みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。
あなたの「30秒の待ち時間」、いくら守れますか?
「特殊詐欺で失われたお金は、そのまま“地域の消費”から消える。」—これが本記事の主張です。2025年1〜7月の特殊詐欺は認知件数が前年同期比+44.9%の15,583件、被害額は722.1億円に達しました。内訳では、警察官を装う「ニセ警察」型が被害額の約2/3を占め、約481.9億円と突出。若年層の巻き込まれも拡大しており、ニセ警察詐欺では20〜30代が約4割にのぼります。数字の大きさに圧倒されますが、これは“家計の財布から地域のレジへ”つながるお金の流れが、そのまま蒸発しているということ。つまり、被害額は小売・サービスの売上機会の消失=地域経済の冷え込みに直結します。(参考:警察庁)
この記事では、初心者にも分かりやすく、次の3つの観点から「負の乗数効果」を解きほぐします。
- マクロ家計:詐欺で失われた可処分所得が、何にどれだけ響くのか(食料・日用品・医療費など必需支出への波及)
- 流通(小売・決済):高齢化が進む商圏ほど現金依存や来店頻度に偏りがあり、売上消失と現金回収の悪化が“二重苦”になりやすい構造
- 行動介入×企業の実務:本人確認(KYC/eKYC)や店舗・アプリの高齢者UX投資を「コスト」ではなく“社会的ROE(社会にとっての投資対効果)”として設計し、離反・損失・ブランド毀損をまとめて抑える方法
です。警察庁・報道の最新データをベースに、金融・小売の現場で今日から使えるアイデアまで落とし込みます。
ベネフィットはシンプルです。読めば、「家庭側は何をすれば防げるか」「小売・金融・通信の各社はどこに投資すれば“被害ゼロに近づけつつ、顧客体験も良くなる”のか」が腑に落ちます。難しい経済用語は極力かみ砕いて、図解イメージで伝えるつもりで噛み砕きます(例:被害額=消費の蒸発→地域の売上・キャッシュフロー→雇用への連鎖)。「犯行パターンは変わるが、人間の行動は変えられる」を軸に、具体策まで一気通貫でナビします。
目次
マクロ家計:詐欺で消えたお金は、どこで何を冷やすのか

まずは「家計の財布」にズームインします。特殊詐欺で失われたお金は、被害者の貯金や当面の生活費から抜け落ちます。2025年1〜7月だけで、認知件数は15,583件(前年同期比+44.9%)、被害額は722.1億円。しかもその約3分の2(481.9億円)が“ニセ警察”型に集中しています。つまり「想定外に一気に大金を失うケース」が多い。こうなると、被害世帯は外食やレジャーを控えるだけでなく、日用品の買い置きを減らし、医療・介護の自己負担まで見直しが及ぶことも。まずはこの“消費の蒸発”が家計に与える順序と深さを、初心者向けに分かる言葉でたどります。
被害額=「明日の買い物かご」から消えるお金
「被害額が増えると景気に悪い」は抽象的に聞こえます。もっと生活の目線に落としてみましょう。仮にAさん(年金暮らし・単身)がニセ警察の指示で“資金調査”名目に現金を引き出し、数百万円を失ったとします。Aさんは当面の生活防衛のため、①外食や嗜好品をやめる、②ドラッグストアやスーパーのまとめ買いをやめてチラシの底値だけを狙う、③定期通院の交通をタクシーからバスに切り替える、といった“小さくて具体的な節約”を重ねます。これらはすべて、地域のレジで鳴るはずだった売上の取りこぼしです。
ポイントは「節約が波及する範囲」。外食をやめると、飲食店の売上だけではなく、店が仕入れる生鮮・加工食品、清掃やリネン、アルバイトのシフト時間にまで影響します。Aさんが“いつも買っていた”豆腐や牛乳を1つ減らすだけでも、同じ町内で小さな“売上の穴”が生まれます。特殊詐欺の累計被害額が1〜7月で722.1億円という事実は、全国の地域商圏で「本来レジを通るはずだったお金」が同規模で消えたことを意味します。とりわけニセ警察型が481.9億円と突出しているのは、被害一件あたりの金額が大きく、生活再建に長い時間がかかるから。被害者が高齢であるほど、収入の挽回が難しく、消費抑制期間が長期化しやすいのが現実です。
「どこを削るか」の順番—必需と楽しみのせめぎ合い
