みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。
止める勇気は、あなたの利益と健康を同時に守れるとしたら?
近年、日本でも記録的な猛暑が続き、電力需要は急激に高まっています。例えば2025年6月には東京エリアのスポット市場価格が夕方に約28円/kWhまで跳ね上がりました。これは通常の数倍に相当する異常値で、これだけ電気代が高騰すると、「稼いで売上を伸ばす」ことより「生産を止めてコストを抑える」ほうが賢い場合が出てきます。本記事では、ピーク電力の高騰が企業の損益にどう影響するか、そして「止める勇気」が黒字を生む理由をお伝えします。同時に、需要応答(DR)を活用して「節電して稼ぐ」仕組みや、家庭における冷房の健康投資としての考え方も見ていきます。つまり、エネルギー原価×限界利益×健康経済の視点から、企業経営や家計に役立つ新しい発想を提供するのがこのブログを読むメリットです。
目次
猛暑で天井知らずの電力スポット価格

今夏のような異例の猛暑日が続くと、電力需要は従来の予測を大幅に上回ります。例えば米国中西部の電力市場では、PJM送電網が「6月のピーク需要は154GW」と予測したにもかかわらず、6月23日の夕方には160GWを超える記録的な需要が観測されました。このように予想をはるかに上回る需要急増は、同様の気象条件下で日本でも起きており、供給余力が乏しい状況では価格はうなぎ登りになります。日本でも2025年6月には、連日の猛暑で送電網がひっ迫し、平均的な午後の電力価格が28円/kWhに達する日がありました。供給量が限られている梅雨明け直後の時期であったため、晴天時の日照低下による太陽光発電の落ち込みと相まって需給バランスが崩れたことが主因です。結果、極端に高いスポット価格が発生し、電力コストが通常時の数倍に跳ね上がっています。
こうした事態は日本だけの現象ではありません。世界的にも熱波による電力不足の報告が相次いでいます。2023年夏の米国でも、猛暑の影響で各地の電力需要が記録的に高まり、日中の電力供給網は悲鳴を上げました。欧州では2018年の熱波でノルドプール(北欧)電力市場価格が前年同期比で約42%も上昇するなど、各地でスポット価格が高騰しています。このような供給逼迫は、一般的な電源増強だけでは対応が難しく、むしろ需要サイドの柔軟な対応が重要視されています。ニュースでも「電力網のカギは柔軟性」という指摘がされるように、ピーク時の余剰設備に頼るより、ピーク需要をそもそも削減する方策が求められています。
具体的には、各電力会社から家庭や企業に「節電のお願い」メールが届くのを経験した方も多いでしょう。熱波が直撃した夕方に、食器洗い機の使用を控えたりエアコンの設定温度を数度上げたりするよう求められるのはまさにDRプログラムの一環です。一定の節電量を実現すると、参加者に報酬が支払われる仕組みも整いつつあり、家計や事業者にとって「減らした分の電気」を稼ぎに変える時代が来ています。例えば米国PJMのDRでは総勢8GWもの電力需要をカバーし、約600万世帯分に相当する電力量を供給しているため、仮にこれらを発電で賄おうとすると原子力発電所を複数基稼働させる必要があったと言われます。要するに、DRによるピーク削減は電力網の安定化に大きく貢献しているのです。
工場経営の損益分岐点―「止める勇気」がもたらす利益

