席は同じ、値段は別世界:運賃リニューアルが航空会社のPLを変える

みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。 

席は同じなのに、なぜあなたの航空券だけ高いの?

飛行機に乗るとき、隣の席の乗客と自分がまったく違う運賃を支払っているかもしれない――そんな経験はありませんか?実はそれこそが航空業界の巧みな価格戦略、「価格差別」の真骨頂です。航空会社は同じ座席を人によって異なる価格で販売し、その科学的な値付けこそが利益の源泉になっています。本ブログでは、2026年5月19日搭乗分から始まるANA国内線運賃リニューアルを題材に、この「座席は同じでも値段は別世界」な仕組みを徹底解説します。

まず、航空運賃の背後にある価格差別(差別的価格戦略)やダイナミックプライシングの考え方を紐解きます。なぜ同じ機内で運賃がバラバラなのか? その疑問に答え、航空会社の収益構造や経営戦略との関係を明らかにします。次に、ANAが打ち出した国内線運賃の大刷新の内容を詳しく見ていきましょう。「シンプル」「スタンダード」「フレックス」という新しい3つの運賃タイプとは何か、それによって旅のルールがどう変わるのかを整理します。さらに、この運賃改定が私たち乗客のメリット・デメリットだけでなく、航空会社の業績(PL:損益計算書)にどんな影響を及ぼすのかを、投資や会計の視点も交えて深掘りします。

読み終えれば、あなたは航空券の価格設定の裏側にある戦略を理解し、「なぜあの人と自分の航空券代は違うのか?」を説明できるようになるでしょう。 また、航空会社が運賃体系を見直す意図や、それがサービス・マイル・利益にどう波及するかを知ることで、ビジネス戦略の面白さも感じてもらえるはずです。社会人として日常の旅行や出張をより賢く、そして投資家目線でも航空業界を楽しめる知識が身につきます。では離陸しましょう。同じ空の旅でも「値段の別世界」を生み出す秘密を、一緒に探っていきましょう!

航空運賃のカラクリ – 同じ席が違う値段になる理由

航空業界の価格差別戦略とは何か?

航空業界では昔から「顧客を差別的に扱え」という戦略が当たり前のように存在します。ここで言う「差別」とはもちろん不公平な意味ではなく、顧客ごとに異なる価格やサービスを提供するマーケティング戦略のことです。例えば、ビジネスクラスやファーストクラスの乗客には広い座席や充実した機内サービスを提供し高価格を支払ってもらう一方、エコノミークラスの乗客にはサービスを絞り込んで低価格でも利用しやすくする、といった具合です。これは価格差別(価格差異化)戦略とも呼ばれ、企業は顧客のニーズや支払い意思額に応じて価格帯を細かく設定します。航空会社ほど乗客を明確に分け隔てし、それが広く受け入れられている業界も珍しいでしょう。実際、上級会員にはラウンジや優先搭乗、機内でも無料サービスといった特典が与えられ、そうでない顧客との差別化が徹底されています。このように「支払ってもいい」人からは高く、価格重視の人には安く提供することで、航空会社は幅広い顧客層を取り込みつつ全体の収益を最大化しているのです。

航空券の価格差別にはいくつかの層があります。購入時期による差(早期割引運賃vs直前運賃)、席のクラスによる差(エコノミーvsビジネスvsファースト)、柔軟性による差(変更不可な割引券vs当日変更可能なフレックス運賃)などです。それぞれの層で高い需要(=より高い価格を支払ってでも柔軟性や快適さを求める顧客)には高価格の商品を、低い需要(=安ければ利用したい顧客)には制約付きで低価格の商品を提供しています。ミクロ経済学的に言えば、企業は消費者ごとの価格弾力性を見極め、需要の高い人には高い料金を提示し、そうでない人には低い料金で販売することで、消費者余剰を収益として取り込むわけです。そのため、航空会社はエコノミークラスの座席間隔など「快適さ」を必要以上に良くしないこともあります。なぜなら、エコノミーを快適にしすぎると本来ビジネスクラスにお金を払ってくれるお客様まで安いエコノミーに流れてしまうからです。エコノミーの狭さやサービスの簡素さでさえも、実は価格差別戦略の一環なのです。「不便を我慢すれば安く、快適さを買いたければ高く」という明確な差をつけることで、高収益客からの利益を守りつつ、低価格帯の顧客も取り込むバランスを取っています。

同じフライトで運賃がバラバラな理由 – レベニューマネジメントの威力

あなたが搭乗する飛行機の中では、乗客ごとに支払った運賃が異なることが普通に起こっています。その背後にあるのがレベニューマネジメント(収益管理)という考え方です。飛行機という商品は座席数に限りがあり、出発してしまえば在庫(席)は売れ残りになる特殊な性質を持ちます。そこで航空会社は、席が埋まるタイミングや需要を予測して価格を機敏に変動させ、1便あたりの収入を最大化しようとします。これがダイナミックプライシングの原理です。

例えば、平日の昼間など需要の低い便では運賃を下げてでも席を埋め、人気の連休や出張ピーク時には運賃を高めに設定して限られた席から最大の収入を得る、という調整が行われます。同じ東京〜福岡のフライトでも、いつ・誰が・どの条件で買うかによって1万円台から数万円台まで価格が動くのです。航空会社にとって重要なのは、全席を安売りして満席にすることでも、逆に高値設定で空席を飛ばすことでもなく、安い席から高い席までバランスよく販売してトータルの収益を最大化することです。