家計は“いきなり全部”を削れません。ふつうは①ぜいたく・楽しみ費(外食、旅行、趣味)、②準必需品(おやつ、ペット用品、ブランド日用品)、③固定費(通信、保険、サブスク)、④本当の必需(食料・医療・介護・住居関連)の順に見直します。最初に切られるのは“楽しみの購買”です。商店街の喫茶、コスメのちょい買い、ベーカリーの新作、書店の雑誌—これら「気分を上げる小さな買い物」こそ真っ先に消えます。
ただし、被害額が大きいほど“準必需”にもハサミが入ります。例えば介護用品のグレードを落とす、整髪やカラーの頻度を下げる、総菜から自炊へ戻す、医薬品をジェネリックや大容量パックに切り替える—どれも悪いことではありませんが、地域の美容室・ドラッグストア・総菜店の売上に直撃します。固定費の見直しも動きます。格安プランへの乗り換え、不要サブスクの解約は合理的ですが、同時に「アプリでの買い物習慣」や「ポイント経済圏」の離脱にもつながり、結果として短期的に実店舗の方へ戻る人もいれば、逆にネット限定の最安値へ流れる人も出ます。
こうした“支出の置き換え”は、表面的には家計の合理化ですが、地域店舗の売上ミックスをじわっと変えます。値引きの強い大型店へシフトが進めば、個店は値引き競争に巻き込まれる。逆に近場の安い固定客向け商材に絞れば、粗利率が薄くなり資金繰りが悪化しやすい。被害者が増えるほど、こうした小さな選択の連鎖が地域の流通構造に“微震”を積み上げていきます。1〜7月の認知件数+44.9%という急拡大ぶりは、その微震の回数が増えていることの裏返しです。
地域に回るはずだった“お金の何回転分”が止まるか
難しい式は不要ですが、経済には「お金は地域で何度も使い回される」という基本の考え方があります。Aさんが3,000円の外食を控えると、飲食店は仕入れを少し減らし、仕入れ先の売上もわずかに減ります。店は利益が縮むぶん、広告を抑え、次の来客も減る—という具合に、1回の節約が2回、3回と波及していく。これをここでは“地域の回転”と呼びます。
特殊詐欺の厄介さは、この回転を“短期間に、しかも広域で”止めるところです。被害が集中する高齢層は現金比率が高く、現金が抜け落ちると即座に消費が止まる傾向が強い。しかもニセ警察型のように一件あたりの被害が大きい手口では、家計が「もう一度、同じペースで使えるようになるまで」の時間が長い。結果、商圏の回転スピードが落ち、売上の山(週末)と谷(平日)の差が大きくなり、余った在庫や人員配置のムダが増えます。
仮に地域で年間1億円の消費が3回転していたなら、総売上インパクトは3億円相当。ここから数%でも回転が鈍れば、雇用や仕入れに確実に影響が出ます。2025年1〜7月の被害額722.1億円の一部が、各地の商圏で“未会計のまま消えた”と考えると、その乗数的な影響の大きさがイメージできるはず。実際、警察庁の公表では前年の“年間”被害額(718.8億円)を今年は“7月時点で超過”しています。つまり回転を止める力が、例年よりもはるかに強い年だということです。
特殊詐欺は、被害者の「今日の買い物かご」から中身を消します。最初は楽しみの支出が減り、次に準必需や固定費の見直しが進み、やがて地域の売上ミックスを変えていく。被害一件あたりの金額が大きいほど、地域の“お金の回転”は長く鈍り、雇用や仕入れにも波及します。データが示す急増は、こうした微細な変化が全国で同時多発しているサイン。次のセクションでは、この波が「流通(小売・決済)」の現場でどう見えるのか、現金回収やSKU構成、在庫回転という超・実務目線でほどきます。
流通(小売・決済):現金が抜けると、売上と回収の“二重苦”が起きる

家計からお金が消えると、次に響くのは「地域の店」と「お金の回収ルート」です。とくに高齢者比率が高く、現金払いが多い商圏では、①レジを通る回数が減る(売上の減少)、②現金の取り扱いコストが相対的に重くなる(回収の悪化)という“二重苦”が発生しやすいのが実情。さらに今年は「ニセ警察」型の被害が金額ベースで約3分の2を占めるほど大きく、被害は現金の形で一気に流出しやすい=店の売上の戻りが鈍くなりがち、という構造的な逆風があります。まずは現場で何が起きているかを、難しい専門用語をできるだけ使わずに、順番に解きほぐします。
店頭で“売れ筋の動き”がじわっと変わる—まとめ買い減・日々買いの増減・SKUの圧迫
