会議前の“根回し”はコストか投資か──意思決定のNPVで検証

みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。

あなたの根回し、投資回収できていますか?

「根回しって、結局“昭和の慣習”でしょ?」——そう思っているなら、今日から見え方が変わります。根回しは“時間を食う面倒事”ではなく、プロジェクトのボラティリティ(不確実性)を下げ、成功確率を引き上げるためのリスク投資です。本記事では、日本の意思決定文化を尊重しつつ、ファイナンスの物差しで“やる/やらない”を判定する方法を提示します。読み終わる頃には、次の3つが手に入ります。

  1. 「事前合意=ボラティリティ低下→成功確率↑」のメカニズム
     なぜ根回しが意思決定の揺れ幅を縮め、実行段階でのブレや差し戻しを減らすのか。確率と分散の言葉で説明します。
  2. ロジ/利害/情の“三層シナリオ設計”フレーム
     資料のロジック(事実・数字)だけでなく、各ステークホルダーの利害(損得・KPI)と情(面子・不安・安心材料)までを織り込む設計図を具体化します。会議室に入る前に、どの順序で誰に何を渡すかがクリアになります。
  3. 「根回しコスト<やり直し特損」を数式化した投資判定式
     NPV(正味現在価値)で“根回しの費用対効果”を即断できるシンプルな不等式を提示。
     たとえば簡易形:
     根回し実施 ⇔ C_nema < Δp × ΔV + Δr × C_rework
     (C_nema=根回しコスト、Δp=成功確率の上昇、ΔV=成功と失敗の価値差、Δr=やり直し発生確率の低下、C_rework=やり直し一回あたりの特損)
     「何人×何時間まで根回しOK?」が、感覚ではなく数字で説明できます。

ターゲットは、日々プロジェクトを前に進める20〜30代のビジネスパーソン。意思決定工学×ファイナンスの視点で、根回しを“説明可能な投資行為”にアップグレードします。この記事の主張はシンプルです。根回しは“丁寧さ”ではなく“分散コントロール”であり、NPVで見ればやるかどうかは一発で決まる。 そのためのフレームと数式、使い方を、実務に落ちる粒度で解説します。

なぜ「根回し」は“投資”と言えるのか

会議前の根回しは、単なる礼儀でも社内政治でもありません。ファイナンスの言葉に置き換えると「不確実性(ボラティリティ)を下げて、成功確率を上げるためのリスク投資」。ここでは、初心者でもすぐ使える直感とカンタン数式で、根回しの価値を見える化します。

失敗コストの正体は「差し戻し+再稟議+機会損失」

プロジェクトが会議で否決・保留になると、再資料作成や追加検討、関係者の再集約が発生します。これが差し戻しコスト。さらに、意思決定が遅れたぶん市場の好機を逃す機会損失も膨らみます。たとえば新キャンペーンの承認が1か月遅れると、繁忙期を逃して売上が月100万円減るかもしれない。実は根回しの1〜2時間より、やり直し1回の方が桁違いに高いのが現実です。だからこそ「根回し=コスト削減の先行投資」という発想が効きます。

ボラティリティを下げる=「分散を小さくし、確率を動かす」

会議はサイコロではありません。出席者の理解度・不安・利害がばらつくほど、結論は揺れます。根回しとは、事前に論点を潰し、反対の理由を細かく“分解”して処理する行為。すると「想定外のツッコミ」や「会議中の感情のブレ」が減り、結論の分散が縮む=可決・条件付き可決に着地しやすくなります。直感的に言えば、会議を“初見プレイ”から“チュートリアル済みプレイ”に変えるイメージ。プレイの上達(理解共有)が成功確率pを底上げし、同時に差し戻し発生確率rを下げます。

5分で使える「根回しNPV」—やるか・やらないかの不等式

根回しを投資判断する最低限のパラメータは5つだけです。

  • Cₙ:根回しコスト(人数×時間×時給相当)
  • Δp:成功確率の上昇幅(例:0.35→0.50なら0.15)
  • ΔV:可決時と否決時の価値差(粗利・NPV差など)
  • Δr:差し戻し発生確率の低下幅
  • Cᵣ:差し戻し一回あたりの特損(作業+遅延の損失)

判断式はシンプルにこうなります。
根回し実施 ⇔ Cₙ < Δp × ΔV + Δr × Cᵣ

ミニ例で感覚を掴みましょう。

  • 根回し:4人×0.5h×8,000円/h=Cₙ=16,000円
  • 事前調整で:Δp=0.15(賛成増)、Δr=0.30(差し戻し減)
  • プロジェクト価値差:ΔV=1,000,000円
  • 差し戻し特損:Cᵣ=500,000円(作り直し+1か月遅延の機会損失)