ここで鍵となるのが需要予測ブッキングコントロールです。航空会社は過去の予約動向や季節要因、競合他社の動きなどから需要を予測し、運賃ごとに販売席数の上限を設定します。「早期割引運賃は各便◯席まで」「一定日数前に埋まったら割引終了」など細かいコントロールをすることで、早くから安価で埋めつつ、直前の高需要客には高い運賃枠を残すということを行っています。従来は「75日前までの予約なら〇〇運賃」「28日前までなら〇〇割引」など購入期限型の割引が多く、購入時期によって明確な価格階層を作っていました。しかし近年ではITの進歩でリアルタイムに空席数や需要を分析し、期限に関係なく空席状況に応じて価格が変動する方式に移行しています。これが狭義の「ダイナミックプライシング」であり、まさに2026年からANA国内線にも本格導入される仕組みです。

ダイナミックプライシングでは、「早く買えば必ず安い」とは限りません。早期でも需要が高ければ値下げしませんし、逆に出発間近でも空席が多ければ値下げすることもあります。価格は需要と連動し常に最新の相場で変動するため、消費者側から見ると少々ギャンブル性もあります。しかし航空会社からすれば、一律の早割よりも細かく需要に合わせて値付けできる分、機会損失を減らせるのです。座席という限りある資産を最大限お金に換えるために、緻密なアルゴリズムと販売戦略が駆使されているというわけです。

価格戦略が利益を生む仕組み – 航空会社の収益とPLへの影響

航空会社にとって、巧みな価格設定は死活的に重要です。なぜなら航空ビジネスは固定費が非常に高い(燃料代・人件費・機材リース代など飛ばなくてもかかるコストが大半)反面、乗客一人あたりの追加コストは比較的低いという構造だからです。極端に言えば、空席だらけで飛ばしてもほとんど同じコストがかかるのですから、1席でも多く埋めて、かつ1円でも高く売ることが利益直結となります。価格差別戦略によってビジネスクラスや直前需要の高額運賃からしっかり利益を確保できれば、それがエコノミー格安席の提供原資にもなります。実際、「国際線ファーストクラスの乗客がもたらす利益のおかげで、エコノミークラスを格安に提供できる」という話もあり、上位20%の顧客が全利益の80%を生むとも言われます。航空会社の損益計算書(PL)を見ると、プレミアム客単価の高さとエコノミー客数の多さの掛け算で収益を上げている構図が浮かび上がります。

運賃の設計変更は、この収益構造を大きく動かす可能性があります。例えば価格帯の幅を広げれば、これまで取りこぼしていた超価格敏感層を新たに取り込めたり、逆に高価格帯を設定することで従来より高い収入を得られる顧客層を開拓できるでしょう。反面、価格設定を誤れば「高すぎて乗客が離れ搭乗率(Load Factor)が低下する」リスクや、「安すぎて全席埋まっても収益が伸びない」という事態も起こりえます。収入=客単価 × 搭乗者数ですから、価格と需要の微妙なバランスが利益を左右します。

この調整はときに経営の苦肉の策とも関連します。近年の例では、燃油価格や円安などコスト上昇の中で航空運賃全体を値上げせざるを得ない状況がありました。しかし単純な値上げは利用者の不満を招きます。そこで巧妙な値上げとして、運賃体系を刷新しつつ一部のサービスや付帯条件を見直し、「表向き利便性向上や明瞭化と謳いつつ平均単価を引き上げる」手法がとられることがあります。今回のANA国内線運賃リニューアルも、後述するように安い運賃と高い運賃のメリハリを強化し、中間の価格帯を実質アップさせるのではないか、との指摘があります。こうした戦略変更が奏功すれば、航空会社の売上高や営業利益率は改善し、株主や投資家にとってもプラスとなるでしょう。

さらに、価格戦略は顧客ロイヤルティ将来収益にも影響します。例えば高価格を支払った顧客にはより多くのマイル(ポイント)を付与するのが一般的です。このマイルは将来無料航空券などと交換できるため企業にとっては将来のコスト=負債となりますが、その場では顧客満足を高め「また利用しよう」というリピート意欲に繋がります。会計上、近年IFRS(国際会計基準)の考え方では、航空券販売時に付与するマイル相当額を負債(契約負債)として計上し、実際にマイルが使われた時点で収益計上することが求められます。つまりマイルをたくさん付与すると短期的には計上できる売上が減る構造になり、「マイル=会社の債務」という側面が強調されるのです。このため経営的には「マイル有効期限を短くして早く使ってもらう」「マイル付与率を下げる」などの動機が生まれます。しかしマイルを削りすぎると魅力が下がり顧客離れを招くため、運賃とマイルのバランスをどう取るかも経営戦略上の悩みどころです。価格戦略ひとつで搭乗率・客単価・ロイヤルティプログラム負債に連鎖的な影響が出る――まさに運賃設計は航空会社のPLを左右する重要なテコなのです。


航空業界の価格差別とダイナミックプライシングの仕組みをご理解いただけたでしょうか。同じ飛行機の中で起きている「値段の別世界」は、緻密に計算された戦略の結果です。価格差別は航空会社の利益創出のエンジンであり、需要に応じた柔軟な値付け(レベニューマネジメント)は座席という有限資源を有効にお金に換える魔法と言えます。これらを踏まえて、いよいよANAが2026年から導入する新しい国内線運賃制度を見ていきましょう。それはまさに航空会社が自社の利益構造を最適化し、かつ顧客体験を再設計しようとしている挑戦でもあるのです。

ANA国内線運賃の大刷新 – 何がどう変わる?