小売のレジは正直です。特殊詐欺の影響が出ると、まず「まとめ買い」が減ります。たとえばドラッグストアでいつもは箱ティッシュや飲料をケースで買っていたお客さまが、1個だけに切り替える。スーパーでも、調味料は大きな詰め替えではなく小容量に戻す。こうした“サイズダウン”は、在庫の持ち方(バックヤードの量)や棚割(どの商品を何 faced 見せるか)に直結します。結果として、高単価・大容量の回転が鈍り、小容量・低単価への依存が増えるため、売上総利益(粗利)の絶対額が落ちやすくなります。
さらに、被害の中心が「ニセ警察」型のように大金が現金で一度に抜ける手口だと、消費者は生活防衛のため“失敗しない買い物”に寄りがちです。新商品より定番、嗜好より必需、ブランドよりPB(プライベートブランド)。結果、SKU(品揃え)の幅を広げても試してもらえない状態が続き、開発費やスペースの回収に時間がかかります。こうしたミクロな変化は、統計で見える“件数+44.9%、被害額722.1億円(1〜7月)”というマクロの増加と歩調を合わせて、各地の売り場で同時多発的に起きています。数字は全国平均の話ですが、影響はあなたの商圏の棚で確実に起きる現象です。
現金回収コストの“割高化”—入金・両替・現金管理の固定費が目立ってくる
売上が減るだけが問題ではありません。現金を扱うための見えにくいコストが、売上縮小局面ほど重くのしかかります。たとえば、(1)釣銭の準備や両替の手間、(2)夜間金庫や入金サービスの利用、(3)レジ締め・現金差の調整にかかる人件費など。売上が細っても、これらはほぼ固定的に発生します。つまり、1円あたりでみるとコストが“割高”になっていく。
しかも、「ニセ警察」型のように高額の現金が一気に抜ける時期は、ATMや店頭での高額引き出しが増え、金融機関側は声掛け・通報体制を強化します。政府の総合対策2.0でも、高齢の顧客の高額払戻し時の声掛けや、一定基準に基づく警察への全件通報が促されています。これは社会全体にとって重要なブレーキですが、同時に店側には「高額現金への対応」「相談対応」の時間コストが発生します。さらに金融庁は“現金手渡し等は救済手続の対象外”と明示しており、現金が出た後は戻らないことが多い。だからこそ、出る前に止めるためのレジ前・ATM前の注意喚起が、回収コストの膨張と被害の拡大を同時に抑える“要”になります。
現場でできる“行動介入”—張り紙より一歩先へ(声掛け・UI・フロー設計)
掲示物だけで人は動きません。「行動の途中で止める」設計が効きます。具体的には次の三つ。
- ATM・レジ前の“状況連想型”警告:
NPAの「ストップ!ATMでの携帯電話」運動にならい、スマホを耳に当てたイラスト+“今、役所や警察の人と話しながらATM操作していませんか?”の短文を、ATM・サービスカウンター・店内ATMの動線上に複数枚配置します。還付金詐欺は“電話しながら操作”が典型。行動の最中に刺さる一言が効果的です。 - 高額現金の取り扱い時フロー:
サービスカウンターで10万円超の現金購入・返金・ギフト券購入などが発生した際、「最近“ニセ警察”の詐欺が増えています。今この場で身近な人に一言確認しませんか?」と声掛け→30秒の確認待ち時間を標準化。政府の総合対策2.0が促す高額払戻し時の声掛け・全件通報の考え方を、小売の“現金大口”にも拡張します。 - アプリ・会員UIの“高齢者UX”:
会員アプリやECのチェックアウトに大きいボタン・高コントラストを採用しつつ、「役所・警察・金融庁は、アプリや電話で“電子マネー購入”を指示しません」と購入直前に1行だけ常時表示。NPAや自治体は商店街と連携した注意喚起を継続しており、店のアプリに地域の防犯アラートを差し込むのも有効です。“張り紙→声掛け→UI表示”を重ねると、社会的ROE(社会全体の損失を減らす投資対効果)が生まれます。
なお、現金が口座から出た瞬間に救済は難しくなるという金融庁の注意点は、店頭教育の“核”に。スタッフ研修では「迷ったら止める・呼ぶ・待つ」を合言葉に、30秒の遅延が命綱になることを共有しましょう。
流通の現場では、売上の鈍化と現金回収コストの割高化が並行して進みます。だからこそ、行動の途中に割り込む設計(レジ前・ATM前の警告、声掛けフロー、アプリの1行表示)が効く。背景には、今年の件数+44.9%、被害額722.1億円(1〜7月)という異例のペースと、ニセ警察型の金額偏重があります。数字は国全体の話でも、対処は店頭の習慣から。次のセクションでは、企業の実務(KYC/eKYCや高齢者UX投資)を、費用ではなく“社会的ROE”を生む投資としてどう設計するか、ステップで整理します。