電力価格が急騰すると、電気を大量に使う工場経営も一変します。工場では通常、電気代も含めた変動費と固定費を賄った上で利益を得ます。利益計算式を簡単化すると、月間の生産量N、売価C、変動費(材料代・人件費・電気代など)をA、固定費をBとすると、利益は
利益 = N × C − ( N × A + B ) = N ( C − A ) − B
この式からわかるように、(C – A) がプラスでないと利益は出ません。すなわち「売価より変動費が高ければ、その製品をいくら作っても赤字になる」わけです。そして電気料金の高騰はAの部分を大きく膨らませ、(C-A)をマイナスに押し下げる要因となります。ピーク時のスポット価格で電気を購入している企業では、通常時に比べて製造コストが急上昇し、一瞬にして1個売るごとに赤字が増えるような状況も珍しくありません。売上を増やしても利益が出ないどころか、変動費が限界利益を食いつぶしてしまうのです。
では、このような状況で工場はどうすればよいのでしょうか。答えは案外シンプルです。「稼いでも赤字になるなら、稼がない(止める)ほうが得」という考え方です。生産ラインを止めれば変動費の電気代がかからず、利益計算式の N をゼロにできます。式(2)に当てはめれば、(C-A) がマイナスでも N=0 なら利益は -B(固定費の損失)だけで済みます。むろんゼロではなく、DR参加による報酬が得られれば、それは完全に黒字化するポジティブな収入になります。実際、多くの製造業ではピーク時に生産を停止してDRプログラムに参加し、電力節約分の報酬を得る動きが広がっています。産業用需要家向けのDRでは、大きく以下の3つの仕組みがあります:
- 容量市場への参加: 供給が逼迫するタイミングで予め電力使用量の削減を契約し、削減量に応じたインセンティブを得る。
- 需給調整市場(インバランス市場): 需給ひっ迫時に、電力会社や小売事業者から要請を受けて電力使用量を抑制し、削減分に対する報酬を受け取る。
- 小売事業者経由の経済DR: 電力卸価格の急騰を避けるため、小売業者があらかじめ契約している需要家に節電指示を出し、その抑制量に応じて報酬を支払う仕組み。
これらの仕組みを利用すれば、節電自体が新たな収益源になります。例えば日本最大手の電炉メーカー東京製鐵は、九州工場で日中に電炉を稼働させて太陽光余剰を吸収する「上げDR」で、2021年には年間540万kWhもの電力需要を創出しました。また、2022年3月の関東大手需要逼迫時には、東京の工場で操業開始を数時間遅らせるだけで約10万kWhの節電に成功しています。このように、工場側もDRで「電力を売らない=稼ぐ」ことで、結果として実質的な収益を得ているのです。
もう一つ重要なのは会計上の処理です。工場がDRで得た報酬は本業の売上ではないため、通常「営業外収益」や「雑収入」として計上されます。つまり会社の財務諸表上でも利益を押し上げる要因になります。ピーク電力によって本業の利益が削られる局面で、DR報酬が入ることは損益を大きく改善します。営業利益が薄い状況であれば、一時的な節電が本業以上の収入になることもあり得るのです。
家庭でも「冷房は投資」の発想――健康経済で考える冷房

企業だけでなく、家庭でもエアコンの電気代は「節約するもの」から「投資するもの」へと考え方が変わりつつあります。熱中症や高温環境下での生産性低下を防ぐことは、我慢による節電以上の経済的価値を生みます。例えばある研究では、高齢者が自宅でエアコンを使った場合と使わなかった場合のコスト便益を比較しています。その結果、猛暑日にエアコンを動かすための追加電力コスト(数百円程度)は、熱中症による入院を防ぐことで数万円以上の医療費削減につながり、「エアコン使用は費用対効果の高い健康投資」であると結論づけられています。実際、30名ほどの実験データから、最高気温35℃以上の日には熱中症入院リスクが4倍以上になり、全単身高齢者世帯でエアコンを使用した場合の追加電力コストよりも入院医療費の減少額のほうが大きいことが示されています。
若い働き手や学生も同様です。オフィスや学校での研究によれば、室温が1℃上がるだけで作業効率が明確に低下し得ることがわかっています。実際、アメリカのコールセンターでの実験では、室温25℃から26℃に上昇させたところ、業務効率が約2.1%も低下したというデータがあります。冷房を控えた分だけ家計の電気代は節約できますが、代わりに作業効率の低下や熱中症リスクの上昇を招けば、結果的に大きな損失です。例えば電力を節約して熱中症で入院すれば、数十万円の医療費・リハビリ費用がかかる恐れもあります。ある試算では、10畳の部屋でエアコンを1日10時間使った場合の電気代は月額約6,000円にすぎませんが、熱中症で軽症入院すれば最低3万円、重症だと20万円以上の費用がかかるとされています。つまり、「電気代200円」を惜しんで「数十万円」を払うのは非合理的なのです。
これをビジネス用語で表現すれば、冷房は立派な「資産への投資」です。将来発生しうる医療費・休業コストや生産性損失を未然に防ぐことで、正味現在価値(NPV)の観点から見れば明らかにプラスになります。起業家や投資家が新規設備投資を評価するように、家庭内の温度管理も効果と費用をNPVで計算する時代です。上で示したように、わずかな電気代で熱中症のコストを圧倒的に下回る効果が得られるわけで、まさに「冷房は健康投資」というわけです。政府の支援も議論されているように、今後はエアコン使用を社会インフラと位置づける時代かもしれません。
また、冷房は家族や社会全体の生産性にも寄与します。酷暑下で長時間働く場合、適切な室温を保つことで判断力や集中力を維持し、休みやすくもなります。「快適環境=パフォーマンス向上」の価値は数値化しにくいものの、企業のLCC(ライフサイクルコスト)計算においては作業員の生産性向上分を人件費換算して考慮するケースもあるほどです。高温・多湿が作業員の健康やミス率に悪影響を及ぼすことは、自動車工場や倉庫などでも指摘されており、適切な空調は事故防止・人材定着にもつながります。まさにエアコン代は「命を守る保険料」であり、一家の実質的な投資と考えて惜しみなく使うのが合理的なのです。