新基本運賃3本柱「シンプル・スタンダード・フレックス」登場

ANAは2026年5月19日搭乗分から、国内線の運賃体系を劇的に再編します。これまで存在した「スーパーバリュー〇〇」「○日前割引」「ビジネスきっぷ」等の多彩な運賃名は姿を消し、誰もが利用できる主な運賃は3種類のシンプルなタイプに統合されます。その名も「Flex(フレックス)」「Standard(スタンダード)」「Simple(シンプル)」です。国際線の運賃体系になじみのある方なら、「エコノミークラスのフルフェア・割引運賃・格安運賃」に相当するとイメージしやすいでしょう。

各運賃タイプの特徴を簡単に説明します。

  • フレックス (Flex): 最も柔軟性が高い運賃です。搭乗日当日まで購入可能で、予約変更が無料で何度でもできるのが最大のメリット。事前座席指定も可能で、搭乗当日空港での空席待ち含め変更も手数料なし。ビジネス出張など予定変更が避けられない方に最適なプレミアム運賃です。価格は当然高めですが、その分サービスも充実しており、後述のように無料手荷物も余裕があります。
  • スタンダード (Standard): バランス型の標準運賃です。事前座席指定が可能で、アップグレード(当日有償でプレミアムクラス改めファーストクラスへのアップグレード)も可能とされています。予約変更は有料で可能、つまり変更手数料を支払えば搭乗日前日まで変更が認められます。購入期限は搭乗前日まで。この運賃は価格と利便性のバランスを取ったいわば「中間層」向けで、家族旅行など計画通り動くが多少の柔軟性も欲しい場合に向いています。多くの基本サービス(手荷物2個、座席指定無料など)は網羅されており、「迷ったらスタンダード」という位置づけの安心感があります。
  • シンプル (Simple): 最安価な運賃タイプで、付帯サービスを必要最低限に絞ったLCC的な位置づけです。予約変更は一切不可で、購入後に日付や便を変えたい場合は払い戻して新規購入となります(払い戻しには手数料がかかる)。事前座席指定も制限されており、出発24時間前からでないと座席を選べません。これはつまり、事前には座席が自動割当のみで、早めに予約しても好きな席を確保できないということです(上級会員でもシンプル運賃では例外なくこの制限が適用される点に注目です)。手荷物も後述するように無料は1個までと限定されています。購入期限は搭乗前日まで。それ以降は買えないので、「事前に計画して安く買う人」専用とも言えます。価格重視の一人旅や出張、予定が確定している旅行に向いていますが、家族やグループで座席を揃えたい場合には不向きかもしれません。ANAがついにここまで合理化された運賃を出したか、と感じるほどサービス面では割り切りが見られます。

3種の運賃はいずれもエコノミークラスと(名称変更後の)ファーストクラスそれぞれに設定されます。プレミアムクラス相当のファーストクラス運賃にもフレックス・スタンダード・シンプルが存在し、条件は基本的にエコノミーと同様ですが、料金水準はもちろん高く設定されます。表面的には「ただ3つに整理しただけ」に見えるかもしれませんが、実はこの再編、安い方はより安く・高い方はより高くなる可能性を秘めています。例えば2025年6月時点で公開された一部情報では、旧来の「スーパーバリュー75」最安運賃(片道10,910円)に対し、新「シンプル」最安運賃は片道10,470円と約440円安く提示されています。一方で標準的な価格帯では、同日比較で「スタンダード」は旧運賃より数百円高くなるケースもありました(例えばある路線の5月19日、スタンダードは従来運賃より+330円程度)。このように、極限まで安い席を用意する代わりに、中間価格帯をやや引き上げる設計にも読めます。ANAの担当者は「より多様なニーズに応える運賃体系」と説明していますが、裏を返せば需要に応じて細かく価格帯を変動させる下地が整ったとも言えます。実際、「シンプル運賃は空席連動型で、旧来のように◯日前だから安いとは限らない」と注意喚起する声もあります。価格表示も今後は予約画面で日々変わるダイナミックプライスが前面に出るでしょう。消費者側から見れば直感的な「早割◯日前」の区切りが無くなるため戸惑う向きもありますが、企業側からすれば需要予測に応じて常に最適価格を提示できるメリットがあります。

国際線基準への統一 – 座席クラス名称や予約ルールの共通化

ANA国内線の運賃リニューアルの背景には、システム統合とグローバル標準化があります。2025年度中にANAは国内線の予約発券システムを国際線と同じプラットフォーム(アマデウス社のシステム)へ統合する計画です。そのため、国内線だけ特殊だったルールを国際線に揃える動きが一気に進みました。具体的な変更点をいくつか見てみましょう。

まず、座席クラスの名称変更です。長年馴染んだ「プレミアムクラス」「普通席」という呼称が廃止され、それぞれ「ファーストクラス」「エコノミークラス」と名称統一されます。国内線の「ファーストクラス」は実態としては従来のプレミアムクラス(2-2配列の大型席)なので、国際線の超豪華ファーストとは異なりますが、インバウンド(訪日外国人)のお客様にも分かりやすくするための措置とのこと。正直「国内でファーストクラスって紛らわしいのでは?」との声もありますが、ANAは「国内線最高クラスのサービスですよ」というメッセージを込めているようです。ただネーミングの期待値が高すぎると落差を感じる恐れもあり、ここは利用者の反応を見ながらの運用になるでしょう。

次に予約・搭乗ルールです。国内線だけ異なっていた部分が国際線式に揃えられます。代表例が幼児・小児運賃の扱いです。従来ANA国内線では「3歳未満の幼児は座席不要なら無料、3~11歳は小児運賃(大人普通運賃の半額程度)」というルールでした。しかし新ルールでは幼児無料は2歳未満までに引き下げられ、2歳以上は小児運賃(2~11歳)が適用となります。つまり2歳児でも必ず席を確保し有料になるわけです。小児運賃自体も一律ではなく、基本的には「対象運賃の25%引き(株主優待運賃時は50%引き)」というディスカウント方式に変更されます。JALは現時点で小児は3歳~11歳なので、ANAが一歩先に進めた形です。これは家族連れには実質値上げで痛いですが、一方で2歳児にも席が確保され安全というメリットもあります。いずれJALも追随するかもしれません。