右辺=0.15×1,000,000+0.30×500,000=150,000+150,000=300,000円
左辺=16,000円
300,000>16,000 なので「根回しはやるべき」。わずか30分の事前調整が、30万円分の期待価値を生む計算です。

—ポイントは、「丁寧だからやる」ではなく「期待値が上がるからやる」に言い換えること。パラメータは厳密でなくてOK。チームでざっくり見積もって、“右辺が左辺を十分に上回るか”だけを見ます。右辺が小さいなら、やることは2つ。①根回しの質を上げてΔp/Δrを伸ばす(論点の当たり方を変える、ステークホルダーの順番を入れ替える)。②根回しのやり方を軽量化してCₙを下げる(短い1対1、資料は箇条書き、決裁者の懸念だけ先に潰す)。この2軸で設計すれば、多くの案件で「短く深い根回し」が最適解になります。

最後に、この式の肝は“価値差ΔVを具体化する”こと。売上や粗利だけでなく、ブランド毀損の回避や重要KPIの前倒しも数字化して入れてください。価値が見えると、根回しの時間は“気合い”ではなく投資額に変わります。

ロジ/利害/情でつくる“根回しシナリオ”

「正しい資料なのに通らない…」その多くは“ロジック不足”ではなく、“設計の層”が足りないせいです。根回しは、ロジ(論理)/利害(損得)/情(感情・場)の三層をそろって設計してこそ効きます。ここでは初心者でもすぐ試せる、三層の作り方と順番をやさしく解説します。

ロジ:まず“結論→理由→根拠”を90秒に圧縮する

ロジは「正しさの芯」。でも厚い資料は会う前には読まれません。なので90秒ピッチを用意しましょう。

  • 結論:今回の意思決定で“何をYesとしてほしいか”。
  • 理由:数字で2〜3点だけ(例:粗利+〇%、回収◯ヶ月、カニバなし)。
  • 根拠:前提・計算式・比較案。前提差分(どの前提が結果を最も動かすか)も一枚で示す。
    さらに、選択肢比較表を作ります。A案・B案・据え置き案を横並びにし、NPV、投下コスト、主要リスク、代替案時の損失(機会損失)を記載。ここまでで相手の頭の中にΔV(可決と否決の価値差)が入ります。
    ポイントは「読み手が“自分の言葉”で語れるか」。相手が第三者に説明しやすいほど、会議当日の“想定外質問”が減って分散が縮む
    =反対が出にくくなります。

利害:ステークホルダーのKPIに“自分ゴト変換”する

次に「相手のKPIで語る」。まずステークホルダー表を作ります。

  • 誰が:決裁者、実務責任者、関連部門、現場。
  • 今のKPI:売上、粗利、在庫回転、CS、開発リードタイムなど。
  • メリット:その人のKPIがどう上がるか(WIIFM=What’s In It For Me)。
  • 懸念:予算・人手・失敗時の責任。
  • 交換条件:リソース補填、リスク分担、スモールスタート等。
    この表に、数字で“小さな配分”を添えます(例:「広告費の◯%を移し替え」「工数◯人週は他案件を延期」「成果配点の◯%をチームに付与」)。利害は“口約束感”だと効きません。配分・時期・責任分界を小さくても具体にすると、Δp(賛成増)が一気に伸びます。
    コツは優先順
    。①影響力が強い人、②実務が詰まる人、③決裁者の順で1on1。上流で「利害の芯」を固めてから、最後に決裁者へ“もう反対理由が残っていない状態”で入るのが鉄板です。

情:不安とメンツを先に“安全化”する

人は“正しいから”ではなく、“安全だと感じるから”動きます。ここで使うのが情の設計

  • メンツの確保:「あなたの懸念を軸に対策した」と事前に名指しでクレジットする(例:「在庫リスクは◯◯さん案で回避」)。
  • 不安の分解:最も怖いのは“責任の帰着”。パイロット版(限定ユーザー・限定期間)を提示し、撤退条件を先に合意しておく。
  • 言い換え:「許可してください」より「リスク低減済み案の最終確認」。「検討します」より「2週間の実装→指標△以上で本格移行」など、行動が小さく区切られていると人はYesしやすい。
  • 反論先出し:「コスト高では?」→“高い時の条件”を先に出し、代替も示す。「もし◯◯ならB案で回避」。反対の余地を残したYesは、会議での対面反論を減らし、Δr(差し戻し確率の低下)に効きます。
  • 場の整え:資料は1枚要約+補遺。会議前に要約だけ配り、当日は“論点決定”に時間を使う。席順や誰が最初に口火を切るか(序盤に中立〜賛成の人を置く)も、立派な“情の設計”です。