企業の実務:本人確認と高齢者UXへの投資を“社会的ROE”で設計する

ここからは「現場で何をやるか」を、むずかしい言い回し抜きでまとめます。要点は3つ。(1)“詐欺が通らない”本人確認のしくみを、使いやすさとセットで入れる。(2)店頭・アプリ・ATM前での“行動の途中で止める”仕掛けをつくる。(3)投資の効果は“社会的ROE=社会全体の損失を減らす力”で測る。2025年1〜7月は特殊詐欺の認知件数15,583件(前年同期比+44.9%)、被害額722.1億円。とくに「ニセ警察」型だけで481.9億円と金額の約3分の2を占めた事実は、対策の主戦場が“本人確認と現金の出口”にあることを示しています。だから、コストを“痛み”でなく“守りと攻めのリターン”に変換する考え方が必要です。
KYC/eKYCを“堅く・速く・やさしく”する—JPKI活用と段階的フラグ設計
まずは本人確認(KYC/eKYC)。「堅さ(不正を通さない)×速さ(顧客を待たせない)×やさしさ(高齢者でも迷わない)」の三拍子で設計します。実務のポイントは次の通りです。
- オンライン本人確認の標準装備化:
金融庁のQ&Aが整理するように、非対面でも本人確認を完結できる方法(本人確認書類画像やICチップ情報を使う方式など)が整備済み。ここにマイナンバーカードのJPKI(公的個人認証)を組み合わせると、入力ミスやなりすましの余地がさらに縮みます。デジタル庁の資料でも、口座開設や本人確認にJPKIを使うことで確実・スピーディーにできる方向が示されています。 - 段階的フラグで“止める・待つ”:
口座開設・送金・高額引き出し・ギフト券の大量購入など、不正が寄りやすい行為に小さな“段差”をつくります。例:初回は送金上限を低めに設定→JPKIでの追加確認で当日解除/短時間での連続操作はポップアップで30秒待機→それでも進むならコールバック(折り返し電話)を必須、など。 - “2027年の厳格化”を先取り:
非対面取引の本人確認は2027年4月にかけて一段と厳格化される見込みと解説されており(ICチップ読取の活用強化など)、今からJPKI前提のフローに置き換えておくと、制度変更時の“二度手間”を避けられます。 - “現金が出る前に止める”教育:
振込手続以外(現金手渡し・現金郵送等)は救済法の適用外=戻りにくいのが現実。社内研修は「迷ったら止める・呼ぶ・待つ」を合言葉に、“出口で止める”文化を徹底します。
KPIは、①JPKI利用率、②高リスク行為の途中離脱=未遂件数、③本人確認に要する平均時間、④高齢者の完了率(途中離脱率の逆)です。これらが安定して改善すれば、“堅さ・速さ・やさしさ”のバランスが取れてきたサインです。
店頭・ATM・アプリで“行動の途中に割り込む”—声掛けとUIの二刀流
つぎは行動介入。張り紙だけでは届きません。手を動かしている最中に、短いメッセージで“はっ”とさせる仕掛けが効きます。
- ATM前・店内動線での“状況連想型”注意:
「スマホで通話しながらATM操作していませんか?」。警察庁と金融庁が進める「ストップ!ATMでの携帯電話」運動の要点は“電話しながら=要注意”を社会の常識にすること。店内ATMやサービスカウンター脇など3か所以上に同じメッセージを置くと、行動の最中に刺さります。 - 高額現金の“声掛け→小休止”を標準化:
銀行では高齢顧客のATM出金制限や声掛けの取り組みが広がっています。小売も、10万円超の現金購入・ギフト券大量購入・高額返金には「最近“ニセ警察”詐欺が増えています。いまご家族に一言だけ確認しませんか?」と30秒の確認待ちをフロー化。“説明責任のタイミング”をつくるのがコツです。 - アプリの“1行ガード”:
チェックアウト画面に「役所・自治体・警察はATM操作や電子マネー購入を電話で指示しません」を常時1行表示。自治体の告知も同趣旨(「ATMでお金は戻りません」など)で、短く断定的な表現が誤解を減らします。 - 高齢者UXの具体:
ボタンは大きく、コントラストは強め、誤タップ時の元に戻すボタンは常に見える場所に。国内のJIS X 8341-3やデジタル庁のウェブアクセシビリティ解説を“最低限の品質基準”として適用し、拡大・音声読み上げ・自動再生音の停止などの基本を外さない。
ここでもKPIはシンプル。①店頭の声掛け回数と防止件数、②ATM・POSでの注意喚起表示の到達率(見た/押した)、③アプリの完了率・誤操作率、④アクセシビリティ改善後の問い合わせ件数の減少。見える化すると、現場の手応えが共有され、属人化を防げます。