手荷物ルールも国際線基準になります。今後は重量制から個数制へ変更となり、エコノミーのスタンダード・フレックスは23kgまでの荷物を2個まで無料、シンプルは23kgまで1個無料という規定になります。従来の国内線はクラス問わず一律20kgまで(プレミアムは40kgまで)無料でしたが、重量計で測る運用から個数でカウントする運用に改まります。実はこれ、例えば23kgのスーツケース2個持っている人には大幅緩和(計46kgOK)になる反面、シンプル運賃だと1個までなので、荷物2つ目からは追加料金になる可能性があります。LCCでは手荷物有料が当たり前ですが、ANAも最安運賃では荷物1個まで無料という制限を設けることでコスト管理を厳しくしたのでしょう。「荷物が多い人は標準以上の運賃を選んでね」というメッセージでもあります。

乗り継ぎ規則も緩和されます。従来、ANA国内線で乗継旅程を組む場合、経由地での接続可能時間に制限(例えば同日中数時間以内)がありました。それが新ルールでは「24時間以内」であれば途中で一泊しても一連の旅程として通しで発券できるようになります。例えば「秋田→羽田(夜着)で一泊し翌朝羽田→沖縄」という旅程も、24時間以内なら乗継扱いで発券できるため、片道分の運賃で目的地まで行けることになります。これは地方在住者にとって大助かりでしょう。今までは一泊すると別切り(運賃2重取り)になっていたものが、乗継割引が適用される形になります。しかも今回ANAは「往復運賃」も新設します。往復を同時購入すれば各運賃を基に5%割引が適用される予定で、これも国際線の往復割引のようなイメージです(旧来あった往復割引は普通運賃ベースで割高だったので、実質的に今回の「往復セイバー」の方が有利になる見込みです)。さらに乗継割引も含め、新運賃ではどの運賃タイプでも組み合わせて割引を適用できるよう改善されます。JALの同様の改定では「地方~ハブ空港~離島」の利用者がANAに流れていたのを取り戻す狙いと分析されていましたが、ANAも国内ネットワーク全体でお客を囲い込もうという意図でしょう。

その他細かな変更としては、「オープン券」の廃止があります。日付未定で予約だけしておくオープンチケットは利用できなくなり、全行程日時指定が必須となります。株主優待割引についても予約時に優待番号・パスワード入力が必須化され、「とりあえず優待枠で席だけ確保」というテクニックは封じられます(JAL方式に統一)。さらにANA上級会員へのサービスだったアップグレードポイント制度の終了もアナウンスされています。2026年度でアップグレードポイントの付与は最後となり、以降はマイルに一本化してアップグレード等に充当する形に変わります。国内線でもマイルでアップグレード可能になるため、専用ポイントを廃止して整理するわけです。これに伴いダイヤモンド会員への特典調整(ポイント廃止後に5万マイル付与など)も発表されています。全体として、国内線・国際線でサービス体系を共通化し、システム統合による効率化利用者のシームレスな体験を目指した変更となっています。

運賃リニューアルで何が良くなる?何に注意すべき?

ここまで新制度の概要を見てきましたが、利用者にとってのメリット・デメリットを整理してみましょう。

まずメリット面では、「運賃種別が少なく分かりやすくなった」ことが挙げられます。これまでANAの国内線には「○日前までの○○割引」「ビジネスきっぷ」「株主優待」「特割◯◯」等々、多くの運賃名称と条件があり、一見さんには複雑でした。それがフレックス・スタンダード・シンプル+いくつかの特殊割引(株主・ANAカード・ユース等)に整理されたことで、自分のニーズに合った選択肢が選びやすくなります。「とにかく安さ重視ならシンプル」「ある程度柔軟性ほしければスタンダード」「高くても融通第一ならフレックス」といった具合に、旅行スタイルに合わせた運賃が直感的に選べるでしょう。特にインバウンド客にとって日本独自の運賃名は障壁でしたが、英語名を含め国際標準になった点も歓迎できます。

次に、往復購入や乗継でお得になる点もメリットです。往復割引5%は小さいようですが、これまで片道×2だった人には純粋な値引きになりますし、特に出張など会社精算で往復まとめて買う場合などは企業側にもありがたいでしょう。また乗継緩和で地方~地方~離島のアクセスが改善するのも、旅の自由度が増します。例にあった秋田発沖縄旅行のように、一泊挟んでもOKなので、旅程を組みやすくなります。観光回遊性の向上という意味では、日本各地を周遊する旅行商品などにも良い影響がありそうです。

一方で注意すべき点・デメリットもいくつかあります。最大のポイントは「シンプル運賃の制約の厳しさ」でしょう。変更不可なのは当然としても、座席指定が24時間前からアップグレード不可荷物1個までと、かなり割り切った条件です。たとえANAのプラチナやダイヤモンド会員でもシンプルを選べば優遇なしという徹底ぶりには驚きの声もあります。LCCでは当たり前の有料サービス化をANAも取り入れてきた形で、「フルサービスキャリアなのにここまでやるか…」と戸惑う人もいるでしょう。特に家族旅行でシンプル運賃を選ぶと、バラバラの席にされるリスクがあります。24時間前解禁後に急いでオンラインチェックインで席指定する必要があり、人気の路線だと隣席が取れない可能性も。友人グループや家族連れで「安さ優先」はハイリスクになりそうです。自由席の高速バスに近い感覚ですね。このあたりは「いやなら上の運賃にしてね」というANAからのメッセージとも読み取れます。

また価格面の不確実性もデメリットと言えます。ダイナミックプライシング化で、消費者側から見ると「買うタイミングで価格が読めない」状況になるため、「いつ予約すれば一番得か」が事前に分かりにくくなります。従来は「とにかく早く予約すれば安かった」のが、今後は早期でも繁忙期は高かったり、直前でも空いてれば安かったりと予測が難しくなります。旅行計画を立てる際、運賃見積もりが立てづらいという声も出るかもしれません。ただこればかりは世界的潮流でもあり、利用者として慣れていくしかない部分でしょう。

