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Jindyです。
EBITDA黒字——それって本当に現金が増えた証拠ですか?
楽天モバイルが2025年第2四半期に初めて四半期ベースでEBITDA黒字(プラス)を達成したというニュースが話題になりました。この「黒字転換」は、一見すると楽天モバイル事業がついに利益を生み出し始めたように聞こえ、個人投資家や会計ビギナーにとって大きな希望の光に映ったかもしれません。しかし、「黒字=現金が増えた」と単純に考えるのは早計です。実は、企業の決算を読む際には、損益計算書(P/L)上の“見かけ上の黒字”と実際のキャッシュフロー(CF)を同時に読み解くことが重要です。本記事では楽天モバイルのケースを題材に、EBITDA黒字化が示す意味とその裏に潜む限界を深掘りします。読み終えれば、あなたは決算のヘッドラインに惑わされず、「本当の儲け」と「手元に残る現金」の違いを見極める目を養えるでしょう。投資判断に役立つ会計的視点をわかりやすく解説しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
目次
楽天モバイルEBITDA黒字化が示すもの – 復活の兆し?

2025年第2四半期、楽天グループの決算発表は市場の注目を集めました。中でも長年赤字続きだった楽天モバイル事業が、初めてEBITDAベースで四半期黒字を計上したことは大きなトピックです。EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)は、事業の現金創出力を測る指標とも言われ、これがプラスに転じたということは「本業の収支バランスが大幅に改善した」ことを意味します。実際、楽天モバイル単体の四半期EBITDAは+56億円となり、前年同期の-135億円から約191億円もの改善となりました。売上も906億円と前年同期比33.5%増と大きく伸びています。契約者数は897万回線に達し(前年同期比+12%)、解約率低下と相まってARPU(加入者一人当たり収入)も2,474円と前年より114円アップしました。
この成果の背景には、楽天モバイルの料金戦略とサービス改善が奏功し、ユーザー基盤が拡大したことがあります。競合他社が値上げに踏み切る中、楽天は値上げを見送り顧客維持に努め、他社の価格改定も追い風となって解約率が改善しました。また、自社回線の基地局を前年同期比で約3,000局増設するなど通信品質向上にも投資し、ネットワーク品質も徐々に向上しています。こうしたユーザー数とARPUの増加により、通信事業の収入が安定して伸び始めたことがEBITDA黒字化の原動力です。
楽天モバイルのEBITDA黒字化は、楽天グループ全体にもプラスの影響を与えました。モバイル部門の収支改善により、グループ全体のNon-GAAP営業利益も前年同期から319億円改善し6年ぶりにQ2として黒字転換(2019年以来の四半期黒字)を果たしています。売上高もグループ連結で5,964億円と過去最高の第2四半期売上を記録しました。このように、EBITDA黒字化は楽天モバイル事業が“出血状態”から抜け出しつつある兆しであり、楽天経済圏全体にも再成長への期待を抱かせる明るいニュースと言えるでしょう。投資家にとっても「いよいよ楽天モバイルが収益貢献フェーズに入るかもしれない」という期待感を高める出来事でした。
しかし、表面的な数字の改善だけを鵜呑みにするのは禁物です。次のセクションでは、この“黒字転換”の裏側にある会計上のカラクリと残された課題について見ていきます。
減価償却という見えないコスト – PL黒字の光と影

EBITDA黒字化は確かに朗報ですが、これはあくまで減価償却費などを考慮しない指標である点に注意が必要です。楽天モバイルは参入以来、巨額の設備投資を行って自前の携帯電話ネットワークを築いてきました。その総投資額は数千億円規模にのぼり、それらは毎期減価償却費という形で費用計上されます。減価償却費とは過去の設備投資額を耐用年数にわたって費用配分したもので、キャッシュの流出を伴わない“見えないコスト”です。しかし、会計上はこのコストが営業損益や最終損益を大きく圧迫します。
実際、楽天モバイル単体ではEBITDAが+56億円だったにもかかわらず、同四半期のNon-GAAP営業損失は▲389億円を計上しています。つまり約445億円もの減価償却費等が発生しており、それを差し引くと営業赤字はなおも数百億円規模に及ぶということです。前年同期の営業赤字▲528億円からは大幅に改善したとはいえ、減価償却後の損益では依然として赤字が残っている状況です。このようにEBITDA黒字でも減価償却費を加味すれば営業利益は赤字となり得る点が、P/Lの“光と影”と言えます。
さらに最終損益(当期純損益)のレベルでは、楽天グループ全体で依然大きな赤字が続いています。2025年上期(1~6月)の連結純損失は▲1,244億円にのぼり、前年より赤字幅が拡大しました。なぜ営業利益が改善しているのに最終赤字がこれほど大きいのか。その要因の一つが支払利息など財務コストです。楽天はモバイル事業立ち上げの資金負担で有利子負債が巨額に上っており、利払い負担が利益を圧迫しています。実際、楽天グループの有利子負債残高は依然高水準であり、金利上昇局面では利息負担増加も懸念されます。この利息費用はEBITDAには含まれないため見えませんが、最終損益を悪化させる重大な要因です。加えて、減価償却費だけでなく基地局の固定資産税などのコストもかさみます(楽天はEBITDA算出時に固定資産税を除く独自指標も用いています)。つまり、EBITDA黒字化は「営業活動そのものは回るようになった」という目安にはなりますが、減価償却費・金利といったコストを賄える段階にはまだ達していないことを示しています。
要するに、楽天モバイル事業はキャッシュ面での採算ラインにもう一歩のところです。EBITDA黒字という光の部分の裏には、巨額投資のツケ(減価償却)という影の部分があり、依然として最終損益は赤字である現実があります。この現実を正しく理解するためには、「P/L上の利益」と「実際の現金増減」を切り分けて考える必要があります。そこで次のセクションでは、楽天モバイルのフリーキャッシュフローに注目し、“黒字転換は現金増に繋がったのか”を検証してみましょう。
フリーキャッシュフローと資金繰り – 債務再編・資産売却で凌いだ舞台裏

