みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。
そのR&D、ただの赤字?それとも1000量子ビットが開ける現金の扉?
最新の決算発表と技術ロードマップを受けて、量子コンピュータ界隈が大きくざわめいています。特に米国の量子ベンチャーRigettiは、2025年第3四半期の決算と2026~2027年の技術ロードマップを同時に更新し、2027年に“1000超量子ビット”システムの実現を目指すことを公表しました。
この記事では、こうしたニュースが株式市場や投資家心理にどう響くのか、そしてもう一つの大きな論点である「R&D投資は会計上の費用なのか、それとも資産なのか」という議論を、投資と会計の視点から深掘りしていきます。読者の皆さんには、最新の量子開発競争における勝者と敗者を見極める視点や、技術的KPI(キーペース・インジケーター)から売上KPIへのつながり方を理解することで、量子株投資の判断材料を提供します。
特に、ライバル企業であるIonQの最近の業績も参考にしながら、「PoC数からARR(年間経常収益)への橋渡し」とも言える評価ポイントを紹介し、数年先に芽吹くかもしれない“量子の花”を投資目線で見通します。
目次
Rigettiの最新動向:四半期決算と攻めのロードマップ

このセクションではRigettiの最新Q3決算と新しいロードマップを概観します。まず決算内容から見ていくと、2025年第3四半期(9月末)までの売上はわずか190万ドルにとどまる一方、非GAAPベースの営業損失は1070万ドル、GAAPベースの純損失は2億100万ドルと、研究開発投資や株式報酬評価が重くのしかかっています。一方で現金・現金等価物は約5億5890万ドル(四半期末)、ワラント行使後に6億ドルに達し、厚い資金基盤を確保しています。RigettiはCEOの声明で、「オンプレミス量子コンピュータへの需要が高まり、当社のR&Dとエコシステム全体を進める共同開発が活発化した」と述べており、パートナーシップ強化で技術面・販路面のさらなる拡大を目指しています。
財務結果:売上は低空飛行、損失は非現金項目が主導
今回の決算報告で特に注目されたのは、売上の伸び悩みと投資フェーズの損失です。売上高1.9百万ドルはアナリスト予想(約2.2百万ドル)を下回り、前年同期2.37百万ドルから減少しました。しかし、GAAP損失2億ドル(非現金評価分を含む)は、実はほとんどが株式ワラントの再評価による非現金項目の影響とされています。非GAAP損失はわずか0.03ドル/株に収まり、日々の事業活動から見ると収益性の改善傾向もうかがえます。このようにR&D費用などの先行投資で帳簿上の損失は大きいものの、現金余力は豊富であり、事業が止まっているわけではありません。
技術ロードマップ:1000量子ビットへの雄大な目標
Rigettiは同時に公表したロードマップで、2025年末までに100量子ビット超のチップレット方式量子システムを99.5%の二量子ビットゲート忠実度で提供すると発表しました。さらに、2026年末には150量子ビット超(99.7%)、2027年末には1000量子ビット超(99.8%)という驚異的な目標を掲げています。これらの数字は、「実用的な量子アドバンテージ」(有意義な計算が可能になる状態)に向けた長い道のりの一段階を示しており、同業他社との比較でも野心的です。一例として、同様に注目されるIonQは、2025年の技術マイルストーンとして64「アルゴリズム量子ビット(AQ64)」を既に達成し、世界記録となる99.99%の忠実度を実現したと報告しています。Rigettiの課題は、こうした技術進展を商用製品に転換し、具体的な売上に結びつけられるかです。
市場の反応と企業姿勢:投資家の不安と次の一手
決算発表後、Rigettiの株価は一時的に下落しました。これは短期的には収益予想の未達を嫌気したものですが、一方でCEOや投資家からは「R&Dは未来への投資」と評価する声も強くあります。投資家は単なる損益だけでなく、技術的マイルストーンやPoC(概念実証)案件がどれだけ実績化するかを重視しており、新たに獲得したPoC・導入案件(例えば9量子ビットシステムの2件、計570万ドルの受注)が実際の収益となるか注目しています。つまり、市場はRigettiの「将来キャッシュフロー」の物語に価値を見出そうとしているのです。以上を踏まえると、短期的に財務指標が厳しくても、中長期的には強固なR&D推進力と大規模なロードマップが後押ししてくれれば投資家に希望を与えられるでしょう。