“社会的ROE”で費用対効果を見える化—式・ダッシュボード・現場運用
最後に、投資の成果を*社会的ROE”で測る簡単な枠組みを示します。ここでいう社会的ROEは、(防止した被害額+回収コストの削減+ブランド毀損の回避価値)÷投資額のこと(社内向けのわかりやすい指標としての定義)。
- 防止した被害額:
警察庁の最新値(1〜7月722.1億円、うちニセ警察481.9億円)をベースに、商圏人口や自社の年齢構成で想定曝露額を置きます。店頭の声掛けで止めた件数×平均未遂単価を月次で積み上げると、“守ったお金”が見えます。 - 回収コストの削減:
現金回収は売上が細るほど1円あたりの固定費が割高化します。ATM・POSでの注意喚起、銀行の出金制限や通報体制との連携が回れば、現金の大量流出や店頭対応の長時間化が減少=人件費・手数料・両替費の圧縮につながる。 - ブランド毀損の回避価値:被
害が発生すると、コールセンター・店頭でのクレーム/相談が増え、SNSでの言及も跳ねます。“止めてくれた店”体験はNPSや口コミのプラスに振れやすく、長期のLTVに効きます。 - ④ダッシュボード化:
KPI(未遂件数、声掛け回数、JPKI比率、完了率、誤操作率、相談件数)を1枚のダッシュボードに集約。週次で“止めた額/かかった額”を並べると、費用→投資の意識に変わります。 - ⑤外部連携を収益視点で:
2025年6月、主要行と警察庁が情報連携協定を締結。小売・通信・決済も疑わしい挙動シグナルを銀行・警察に渡せば、被害の連鎖を早期に断ち切れます。制度厳格化の潮目(2027年の本人確認強化)も追い風。いまの投資は将来の遵守コスト回避でもあります。
まとめの式:
社会的ROE(月)=〔未遂×平均被害想定+(現金関連固定費の月次減)+(NPS上昇×1顧客LTV×該当顧客数の推定)〕÷(注意喚起・UI改修・研修・システムの月次償却コスト)。“止めた額”を数字で語ると、現場は動きます。
KYC/eKYCは堅く・速く・やさしく。店頭・ATM・アプリは行動の途中で止める。そして効果は社会的ROEで見える化する。2025年の“ニセ警察”偏重は、現金の出口と本人確認の質が勝負どころだと教えてくれます。制度面の連携も進んでおり、JPKIや声掛け・待機・制限の組み合わせで、被害そのものを発生させない運用に近づけます。企業にとっても、これはコスト削減とLTV向上を同時に満たす投資です。


結論|お金を守ることは、地域の元気を守ること
結局のところ、特殊詐欺は「誰かの財布」だけではなく、「まち全体の景気」を冷やします。被害額は数字で見るとただの合計に見えますが、その正体は“本来はレジを通って回っていたはずのお金”。1回の外食、1本のシャンプー、1冊の本、1回のカラーリング——そうした小さな購買の積み重ねが、雇用や仕入れ、地域のサービスの質を支えています。今年は1〜7月だけで認知件数15,583件、被害額722.1億円。前年の年間被害額718.8億円を7月時点で上回りました。これは「いつもの購買」が全国で広く失われているサインです。
でも、悲観で終わらせる必要はありません。行動は変えられます。読者のあなたが今日からできること、そして企業が明日からできることを、あえてやさしい言葉で、短くまとめます。
家庭ができる3つ
- 電話×ATMはゼロ:「役所や警察がATM操作を指示することは絶対にない」を家族の合言葉に。少しでも不安ならいったん切って家族に相談。
- 高額の現金は“持ち歩かない・渡さない”:現金引き出しや手渡しは“戻りにくい”リスクが最大。迷ったら待つ・呼ぶ。
- 見守りの共有:家族LINEやメモに「怪しい電話の特徴」を1行で貼る。“未来の自分”に効きます。
お店・金融・通信ができる3つ
- 行動の途中で止める:
レジ前・店内ATM・アプリのチェックアウトに、“状況連想型”の短文注意(例:「電話しながらのATM操作は詐欺です」)を常時表示。 - 高額現金は声掛け→30秒待ち:
ギフト券や高額返金・現金購入は一言声掛け+小休止を標準化。“その30秒”が被害の入口をふさぎます。 - 本人確認は堅く・速く・やさしく:
eKYC+JPKI前提に切替え、初回送金上限や短時間連続操作に小さな段差を設計。お年寄りが迷わないUIにすると、詐欺も通りにくくなります。
なぜこれが効くのか?