最後に名称変更によるギャップにも注意です。ファーストクラス=プレミアムクラスだと知らずに、「人生初のファーストクラスだ!」と期待して乗ったら「なんだビジネスクラス程度か」とガッカリ…なんてこともあるかもしれません。特に訪日外国人が誤解しないよう、ANAも案内には工夫が必要でしょう(例えば”Domestic First Class”のような表記をするとか)。とはいえサービス内容自体は据え置きなので、名前に惑わされなければ従来通り快適なプレミアムクラス体験ができます。


ANA国内線の運賃リニューアルは、一言でまとめれば「国内線を国際線と同じ土俵に乗せる」改革でした。3つの運賃タイプ導入でシンプルかつ需給連動型の価格体系へ移行し、座席クラス名や各種ルールもグローバルスタンダードに合わせられました。その結果、利用者にとってはわかりやすさと選択肢の拡大という利点がある一方、安価な運賃利用時の制約強化や価格変動の不透明さという課題も出てきます。要は「あなたの旅のニーズに合わせてピッタリの運賃を選べますよ。ただし安さを取るならサービス我慢、サービス欲しければそれなりの対価を」というメッセージです。まさに同じ席でもサービスパッケージ次第で値段も体験も変わる新時代の到来です。では、こうした運賃改定は具体的にどんな影響を生み、ANAの業績や私たちの旅に何をもたらすのでしょうか?次のセクションでは、運賃リニューアルのインパクトを会計・投資の視点も織り交ぜつつ考察してみましょう。

運賃リニューアルの影響 – 利用者、ポイント、そして航空会社のPL

収益と稼働率へのインパクト:平均搭乗単価はどう変わる?

運賃改定がまっ先に影響を及ぼすのは収入構造です。ANAの国内線収入=(平均運賃単価)×(搭乗者数)ですが、新運賃体系はこの両方に作用し得ます。では、平均運賃単価(Yield)は上がるのでしょうか、下がるのでしょうか?

先述したように、ANAは一部の最安運賃を現行より低く設定する動きを見せました。これはLCCとの競争や需要喚起のため、底値を下げて価格敏感層の需要も取り込み続けたい意図がうかがえます。一方で中~高価格帯は値上げ傾向が見られます。スタンダード運賃は現行の割引運賃とフレックス運賃の中間くらいの設定ですが、「バリュー運賃+α」程度の価格帯になるという予想もあり、実質的に従来より中間層の客はやや高い運賃を支払う場面が増えるかもしれません。またフレックス運賃はこれまでの大人普通運賃に相当しますが、変更手数料無料など柔軟性が上がった分、値下げは考えにくく据え置きか微増でしょう。さらにクラスJやプレミアムクラス(新ファーストクラス)の料金も距離別に細かく設定され直し、長距離路線では今よりアップグレード料金差が広がる見込みです。例えばJALの改定では、羽田~沖縄線の普通席vsクラスJ差額が大きく拡大する予想が紹介されました。ANAもおそらく同様に、長距離国内線でプレミアム席の付加価値に高めの値段を付けてくるでしょう。

これらを総合すると、需要に応じた細かな価格設定が可能になる分、今まで安く提供し過ぎていた部分での単価アップ効果が期待できます。逆に閑散期・空席過多時は柔軟に値下げするでしょうから、収益機会のロスが減り無駄な空席を減らして稼働率を維持できるでしょう。つまり高需要期には単価アップ、低需要期には搭乗率アップという形で、平準化された収益向上が図れる可能性があります。実際、JALが2023年に先行して国内線運賃を3タイプ+需要連動型に切り替えた際、大幅な値上げはないと言いつつも「運賃水準は競合も踏まえて大きく変わらないだろう」としつつ構造上は値上げと値下げが混在する改定でした。結果としてJALの国内線旅客単価はその後じわじわ上がっており、コロナ後の需要回復もあって業績に寄与しています(JAL決算資料より)。ANAも今回の改定で国内線部門の収益性改善を狙っているのは間違いありません。

もっとも、ライバルとの競争環境も無視できません。日本国内線ではJALとのシェア二分が続いていますから、ANAだけ大幅な値上げをすればお客様はJALやLCC、あるいは新幹線に流れてしまいます。実際JALはANAに先行して2023年4月に類似の運賃リニューアル(「フレックス・セイバー・スペシャルセイバー」導入)を行っており、両社の運賃体系は非常に似通った形になります。これは暗黙の横並びとも言え、過度な価格競争は避けつつ、両社で収益改善を図ろうという思惑も感じられます。公正取引委員会の目もあるため談合的なことはできませんが、運賃構造の足並みは揃いました。今後は需要期・閑散期の価格レンジ設定やセール展開で熾烈な読み合いが続くでしょう。ANAが値上げ基調に出ればJALも追随しやすく、逆にLCCやJRに負けないよう値下げも必要なときは即座に行う、という機動的な価格戦の時代に入ります。

投資家の視点から見ると、こうした動きは収益安定性の向上につながる可能性があります。固定的な早割価格より、需要に応じて収入を最大化できる方が売上変動に対処しやすいからです。加えて、今回ANAは予約変更手数料という新たな収入源も設定しました(スタンダードで変更時に課金)。これは今までなかった概念で、小さい金額でも回数が積もれば収益寄与します。キャンセル時の払い戻し手数料も制度変更されるようです(払戻手数料の廃止と取消手数料の一本化)。こうした細かな手数料ビジネスは、近年航空各社が力を入れる付帯収入(Ancillary Revenue)の一環で、運賃とは別に会計上「その他収入」として計上されます。レガシーキャリアであるANAも、LCCのように手数料で稼ぐ体質を一部取り入れるわけです。運賃改定に伴う変更手数料収入増は、利益率改善にこっそり効いてくるでしょう。