R&Dは資産か費用か?――会計ルールと投資家マインド

このセクションでは、R&D投資の会計処理と市場評価のギャップを探ります。量子コンピューティング企業は研究開発に巨額を投じるため、会計上は費用計上で利益を圧迫します。国際会計基準(IAS 38)では、「研究フェーズの支出は即時費用化し、開発フェーズで一定の要件を満たす場合にのみ無形資産として認識する」と規定されています。つまり、研究活動自体は資産に計上せず損益計算書上のコストとなります。一方で投資家は、研究開発への支出を企業価値の源泉と見なしがちです。CFA協会の調査によれば、企業価値の大部分は無形資産によって説明できるとされ、投資家はR&Dなど無形資産の価値を高く評価しています。多くのテクノロジー企業が帳簿上では「資本装備率が低く、有形資産がほとんどない」と報告する一方で、市場時価総額は莫大であるのは、そのためです。
会計規則:研究開発費の処理
Rigettiを含む米国企業の場合、研究開発費は原則としてすべて費用計上されます。IAS 38でも「Research expenditure is recognised as an expense.」(研究支出は費用として認識する)と明確に定められており、会計上R&Dは貸借対照表に資産として載せることができません。その結果、巨額のR&D投資によって財務諸表上の利益は一時的に押し下げられます。この点は保守的な会計の立場からは透明性が高いものの、一方で成長企業の真の価値を損益計算書からは読み取りにくくなるという欠点があります。
投資家心理:無形資産としてのR&D
対照的に投資家はR&Dを会社の将来を担う無形資産と捉える傾向があります。CFAの調査でも、投資家の多数が無形資産を「企業の最も重要な価値ドライバー」とみなし、現在の会計制度ではそれが十分に反映されていないと感じています。たとえば、半導体やソフトウェアなど「資産と呼べるものがほとんどない」業界でも、企業価値は高く評価されるのは、研究開発力やデータベース、ブランドなど無形の強みを織り込んでいるからです。量子コンピューティングもまさにその延長線上にあります。今は損益計算書上の大赤字でも、R&Dを通じて得られた成果が将来市場を席巻するという物語があれば、投資家はその先行投資に高い期待をかけます。
テクノロジー投資としてのR&D:忍耐と戦略
研究開発は量子業界では不可欠かつ常に進行中のプロセスです。RigettiもIonQも、日々の製品化を目指しつつ、新しいマテリアルや回路、ソフトウェア技術の研究に莫大な資源を投じています。この「先行投資」は短期的には損益を圧迫しますが、技術習熟や市場優位性の確保を考えれば長期的な布石とも言えます。実際、リスクの高い量子セクターでは黒字化より技術的達成度が重視される傾向にあり、株価は研究成果や技術ロードマップの発表で敏感に動くことが多いのです。したがって、R&D支出は会計上は費用でも、「未来のキャッシュフローを生む種まき」と見なされるのが市場の常識になりつつあります。投資家はあくまで将来のリターンに目を向け、現在の決算は参考程度と捉えることが多いのです。
技術KPIから売上KPIへの橋渡し:PoCからARRへ

最終セクションでは、RigettiやIonQといった量子企業において、技術的指標(量子ビット数やゲート忠実度など)がどのように売上につながるのか、投資家が注目すべきポイントを整理します。現時点では量子コンピュータのユーザーは主に研究機関や大企業のR&D部門で、PoC(概念実証)の段階がほとんどです。2025年末の状況を見ても、「商用需要はまだ乏しく、大半の利用が研究やPoC試験によるもの」であり、実際のARR(年間経常収益)に直結していないのが現状です。そのため、量子スタートアップの投資判断では「PoCが実際の注文や継続的な契約に結びつくか」が鍵になります。言い換えれば、技術的に優れているだけでなく、PoC数をどれだけARRに転換できるかが勝負なのです。
PoC(概念実証)の実績と販売案件
Rigettiは今回の発表で、2台のNovera™システム(各9量子ビット)の購入注文を計570万ドルで獲得したと報告しました。両システムはアップグレード可能で、将来的に量子ビット数を増やせる設計です。顧客はアジアの製造大手とカリフォルニアの研究スタートアップで、いずれも社内での量子技術検証を進めています。これはまさにPoC段階のプロジェクトが実際の売上につながった例です。IonQでも、理化学研究所や自動車メーカーとの共同研究、Oak Ridge国立研究所とのグリッド最適化など多数のPoCが進行中で、その多くが将来の契約や共同開発につながる可能性があります。投資家はこれらを「技術リストの羅列」ではなく、長期契約やクラウド利用料といったARR獲得のポテンシャルとして見ています。