三層を重ねると、式の中身が具体になります。ロジはΔVの納得、利害はΔpの押し上げ、情はΔrの引き下げ。 つまり“勝ちやすく、やり直しにくい”状態を事前につくること。最小限の根回しでも、設計の順番(ロジ→利害→情)を守るだけで期待値は大きく動きます。今日から1案件、三層表をつくって1on1に臨んでみてください。驚くほど会議が“穏やかに”終わるはずです。

「根回しコスト<やり直し特損」をサクッと数式化する

ここでは、根回しにかける時間と手間が“本当に見合うのか”を一行の不等式で判断できるようにします。数式といっても小学生レベルの足し算・掛け算だけ。電卓なしでも3分で判定できます。

判断式はこれだけ

使うのは次の一行です。
根回しをやる ⇔ Cₙ < Δp×ΔV + Δr×Cᵣ

  • Cₙ(根回しコスト)=(関与人数)×(1人あたり時間[h])×(時給相当)
  • Δp(成功確率の上昇)=根回し後p−前p(例:0.35→0.50なら0.15)
  • ΔV(可決と否決の価値差)=承認時のNPV−否決/延期時のNPV
  • Δr(差し戻し確率の低下)=根回し前後の“やり直し発生確率”の差
  • Cᵣ(やり直し特損)=再作業工数+遅延の機会損失(1回あたり)

直感的には、右辺=根回しで増える“期待価値”左辺=払う時間コスト。右>左なら投資妙味あり、です。

3分クイック見積もり手順

Step1|Cₙを出す
関わるのは誰?何分?をざっくり積む。例:4人×30分×8,000円/h=16,000円
Step2|ΔpとΔrを決める
「論点が前もって潰れる分、可決にどれだけ寄る?」をチームでざっくり。反対主因を1〜3個つぶせるなら、Δpは0.1〜0.2Δrは0.2〜0.4が多い感覚値。
Step3|ΔVとCᵣを置く
ΔVは“この案件が通ったら粗利やNPVでどれだけ得か”。Cᵣは差し戻し1回で失う時間×時給+遅延1か月あたりの粗利で概算。
Step4|代入して判定
右辺と左辺を比べて、右が大きければGO。迷う時は最悪値(ΔpとΔrを半分に、Cᵣを8割に)でも右>左かチェック。

“最大根回し時間”を逆算する

忙しい現場では「どこまで根回ししていいの?」を秒で決めたい。そこで許容根回し時間の上限 h*を逆算します。
h* =(Δp×ΔV + Δr×Cᵣ)/(関与人数×時給)
このh*以内に収めるのが基本ルール。例えば、Δp=0.12、ΔV=120万円、Δr=0.25、Cᵣ=40万円、関与3人、時給6,000円なら、
右辺=0.12×1,200,000+0.25×400,000=144,000+100,000=244,000円
h*=244,000/(3×6,000)=13.5時間
3人合計で13.5時間=一人あたり約4.5時間まで根回し可。ここから逆に「1on1各30分×6人+10分フォロー」で設計すればOKという具合です。

例題:販促A/Bの承認

  • Cₙ:PM+営業+制作+データ担当の4人で各20分→10,600円(時給8,000円/人で端数丸め)
  • Δp:反対の主因が“在庫リスク”と“広告流入の質”。事前に在庫上限と品質閾値を決めるので0.38→0.53、Δp=0.15
  • Δr:差し戻しは3割→1割、Δr=0.20
  • ΔV:可決で繁忙期に間に合うと粗利+120万円、否決/遅延なら±0→1,200,000円
  • Cᵣ:再稟議+1か月遅延で600,000円
    →右辺=0.15×1,200,000+0.20×600,000=180,000+120,000=300,000円
    左辺=10,600円余裕でGOです。最悪シナリオ(Δp=0.07、Δr=0.10、Cᵣ=500,000)でも右辺=0.07×1,200,000+0.10×500,000=84,000+50,000=134,000円>左辺。

現場でのショートカット

  • Δp/Δrのコツ“論点の数”ではなく“結節点の数”で見積もる。決裁者が気にする3点のうち2点を先に潰せるなら、Δpは0.1以上のことが多い。
  • Cᵣのコツ:工数だけでなく遅延の機会損失(粗利/週×遅延週数)を必ず入れる。ここを漏らすと根回しが過小評価になりがち。
  • h*運用:h*の30〜50%を“最低根回し枠”に、残りは“追加論点が出た時のバッファ”にする。