以上のように、平均運賃単価は適正水準へ微調整され、搭乗率も安定化し、手数料収入も加わるとなれば、ANAの国内線収入は総額ベースでプラスの方向と見るのが自然です。もっとも、その効果がフルに出るのは数年かけてでしょうし、経済環境や旅行需要次第では逆風もあり得ます。例えば景気悪化で需要が落ちれば、ダイナミックプライシング下では運賃が大幅に下がってしまい、収入減となるリスクもあります。逆に好景気でビジネス需要が強ければ、フレックス枠が高単価で売れ収入増です。需要動向を受け止める器は柔軟になったというのが正しく、良い方向にハンドリングできれば収益アップ、誤ればシェア低下にも繋がる諸刃の剣です。その意味では、今回の運賃改定はANA経営陣の手腕が問われる挑戦と言えます。

マイレージとポイント負債:お得感アップと会計上の葛藤

運賃リニューアルの影響はANAマイレージクラブにも及びます。新運賃導入に合わせて、国内線のフライトマイル積算率(搭乗マイル付与率)が見直しとなりました。先に述べたように、各運賃タイプごとに「どれだけマイルが貯まるか」という率が定められており、一般的に高運賃ほど多くのマイルが付与されます。現行では、プレミアムクラス150%、普通運賃100%、割引運賃75%や50%…といった具合でしたが、2026年5月以降は150%、130%、120%、100%、80%、70%、50%、30%という刻みに変更されます。特徴的なのは、これまで存在した「125%」「75%」など5%刻みの率が消え、10%刻みのスッキリした階梯になったことです。例えばエコノミーの新スタンダード運賃は積算率80%(従来は75%が多かった)、シンプル運賃は70%(従来50%や75%だったものが大半)となります。一見すると一部でマイル付与率アップになっており、「安いシンプル運賃でも距離の70%もマイルが貯まるならお得!」と感じる人もいるでしょう。実際、積算率引き上げはマイラーには朗報で、ネット上でも「これで修行(プレミアムポイント稼ぎ)が楽になる」「たくさんマイルが貯まる」と歓迎の声が出ました。

しかし、このマイル積算率アップには裏があるとの指摘も。航空アナリストの見方では、インフレやコスト増による利益圧迫を運賃値上げで転嫁せざるを得ない中、利用者の不満を和らげるガス抜きとしてマイル付与率を上げた側面があるというのです。つまり「値上げだけど、その代わり以前よりマイル多くあげるから許してね」というわけですね。特に株主でもある個人マイラー層から「料金ばかり上がってマイルは昔から変わらない!」と総会で文句を言われかねない状況もあり、先手を打った可能性があります。ANAに限らず航空各社はコロナ禍からの回復局面で軒並み運賃や燃油サーチャージを上げています。その中で顧客ロイヤリティを維持するため、「でもマイルも増えましたよね?」と言える材料が欲しかったのかもしれません。

会計・財務の観点では、マイル積算率アップは将来的な無料サービス引当(ポイント負債)の増大を意味します。先述のIFRSでは、マイル付与分はチケット代から控除して負債計上しますが、その割合が大きくなれば今期の計上売上は減ることになります。もっともANAはまだ日本基準会計ですが、いずれIFRS採用を検討中です。仮にIFRSに移行すれば、今回のようなマイル付与率引き上げは直ちに会計上「売上の一部繰延」を増やし、短期PLにはマイナスです。その代わり将来マイルが使われた時に売上になるので、収益認識のタイミングを後ろ倒ししているだけとも言えます。経営としてはマイルを発行すればするほど「早く使ってほしい/消えてほしい」という心理になるでしょう。期限切れによる利益計上を期待するのも不健全ですが、実際には一定数のマイルは失効しますから、それも織り込んでのビジネスです。いずれにせよ、マイルはお客様への将来の約束ですから乱発は禁物です。その意味でANAが5%刻みを廃止して10%刻みにしたのは、システム統合の都合以上に「きりのいい数字にして管理しやすくする」狙いがあるかもしれません。「125%/75%を130%/80%に切り上げ、120%/70%に切り捨てた」と分析する向きもありましたが、確かに半端な5%は管理上煩雑です。細かなことですが、ITシステムにとって5%の端数計算は手間とも推察され、世界標準のシステムに移るにあたり端数をやめた可能性があります。結果として積算率アップ組(例:75→80%のスタンダード)とダウン組(例:85→80%に下がったケースは無いのでほぼアップ組のみ?)が出ました。特筆すべきは株主優待運賃が+5%増の80%積算になった点です。株主優待券は割引率が高く従来積算率も75%程度でしたが、80%になることで優待ユーザーにはメリットです。しかし優待運賃そのものも2024年以降値上げされており、そこへのガス抜きとも受け取れます。またシンプル運賃は70%積算ですが、これは「アップグレードできない代わりに最低でも70%はあげます」という一種の埋め合わせかもしれません。従来の安い運賃だと50%なんてこともありましたから、70%は大盤振る舞いです。このあたり、マイル修行僧からすると「安運賃でそこそこマイル貯まるならたくさん乗ろう」となるので、量的需要喚起策とも言えます。実際、「国内線修行(プレミアムポイント稼ぎ)の景色が大きく変わりそうだ」との声もあります。新ルールではシンプル運賃でも100PP(プレミアムポイントのボーナス)が付与されるようになり、これまで効率が悪かった最安運賃でのPP積算が改善するからです。ANAとしては安運賃でもいっぱい乗ってステータスを目指してほしい=搭乗者数増につながるなら、マイル・PP付与増も投資と捉えているのでしょう。