まとめ:勇気ある決断が生む新しい価値
ピーク電力の高騰に直面したとき、私たちは従来の常識とは逆の発想を要求されます。工場では「稼がないほうが儲かる」ケースが出現し、家庭では「節電よりも冷房投資」のほうが生活の質を守ります。経営者も家庭も、エネルギーコストと利益・健康のバランスを正しく見極める柔軟性が求められます。幸い、需要応答(DR)という仕組みが普及しつつあり、節電によって収益を上げる選択肢が整いつつあります。高値の電力を買い続けて赤字を垂れ流すより、高値時には思い切って生産を止め、代わりに節電報酬を得る。これには確かに「勇気」が必要です。しかし冷静に損益を分析すれば、それが「黒字になる魔法の一手」であることがわかります。
家庭においても同じです。少しの電気代で守れる命や生産性は計り知れません。節電時代においても、「快適さを犠牲にして何を守るのか」を問い直し、電気代を節約して病院代を払う愚を避けることが大切です。猛暑に負けず家族を守り、社員を守るために、エネルギーの使い方を賢く選びましょう。
真の賢者とは、ピンチのときに発想を転換し、新しい価値を生み出す人です。先行き不透明な気候変動時代には、「止める勇気」こそが命と利益を守る最大の武器になります。あなたもこの夏、電力需要のピークの中で立ち止まり、改めて損益分岐点を見つめ直してみませんか?必要なのは一点の勇気だけ。かつて経験したことのない暑さでも、適切な判断があれば必ず乗り切れる――そんな未来図を描けるはずです。
深掘り:本紹介
もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。
電力システム改革の突破口 ― DR・VPP・アグリゲーター入門
DR(需要応答)、VPP、容量市場・需給調整市場の基本から日本の制度設計・実務の勘所までを通読で掴める実務寄り入門。工場の“止める勇気”を制度とビジネスで裏づける一冊。
OpenADRによるデマンドレスポンス通信
DRの国際標準「OpenADR」を正面から解説。シグナル、イベント、実装フロー、実証事例まで網羅。アグリゲータ/需要家の技術理解と社内合意形成に使える。
スマートグリッドと蓄電技術
リチウムイオン蓄電池のモデル化・最適制御・運用を丁寧に解説。ピークカット/ピークシフトの定量設計に役立ち、DRと蓄電の合わせ技で“止めるだけじゃない”選択肢を拡げる。
世界の再生可能エネルギーと電力システム 電力市場編
電力市場の設計・コスト&便益・各国比較を図表で整理。スポット価格・容量市場・系統制約といった“価格シグナルと投資”の要諦を俯瞰できる。
公衆衛生がみえる 2024–2025
熱中症含む最新の公衆衛生データと予防策をビジュアルで整理。家庭の「冷房=健康投資」を定量で語るための背景知識として有用(医療費・リスクの見取り図)。
それでは、またっ!!

コメントを残す