企業の健全性を測る上で鍵となるのがキャッシュフロー計算書です。利益が出ていても手元資金が増えていなければ、事業の持続可能性に黄色信号が灯ります。楽天グループの場合、2025年上期までの時点でモバイル事業単体のフリーキャッシュフロー(FCF)はまだマイナスと見られます。フリーキャッシュフローとは「営業活動によるキャッシュフロー(CFO)-投資活動によるキャッシュフロー(CFI)」で算出され、簡単に言えば本業で稼いだお金から設備投資など将来への投資支出を引いた“最終的に手元に残る現金”です。楽天モバイル事業はEBITDA黒字化により営業キャッシュフローは改善傾向にあるものの、依然として基地局増設などの投資キャッシュ支出がかさんでおり、単体でフリーキャッシュフローがプラスに転じたとはまだ言えない状況です。実際、楽天グループ全体ではフリーキャッシュフローの黒字化(プラス転換)が今後の財務改善の決定的なカギになると指摘されています。これはモバイル事業が社外からの資金調達に頼らず自前のキャッシュで回るようになることを意味し、楽天が目指すべき重要なマイルストーンです。
では、フリーキャッシュフローがマイナスの間、楽天はどのように資金繰りを維持しているのでしょうか。その答えが債務のリファイナンス(借換)と資産売却による資金調達です。楽天グループは莫大なモバイル投資を支えるため、これまで社債発行や銀行借入、増資などあらゆる手段で資金を調達してきました。例えば、2023年には楽天銀行の株式上場により約1000億円規模の資金調達を実現し、楽天証券にもみずほ証券が約800億円を投じて20%出資する提携が行われました。さらに2024年には、楽天カード株式の15%をみずほフィナンシャルグループに約1650億円で譲渡する資本提携も発表されました。これらは楽天にとって優良事業の一部を売却して現金を得る苦渋の策でしたが、背に腹は代えられません。実際、この楽天カード株売却により楽天は単体ベースで約1,593億円の特別利益を計上する見込みで、財務基盤強化に充てています。
加えて、楽天は通信インフラ自体の売却・資金化にも踏み切りました。2024年8月、楽天モバイルは世界的インフラ投資会社のマッコーリー(豪)らのコンソーシアムに対し、基地局や通信設備の一部をセール&リースバック(売却後にリースで借り戻す)するスキームで約1,500~3,000億円の資金調達を行う契約を発表しました。この取引により楽天は短期的に巨額の現金を得て流動性を確保すると同時に、設備の所有権を手放す代わりにリース料という形で今後支払いが発生します。CEOの三木谷氏は「世界的投資家とのパートナーシップで財務基盤を強化し、モバイルの収益化をさらに加速させる」と述べていますが、裏を返せば将来のコスト増(リース料負担)と引き換えに現在のキャッシュを確保した策と言えます。このように楽天は「時間を買う」ために資産を現金化しつつ、モバイル事業の自力でのキャッシュ創出が追いつくのを待っている状況なのです。
さらに楽天グループは既存の社債・借入金の返済期限を乗り切るためのリファイナンスにも成功しています。2025年に償還期限を迎える社債については、すでに必要資金を確保済みであり、劣後債(ハイブリッド債)の借換も実施済みと発表されています。また2025年7~8月には国内普通社債の発行にもこぎつけ、市場から追加の資金調達を行いました。これは「楽天には依然資金調達力がある」ことを示す材料であり、市場の信頼を繋ぎとめる意味でも重要な出来事でした。もっとも、調達コスト(金利)は上昇傾向にあり、将来的な金利負担増は避けられません。投資家としては楽天グループの利払い能力や社債の償還余力にも引き続き目を配る必要があります。
以上のように、楽天モバイルのEBITDA黒字化の裏側では、グループ全体で資金繰りを支えるための奔走がありました。債務の借換や資産売却といった施策でキャッシュアウトに耐え、何とか事業継続に必要な現金を確保してきたのです。これは決して楽天に限った話ではなく、大型投資フェーズにある企業に共通する現象です。したがって投資家は、「黒字転換」というニュースを聞いた際には、その企業のフリーキャッシュフローや財務施策にも目を向けるべきです。「黒字=お金が増えた」ではないケースが往々にしてあることを肝に銘じておきましょう。