マイル以外のポイント要素では、前述のアップグレードポイント廃止もポイント負債管理の一環です。アップグレードポイントは社内コストであるものの負債ではありませんでしたが、それをマイル化することで全てマイルという一元管理に統合できます。マイルは言うなれば自社通貨であり、使い道も航空券や物品交換など広がっています。アップグレードポイントは用途が限定的だったので、廃止は効率化でしょう。ダイヤ会員には5万マイル配る太っ腹対応ですが、これもどうせ多くは使われず失効するだろう(!)との読みがあるのかもしれません。

総じて、運賃リニューアルはマイレージサービスにテコ入れをもたらしました。利用者からすれば「条件付きで値上げされたけど、その分マイルや特典の形で還元もある」と映るため、単なる値上げより受け入れやすいでしょう。会計上は将来負担が増えますが、顧客囲い込みによる長期的な収益確保という投資と割り切っているようにも見えます。また、運賃種別変更に伴い特典航空券の扱いも一部変化します。例えば国内線特典航空券は必要マイル数自体は大きく変わらない見込みですが、乗継ルール緩和で今まで別々に発券できなかったルートが1つの特典で組めるようになるなど利便性が増す可能性があります。実際「羽田→那覇→石垣→羽田」を一つの往復特典で発券できる、といった新ルールの利点を指摘する声もありました。こうした特典航空券面の改善は、貯めたマイルを使いやすくする方向であり、負債(マイル)を有効活用させて早期に消化させる狙いにも合致します。顧客にとっても嬉しい変更なのでWin-Winでしょう。

投資家目線で見るANA新運賃 – 戦略の狙いとリスク

では、ここまで見てきたANA国内線運賃リニューアルを投資・経営の視点から総括してみましょう。投資家にとって企業の価格戦略変更はビジネスモデルの変革と言えます。その成否が業績に影響を及ぼすため、注目ポイントです。ANAの場合、今回の運賃改革には以下のような戦略的狙いが読み取れます。

1. 収益最大化と効率経営の両立: 前述の通り、需要連動型価格と3階層運賃への再編によって国内線事業の収益性を高める意図があります。コロナ禍で一度需要が蒸発した航空業界ですが、2023~2024年にかけて国内需要は回復基調です。そのタイミングで値付けの科学を導入し直し、コスト増に負けない収益力を取り戻そうというのは理にかなっています。実際ANAの2023年度中間決算でも、国内線旅客数は戻りつつあるのに単価上昇が追いつかず利益貢献はいま一つ…という状況でした。しかし新運賃適用の2026年以降は、単価上昇と需要安定の両方で業績押し上げ要因となるでしょう。さらにシステム統合で冗長な国内線専用システムを廃止することでITコスト削減など効率化メリットもあります。シームレスな国際・国内運用は、将来的に人件費や研修等の面でも合理化をもたらすでしょう。投資家としては、こうした固定費削減+可変収入増の取り組みは中長期的な利益成長につながると期待できます。

2. 需要喚起と競争優位: 運賃体系の明瞭化・シンプル化はマーケティング面でプラスです。特に若年層や訪日客にわかりやすくなり、新規需要の取り込みにつながります。実際、「迷ったらスタンダード!」というキャッチコピーで販促する等、ANAは初心者にも選びやすい運賃をアピールしています。また往復割引や乗継拡充で利便性を上げた点はフルサービスキャリアとしてのブランド強化にも寄与します。LCCにはできない細やかなネットワークサービスで囲い込み、価格面だけでなくサービス全体で差別化を図るわけです。これは競争戦略上、LCC台頭への防御でもあり、JALとの差別化でもあります。もっともJALもほぼ同様の改定をしてきたため差は小さいですが、ANAは幼児規定変更など一歩先行した面もあります。世界標準へのすり合わせという点でも、グローバルなアライアンス連携やコードシェア時にメリットが大きいでしょう。投資家から見れば、こうした需要創出策や競争優位構築は売上拡大のドライバーです。国内市場は成熟しているとはいえ、インバウンドや新規層を掘り起こす余地はまだあります。ANAが攻めの姿勢で市場シェアを伸ばそうとしていると評価できます。

3. 顧客生涯価値(LTV)の向上: マイレージや上級会員制度の再編も含め、ANAは今回顧客のロイヤルティを高めて長期的収益を確保しようとしています。積算率アップやマイルアップグレード導入は顧客満足度を上げ、SFC(スーパーフライヤーズカード)などの会員をつなぎ留める効果が期待できます。特に国内線利用が多いビジネス客に対して、フレックス運賃購入でのメリット(マイル130%や変更柔軟性)を感じてもらえれば、単価の高いお客様ほどANAを選ぶインセンティブが働きます。利益率の高い顧客に選ばれ続けることがPLを潤す重要ポイントです。さらに上級会員向けサービス簡素化(ポイント→マイル統合)はコスト管理と満足度維持のバランスを取った施策で、将来的な負債(ポイント)の見える化にも役立ちます。これらは地味ですが企業価値に効いてきます。長くANAを贔屓してくれる顧客を増やすことは、安定収入源を増やすことと同義だからです。

もっとも、投資家として注視しなければならないリスク要因もあります。一つは利用者の混乱や不満による一時的な予約減です。大きな制度変更直後は「よく分からない」「使いにくい」と感じる人が一定数出るものです。実際、JALの国内線新運賃導入時にはウェブサイトの表示不具合や予約操作の慣れなさから苦情も出ました(JAL株主向け資料より)。ANAも2025年5月の予約開始以降、問い合わせ増などオペレーション負荷が懸念されます。またシンプル運賃の制約に対する不満がSNS等で拡散し、「ANAケチになった」とマイナスイメージが広がるリスクもあります。しかしこれについては、先にJALも同様の動きをしているため、ANAだけが悪者になることはないでしょう。むしろ「時代の流れだよね」と理解される可能性が高いです。

