょうか。実際、ユーザーは商品の価格や品質と同じくらいに「ネットショップへの安心感」を重視しており、それが購買の決め手になるケースも多いのです。ある調査でも「あのショップなら安心して買える」という信頼感が生まれれば自然と購入率が高まると報告されています。

では、その「安心感」は具体的に売上にどう影響するのでしょうか。例えばあなたがネット通販で買い物をするときの心の動きを思い描いてみてください。A社とB社、同じ商品を扱うサイトが二つあり、一方(A社)はセキュリティ万全で有名、もう一方(B社)は聞いたことがなく情報管理が心配だとします。仮にB社のほうが数百円安くても、多くの人はA社を選ぶのではないでしょうか。その数百円の差額こそ、心理的には「安心料」に他なりません。人は頭の中でお金を使い道ごとに分類する「心理会計(メンタルアカウンティング)」という習性があり、安全・信頼に対して支払うお金は商品の値段とは別枠で考えている節があります。「多少高くても安心を買う」という判断は、まさに心の中で『安心費用』の勘定科目を作って支払っているようなものなのです。

こうした消費者心理を裏付けるかのように、企業にとってセキュリティの充実はブランド価値向上と顧客維持に直結するとされています。先述のLINEヤフーが巨額を投じてでもセキュリティ強化を急ぐ背景には、利用者に再び安心してサービスを使ってもらい信頼を取り戻す狙いがあるでしょう。情報漏えい後にユーザーの信頼を回復できなければ、サービス離れによる売上減少は避けられません。逆に、迅速な対応と十分な投資で「もう大丈夫」という安心感を提供できれば、ユーザー離れを最小限に食い止められる可能性があります。事実、情報漏えいが発生すると企業の社会的信用は急落し売上が低迷するリスクがあるため、各社は喉から手が出るほど「信頼回復」が欲しいのです。

また、セキュリティ対策そのものが付加価値となり売上拡大につながるケースもあります。最近では「セキュリティのしっかりした企業だから取引したい」といったBtoBの選定基準も増えており、堅牢なセキュリティ体制をアピールすることがビジネスチャンス獲得につながることもあります。例えばクラウドサービス提供企業が自社のセキュリティ認証(ISOやSOC2等)を取得し公開することで、「安全だからこのサービスを採用しよう」と顧客企業に選ばれる、といった具合です。高度なセキュリティ対策は「信頼できる企業」というブランドイメージを確立し、選ばれる理由になり得るのです。これはBtoCでも同様で、消費者向けサービスでも「プライバシーに配慮している」「不正利用保障が充実している」などのポイントが他社との差別化になります。

現に、日本のEC業界全体を見ても多くの事業者がセキュリティ強化に取り組んでいます。ある四半期レポートによれば、EC事業者の77.8%が不正注文や不正アクセスへの対策を実施しており、特にクレジットカード決済では本人認証の「3Dセキュア」が主流になっているそうです。これは裏を返せば2割強の事業者は明確な対策がまだということでもありますが、少なくとも業界全体で「安心感のある購買体験」を提供することが重視されている証拠と言えます。ユーザー側も、便利さや価格以上に「ここは安全か?」を敏感に感じ取っています。実店舗と違い顔の見えないネット取引では、サービス提供者への漠然とした不信感が少しでもあると購買意欲は一気にしぼんでしまうものです。だからこそ、企業はこぞってセキュリティに投資し、“安心という見えない商品”をユーザーに届けているのです。

まとめると、セキュリティへの支出は顧客からの信頼という形でリターンを生み、売上や継続利用に貢献するのです。安心感を提供できる企業はリピーターを獲得しやすく、ファンを育てることにもつながります。企業にとってセキュリティ費用は、単なる保険ではなく「顧客への約束を守るための投資」であり、その約束が果たされるとき初めて収益として返ってくる、いわばじっくり熟成型の投資なのかもしれません。

境界線は心の中に──攻守一体の戦略と心理会計で見る安心コスト

「守りのCAPEX、攻めのR&D──境界線はどこにある?」という本稿のタイトルに込めた疑問。それはつまり、防御のための投資と攻勢のための投資を本当に分けて考えられるのか?ということです。ここまで見てきたように、企業がセキュリティに投じるお金は守りであると同時に攻めの土台でもあります。強固なセキュリティ基盤なくして、新サービスの展開やDXの推進(攻め)は成り立たないのが現代ビジネスの実情です。逆に言えば、守りへの投資をきちんとしておけば、新しいテクノロジーを導入する際にもリスクを恐れすぎずに済み、スピーディーにビジネスを動かせます。セキュリティ部門が「リスクが怖いからノー」と言ってDXを遅らせてしまう悪循環を断つには、経営層とセキュリティ担当が同じビジョン(攻めと守りの両立による価値向上)を共有することが不可欠なのでしょう。