ARR(年間経常収益)の創出モデル
一般的にソフトウェア業界ではARRが成長を測る重要指標ですが、量子ハードウェア企業でもサブスクリプションやクラウド利用料は今後の収益源となり得ます。現時点では多くの量子コンピュータアクセスはAWSやAzureなどクラウド経由で提供され、ハードウェア販売は案件ごとの大口受注が主体です。専門企業では、プロフェッショナルサービスやソフトウェアライセンスで年数百万ドル規模のARRを確保している例もあります。IonQはクラウド利用や研究契約で2025年のガイダンスを1億ドル以上に引き上げており、ARRベースのビジネスモデルを急速に構築中です。一方、RigettiはまだARRの公表値は小さいものの、サービスモデルやソフト開発などで徐々に積み上げ始めています。投資家は企業のARR成長率を見て、「技術投資の回収速度」を評価しようとしています。
競合比較:IonQの高成長モデル
参考までに、同じ市場で競うIonQの動向にも目を向けましょう。IonQの2025年第3四半期売上は3990万ドルに達し、前年同期比+222%を記録しました。CEOは「ガイダンス上限を37%上回った」と誇っており、フルイヤーも1億600万~1億1000万ドルに引き上げました。これに対しRigettiの売上はまだ1~2百万ドルと見劣りしますが、技術分野での進捗や将来性では地道なポジショニングを進めています。IonQはすでに超高忠実度技術や大規模エラー耐性への道筋を示していますが、量子市場全体が成熟するまでは両者とも「PoCから本格利用への変換率」という点で投資家の注目を集め続けるでしょう。
結論:量子未来への期待と投資家の羅針盤
以上をまとめると、Rigettiの1000量子ビット構想は大きな夢と同時に長期的な挑戦でもあります。会計上はR&D費用が現状の損失を膨らませますが、それをただのコストと見るか、未来のキャッシュフロー創出への重要な「種まき」と見るかで見方は分かれます。読者の皆さんにとってのメリットは、単なる四半期の数字だけでなく、「技術ロードマップ→ビジネス展開→収益拡大」という投資視点の回路図を手に入れることです。Rigettiの動向を追い、IonQなどの他社と比較することで、どの技術がどのように市場で花開くか、自分なりに予測する力が養われます。そして何より、量子技術はこの先驚くべき未来を切り開く可能性があります。今日の苦労は未知なる計算パワーの種となり、遠くない将来に「量子アドバンテージ」という実を結ぶかもしれません。皆さんがこの記事で得た知識が、その量子時代を見据える羅針盤になれば幸いです。未来の可能性を信じて、一緒に量子の波に乗りましょう!
深掘り:本紹介
もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。
量子超越 ― 量子コンピュータが世界を変える
世界的物理学者が“量子で何が変わるか”を壮大に描く一冊。テック投資の“物語”づくりに効く最新教養。プレゼンや社内提案での「未来の絵」を磨きたい人に。買って損なしの決定版。
量子コンピュータまるわかり
「今どこまで出来て、何がボトルネックか?」をビジネス視点で手早く把握。国内外プレイヤーや実装事例までまとまっているので、競合比較やKPI設計の土台づくりに最適。軽量だけど実務に効く。
先読み!IT×ビジネス講座 量子コンピューター
量子を“事業の言葉”に落とす入門にちょうどいい。日本の動向や商用利用の現実感もつかめるので、ロードマップと収益モデルのギャップを埋めたい人におすすめ。
知財・無形資産ガバナンス入門
無形資産の見える化・評価・開示の実務を体系化。R&Dを“費用で終わらせない”ためのストーリー設計、社内ガバナンス、投資家コミュニケーションの指針に。量子スタートアップにも大型企業にも刺さる実務書。
Q&A 研究開発費・ソフトウェアの会計実務
研究開発とソフトウェアの会計処理をQ&Aで整理。IFRS/収益認識やクラウド時代の論点までカバーしており、「R&Dは費用か資産か」問題を実務レベルで腹落ちさせたい時の一本。経理・CFO・PdMの共通言語に。
それでは、またっ!!
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