もう一つのリスクは価格競争の激化です。ダイナミックプライシングは各社が出方を探り合うため、値下げ競争に陥る可能性も孕みます。特にLCCとの棲み分けが崩れると危険です。例えばピーチなどが思い切ったセールを連発し、ANAがそれに近い価格までシンプル運賃を落とさざるを得なくなれば、平均単価が下がり利益を削りかねません。24時間前まで安値競争を引き延ばすと「もう少し待てばもっと下がるかも」と消費者が様子見する傾向が強まり、直前需要が読みづらくなる恐れもあります。価格設定の巧拙がそのまま搭乗者数と収益に響くため、収益変動が大きくなるリスクも考えられます。しかし、ANAほどの大手であれば高度な収益管理ノウハウを持っているはずで、この辺りはむしろ中小の地方路線LCCより有利かもしれません。投資家は四半期ごとの国内線単価・旅客数の推移を注視し、改定効果を見極める必要があるでしょう。

総合すれば、ANAの国内線運賃リニューアルは「攻め」と「守り」を兼ね備えた戦略的転換と評価できます。攻めとしては需要を取り込み収益を上げる施策、守りとしてはコストや負債管理、既存客維持の施策が盛り込まれているからです。これは決して単なる名称変更ではなく、経営戦略の舵取りが見える内容だと専門家も指摘しています。まさにANAが次の時代に向け、自社のビジネスモデルを磨き直した結果と言えます。投資家にとっては、この変化がうまく実を結び国内線事業がより強固になるなら株主価値向上につながるでしょうし、逆に混乱すれば一時的な業績ブレ要因ともなるでしょう。しかし長い目で見れば、避けて通れないグローバルスタンダードへの適応であり、ANAの姿勢は前向きに評価できると考えます。


運賃リニューアルの影響を利用者、マイレージ、経営の観点から見てきました。利用者にとっては運賃体系変更で旅の仕方や得失が少し変わりますが、上手に選べば今まで以上に自分のニーズに合った旅ができるでしょう。ANAにとっては、この変更が収益構造の改善と競争力維持の鍵になります。ポイント負債という会計上の課題とも向き合いつつ、顧客満足とのバランスを取る難しい舵取りですが、それを乗り越えれば国内線事業は一段階強い柱となるはずです。投資や会計の視点では、変化にはコストやリスクも伴いますが、やはり挑戦なくして成長なし。今回の大胆な運賃刷新は、ANAの経営陣が描く将来戦略の一端を示すものであり、市場環境の変化に適応する企業努力の証と言えるでしょう。

結論:同じ空の下で、変わるものと変わらないもの

ANAの国内線運賃リニューアルは、「同じ席なのに値段が違う」という航空業界の不思議を改めて考えさせてくれる出来事でした。価格差別という一見ドライなビジネス戦略も、その裏には限られた席を多くの人に届けたい、様々なお客様に空の旅を楽しんでほしいという思いが潜んでいるのかもしれません。実際、最安のシンプル運賃から柔軟なフレックス運賃まで揃えたANAの新体系は、お客様一人ひとりの旅の事情に寄り添おうとする工夫とも言えます。あなたが出張で当日変更に助けられたり、家族旅行で早期割引のおかげで実現したりするなら、それはこの運賃制度がもたらす恩恵です。

もちろん、利用者側も賢く選択しなければなりません。サービスを削れば安くなるし、快適さを求めればそれなりの対価が要る――そんな当たり前のことを、今回の改定は私たちに突きつけています。しかし裏を返せば、自分に必要のないものにお金を払わず済む公平な世界とも言えます。航空会社にとっても、得られた収益でより良いサービスや新路線開拓に投資できる好循環が生まれるでしょう。運賃が変わっても、空の旅のワクワク感や目的地で得られる体験の価値は変わりません。むしろ、この変革を通じてANAが持続的に成長し、より安全で快適な空の旅を提供し続けてくれるなら、私たち利用者にとっても嬉しい未来が待っているはずです。

最後に一つ、この記事のタイトルにも込めたメッセージをお伝えしたいと思います。「席は同じ、値段は別世界」──確かにお金の世界では差が生まれるかもしれません。しかしその飛行機に乗り込んだ瞬間から、乗客全員が目的地に向かう同じ空の旅を共有しています。窓から見える景色の美しさや、大空を飛ぶ感動、目的地に降り立った時の高揚感は、支払った運賃に関係なく平等です。航空会社のPL(損益)は運賃一つで変わるかもしれませんが、空の上で生まれる思い出や出会い、感動といった価値はお金では測れません。ANAの新しい挑戦が成功し、ビジネスも私たちの旅もより豊かになることを願いつつ、これからも同じ空の下で続く物語を楽しみたいと思います。

深掘り:本紹介

もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。

『BCGプライシング戦略 価格でビジネス・市場・社会を進化させる』
「値付け」はセンスじゃなくて設計図。値上げでもファンを増やす“価格のゲーム”がまとまっていて、ANAの運賃刷新を戦略として読めるようになります。


『図解入門業界研究 最新 旅行業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第6版]』
航空だけじゃなく、旅行業界全体の収益構造・流通(OTA/代理店)・DXまで俯瞰できるので、「運賃変更がどこまで波及するか」を地図みたいに理解できます。


『やさしく学ぶ エアライン・ビジネスの世界』
“航空会社のPLはこういうクセがある”が、図解っぽく入ってきます。価格差別・路線・座席・マーケの関係が整理されて、この記事の理解が一段クリアになります。


『エアライン・マネジメント -戦略と実践-』
JALがまとめた「航空会社が現場で何をどう意思決定してるか」の実務寄り解説。運賃・需要予測・ネットワークのつながりが見えるので、ANAとJALを比較する視点が手に入ります。


『フローチャートでわかる!収益認識会計基準』
「ポイント(マイル)って実質“負債”だよね?」を会計でちゃんと説明するための武器。収益認識が分かると、運賃設計変更がPLだけじゃなくBSにも刺さる理由が書けます。


それでは、またっ!!

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