詐欺は“物語”で人の注意を奪います。だから貼り紙だけでは弱い。手を動かしている瞬間(ATM操作、レジ決済、送金ボタンの直前)に短く断定的なメッセージと小さな待ち時間を差し込めば、脳の“自動運転”が一瞬オフになり、疑う余地が生まれます。ここで家族や店舗スタッフ、銀行員と“人の目”がつながれば、被害は高い確率で止まります。これは行動介入の基本で、店舗の売上や現金回収コストにも直結する実務です。
そして社会的ROEという見方。本人確認やUI改修、研修や声掛けの時間は「コスト」に見えますが、実は(止めた被害額+現金関連の固定費削減+ブランド毀損の回避)÷投資額で測れる“投資”です。止めた1件は、ひとつの家庭の生活を守るだけではありません。その家計が使うはずだった日用品、食事、通院、暮らしの楽しみを守り、地域の売上の回転と雇用を守ります。店舗にとっては「止めてくれた店」という信頼がNPSやLTVを押し上げ、次の来店や口コミ、会員継続という形で返ってきます。社会全体では、7月時点で年超えの異常事態を、現場のひと工夫で少しずつ平常に引き戻せる。その積み上げが国の数字を確実に変えていきます。
最後に、この文章のキーメッセージをもう一度。
- 被害額=消費の蒸発。蒸発は、家庭の楽しみを奪い、まちのレジと雇用を冷やす。
- 対策は“行動の途中で止める”に尽きる。声掛け、UI、待ち時間。難しい仕組みより先に、ここを整える。
- 投資は社会的ROEで語る。数字で“守った額”を可視化すれば、現場も経営も一枚岩になれる。
“やさしさのある仕組み”は、もっとも強い防犯です。家族のメモ1行、店頭での30秒、アプリの大きなボタン。その小さな一歩が、次の被害をゼロに近づけます。あなたの一歩で、あなたのまちの景気が守られます。今日からはじめましょう。
深掘り:本紹介
もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。
だます技術
企業や自治体で急増する特殊詐欺の「口説き方・仕掛け方」を体系的に整理。電話・SNS・SMSなどチャネル別のだましのパターンを学べるので、店頭の声掛け文言づくりや社員研修の素材に最適です。
特殊詐欺の心理学
被害者が引き込まれる心理過程と、現場での「阻止機会(割り込みポイント)」を実証的に解説。対面・電話・ATMの各場面で“どの一言が効くか”の設計に役立ちます。
特殊詐欺と連続強盗 変異する組織と手口
“ニセ警察”型などの最新手口から、闇バイトの募集、受け子・かけ子の実態までを取材ベースで描く新書。資金の流れや組織構造を知ることで、店舗・金融の現場での警戒ポイントがつかめます。
モバイルアプリアクセシビリティ入門──iOS+Androidのデザインと実装
高齢者UXを意識した“読める・押せる・戻せる”画面づくりの実装ガイド。フォームや警告表示の作法、文字サイズやコントラストなど、会員アプリやECのチェックアウト改善に直結します。
60分でわかる! デジタル本人確認&KYC 超入門
eKYCの方式(撮影・ICチップ・公的個人認証)と導入時の論点、最新事例をコンパクトに整理。JPKI連携や上限設定など“堅く・速く・やさしく”なKYCフロー設計の土台になります。
それでは、またっ!!

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