実際、多くの企業がセキュリティ投資のROI(投資対効果)を見える化しようと工夫し始めています。たとえばセキュリティ施策によってどれだけ損失を防げたか(被害額換算)や、セキュリティを売りにすることでどれだけ売上が増加したかなどを定量化し、経営層に示す取り組みです。中にはセキュリティ投資によって116%のROIを達成したというような報告もあり、工夫次第では「コストセンターからプロフィットセンターへ」と意識転換できる余地があります。ポイントは、セキュリティの価値を「何も起こらない守り」だけでなく「新たなビジネス機会創出の武器」と捉える発想の転換です。パロアルトネットワークス社の社長による記事では、セキュリティをプラットフォーム化(統合基盤化)することで運用効率を上げつつ事業への貢献度も高め、“脱コストセンター”を実現するステップが紹介されています。そこでは「堅牢なセキュリティは顧客からの信頼を獲得し、新たなビジネスチャンスを創出する強力な武器になり得る」と強調されています。まさに守りと攻めを両立させる戦略こそ、現代の経営に求められる新常識なのかもしれません。

では、その境界線は一体どこにあるのでしょう?筆者の考えでは、境界線は明確に線引きできるものではなく、「心の中」に存在するように思います。どういうことかと言うと、結局は経営者や担当者がその支出をどう捉えるかで意味合いが変わってくるということです。仮に同じ100万円のセキュリティ費用でも、「ただの経費」と捉えればその場限りで消えていくだけですが、「顧客信頼という無形資産への投資」と捉えれば未来への財産になります。行動経済学者リチャード・セイラーの提唱した心理会計の話を思い出してください。人は心の中でお金に“ラベル”を貼って管理しています。同じ100万円でも、「売上アップのための広告費」なら喜んで出すのに「セキュリティ対策費」だと渋ってしまう経営者もいるでしょう。それは頭の中でセキュリティ費用を“攻めとは別のお金”と認識しているからです。しかし、ここまで述べてきたようにセキュリティ費用は立派に売上アップや事業継続を支えるお金です。であるなら、心の中の分類を変えて「セキュリティ費用=攻めを支える戦略投資」と位置づけるだけで、そのお金の活き方は大きく変わるはずです。

同じことは私たち消費者の心にも言えます。先ほどの心理会計の例で、安心のために多少高い店を選ぶ話がありました。あれは言い換えれば、消費者が心の中で「安心料」を予算化しているということでした。企業側もまた、心の中で「安心投資」の枠をちゃんと設けてあげれば、セキュリティ費用にポジティブな意味を見いだせるのではないでしょうか。「守りのCAPEX」と「攻めのR&D」の境界線は、実は最初から曖昧で、両者は補完し合う関係にあります。守りに使った資本的支出(CAPEX)は攻めの基盤になり、攻めのための研究開発(R&D)は守りの強化を求める──そんな双方向の効果があるからこそ、境界線はシームレスに繋がっているのです。

結論:安心という無形資産へのエール

セキュリティ費用を「費用」か「投資」かと問えば、その答えは「見る角度次第でどちらにもなる」が本当のところでしょう。しかし本稿を通じて一貫して浮かび上がったのは、安心・信頼という無形資産の価値です。企業は会計上、その無形資産を貸借対照表に載せることはできません。でも、私たち消費者の心の中には確かに“信頼残高”というものが存在し、それが企業と顧客の関係を支えています。企業がセキュリティにお金をかけるのは、単にデータを守るためだけでなく、その信頼残高を減らさず、むしろ増やしていくための投資なのだと思います。

最後に少し感傷的な例えをさせてください。頑丈な橋を架ける職人たちの姿を思い浮かべてみましょう。橋桁を補強し、見えないところにお金と労力を注ぎ込む作業は、一見地味でお金の無駄遣いに映るかもしれません。でも、その橋を毎日安心して渡る人々にとって、見えない部分への投資こそが命綱であり、豊かな日常への架け橋です。ネットの世界でも同じように、企業が見えないところで積み上げるセキュリティへの投資が、私たち一人ひとりの安心な生活を下支えしています。

守りのCAPEXも攻めのR&Dも、本質的には未来への投資という点で違いはありません。境界線はどこにあるか?――それは私たちの心の持ちようにあります。企業が「守り=ユーザーへの愛、攻め=未来への夢」と捉えてお金を使い、私たち消費者もその安心を正しく評価できれば、もはや守りと攻めを隔てる線はぼやけていくでしょう。セキュリティ費用という名の見えない架け橋を渡って、企業とユーザーが信頼で固く結ばれる世界。その実現こそが、私たちがこのブログを通じて描いた未来図です。守りも攻めも味方にして、安心して何度でも読み返したくなる物語を、私たち一人ひとりが紡いでいけたら素敵ですね。安心という名の無形資産に、これからもエールを送りつづけましょう。

深掘り:本紹介

もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。

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