以上。数式はシンプルですが、意思決定の“納得感”は劇的に上がります。「なぜ今30分の1on1を回るのか?」が数字で説明できるからです。チームで一度テンプレを作り、案件ごとにサクッと代入して運用してください。会議は“度胸”ではなく期待値設計で勝てます。

結論|根回しは“丁寧さ”ではなく、意思決定のリターンを底上げする投資

最後にもう一度、ポイントをやさしく一本に束ねます。根回しは「礼儀」や「政治」のためにやるのではありません。意思決定のボラティリティを下げ、成功確率を上げ、やり直しの特損を避けるための投資です。ファイナンスの目で見ると、私たちがやるべきことは明快でした。

  1. 事前合意は“分散”を縮める。初見の驚きを消し、論点を事前に潰すことでΔp(成功確率の上昇)が生まれる。
  2. 情報の抜けや不安を分解して処理すると、Δr(差し戻し確率の低下)が起きる。
  3. その効果は、Δp×ΔV+Δr×Cᵣという“期待価値”に変換できる。
  4. もしそれが根回しコストCₙを上回るなら、根回しは投資として正、というだけの話。複雑な理屈はいりません。

実務では、「ロジ/利害/情」の三層設計があなたの味方です。ロジでΔV(通ったとき・通らないときの価値差)を短く示し、利害で相手のKPIに変換し、情でメンツと不安を先に安全化する。順番は、ロジ→利害→情。この順で1on1を回すだけで、会議室の空気は穏やかに、議論は短く、決定は強くなります。根回しを“長く・重く”する必要はありません。今日からは、h*=(Δp×ΔV+Δr×Cᵣ)/(人数×時給)で上限時間を逆算し、短く深い根回しに切り替えてください。上限の30〜50%を最低枠、残りをバッファとすれば、忙しい現場でも回せます。

そして、数字は“自分を守る盾”になります。
「なぜ今、30分の1on1が必要?」と問われたら、静かにこう返せます。
「この30分で、期待価値が30万円ふえるからです」
根回しの会話が、単なる“お願い”から投資判断の言語に変わる瞬間です。

思い出してください。再稟議、作業やり直し、繁忙期を逃す遅延——これらは見えにくいけれど大きな損失でした。チームの疲弊も、機会損失も、すべてはCᵣに含まれます。あなたが今日、会議前に10分だけ要約スライドを磨き、主要ステークホルダーに1本の電話をかける。その小さな行動が、未来の1か月を救います。根回しは時間を奪うのではなく、未来の時間を買い戻す行為です。

最後の背中押しを。完璧を待たなくて大丈夫。推定でいい、ラフでいい。右辺(Δp×ΔV+Δr×Cᵣ)が左辺(Cₙ)を上回りそうなら、もうGOです。今日の案件で、三層シナリオの表を作り、3人にだけ先に当たってみましょう。会議の冒頭で、中立の一人が「事前に聞いていて、納得しています」と言うだけで、勝負は半分ついています。根回しは文化ではなく、確率と期待値のデザイン。あなたの意思決定は、もっと速く、もっと強く、もっと穏やかにできる。さあ、次の会議を“初見プレイ”から“勝ち筋プレイ”に変えていきましょう。

深掘り:本紹介

もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。

パーフェクトな意思決定 「決める瞬間」の思考法
“決める瞬間”を構造化。選択肢比較や基準設計の型がまとまり、根回し=分散コントロールという本稿の主張と相性◎。


ビジネススクールで身につけるファイナンス×事業数値化力
NPV・DCF・回収期間など“ΔVを数字にする”基礎がコンパクト。根回しNPVの右辺を見積もる実務感が身につきます。


超ざっくり分かるファイナンス「知識ゼロ」の人のための
WACCやNPVを“まずは直感”で掴む入門書。若手メンバーに共有して、チームで同じ土台を作るのに最適。


世界一やさしい 会議ファシリテーションの教科書 1年生
会議の設計・アジェンダ・役割の基本を平易に解説。ロジ/利害/情の“三層設計”を現場で回す具体手順として使えます。


心理カウンセラー弁護士が教える 気弱さん・口下手さんの交渉術
 相手の不安を下げる言い回しや、Noから始める着地づくりなど“情の設計”に効く会話術。Δr(差し戻し確率の低下)に直結。


それでは、またっ!!

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