結論:数字の裏にある物語を読む大切さ
楽天モバイルのEBITDA黒字化は、長いトンネルの先に差し込んだ一筋の光でした。巨額投資に苦しんだ挑戦的ビジネスがようやく収穫期に向かい始めたことを示す希望のサインであり、楽天経済圏の未来にとっても大きな意味を持ちます。しかし同時に、私たちはその“光”が放つ影にも目を凝らさねばなりません。減価償却費という見えないコスト、依然残る最終赤字、そして資金繰りを支えるための舞台裏の努力--決算書の数字の裏には、経営陣の葛藤と戦略が刻まれています。
今回、EBITDA黒字というニュースの意味と限界を会計・投資の視点から読み解くことで、「企業の黒字=手元現金が増えたわけではない」ことを確認しました。損益計算書とキャッシュフロー計算書の両面を見ることで、企業の真の姿が浮かび上がります。楽天は黒字化という目標の第一段階をクリアしましたが、次なるハードルはフリーキャッシュフローの黒字化と有利子負債の削減です。この壁を乗り越えたとき、初めて楽天モバイル事業は真に自立し、楽天グループ全体を牽引する存在となるでしょう。
投資家にとって重要なのは、数字の表面だけで判断せず、その背後にある物語を読み解くことです。楽天の挑戦の物語は、困難に直面しながらも知恵と工夫で道を切り拓く企業の姿を教えてくれます。私たちもまた、その姿から学び、決算という名の物語を深く理解する目を養いたいものです。そしていつの日か楽天モバイルがフリーキャッシュフローまで含めた真の黒字転換を果たした暁には、今日このブログで得た知見をもとに心から拍手を送りたいと思います。数字の陰に潜むドラマに思いを馳せながら、投資と会計の奥深さを知ることは、きっとあなたの投資判断を一段と高みに導いてくれることでしょう。現実を直視しつつ未来に期待を抱く——そんな目利き力を持った読者が増えることこそ、本記事を書く意義であり、皆さんの大きなベネフィットになると信じています。最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。あなたの投資ストーリーにも幸多からんことを、心より願っています。
深掘り:本紹介
もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。
決算書はここだけ読もう〈2025年版〉
決算書の要点を“どこを見るか”に絞って解説。PL・BS・CFの優先箇所がコンパクトに整理されており、EBITDAと営業CFの違いを直感的に掴む導入書として最適。最新版(2025年版)で実務感も新鮮です。
これならわかる決算書キホン50!〈2026年版〉
見開きの図解で“数字が示す意味”を具体例とともに学べます。収益性・安全性・成長性など指標の読み方が整理され、ARPUの伸びがPLにどう効き、減価償却や金利負担が利益とキャッシュにどう影響するかを橋渡しして理解できます。
決算書「分析」超入門2026(100分でわかる!)
“超入門→基礎→分析”と段階的に学べる一冊。収益性(EBIT/EBITDA)、効率性、キャッシュフローの見方が手早く身につき、楽天モバイルの「EBITDA黒字でもFCFは…」といった論点を定量的に検討するための土台づくりに向きます。
企業価値評価 第7版[上]・[下]
DCFの最新整理。上巻で価値評価の基本(割引率・キャッシュフロー定義)、下巻で応用と実務活用。EBITDAとフリーキャッシュフロー(FCF)の違い、CAPEX・減価償却・運転資本の扱いなど、本記事のテーマを“投資家の言語”で深掘りする決定版です(2024年の全面改訂)。
財務3表一体理解法「管理会計」編
“3表のつながり”を前提に、KPI設計や投資判断に踏み込む構成。ARPUや解約率などの事業KPIがPL→CF→資金繰りへどう波及するかを、管理会計の視点で整理できます。PLの見栄えとFCFという“実弾”のギャップを社内の意思決定に落とし込む際の実務感が得られます。
それでは、またっ!!

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