みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。
残価は“運”ではなく“設計”に変えませんか?
EVの中古価格が想定より速く崩れ、リース・レンタカー・販売在庫を抱える事業者の決算に「残価保証の引当金/リース資産の減損/在庫評価損」の三重苦が押し寄せています。象徴的なのがレンタカー大手のEV売却・減損の連鎖。たとえばHertzは2024年に約2万台のEVを放出し、減価償却や処分で2億45百万ドル規模の損失を計上しました。中古EV相場の緩みと修理コストの高さが背景です。
一方、市場データでも残存価値の圧縮ははっきり。米英では2023年に中古EV価格が前年比で三割前後下落した局面があり、その後も新車値引きやリース満了戻りの増加が相場を押し下げてきました。英市場では「24カ月落ちEVの買取残価が新車価格の47%」といった指標も報告されています。
この記事では、この“残価ショック”を会計の言葉に翻訳します。具体的には、①残価保証の引当金(IFRS 16/ASC 842の再測定を含む)、②リース資産の減損(回収可能価額の見直し)、③ディーラー・メーカーの在庫評価損(正味実現可能価額)を、実務で起きている事象とつなげて解説。あわせて「バッテリーの老化=企業の“のれん減損”に似た構造」という比喩で、期待価値が毀損していくメカニズムを噛み砕きます。なお“のれん”は会計上、減損の戻入れが禁止されており、ソフト更新や保証延長で価値が“復活”しても、減損を取り消すことはできません――この原則がEVの経済性評価とどう交差するかも見ていきます。
メーカー保証は多くが「8年/16万kmで容量70%維持」を目安にしており、電池の健全性が二次流通価格の“下値”を形作ります。さらにOTA(無線)アップデートで機能・効率が改善されるケースも増え、ソフトが残存価値を下支えする新しい潮流も無視できません。こうした保証・ソフト要素を、のれんの再評価ではなく“識別可能な無形資産やサービス要素”としてどう位置づけるか――IFRS/US GAAPの観点で整理します。
そして家計側の意思決定は、値落ち・金利・電気代・メンテや保険を含む**総保有コスト(TCO)**で「買うか、借りるか」を判定するのが近道。中古相場のボラティリティが高い今こそ、キャッシュフローと残価リスクの“持つ・持たない”を定量で比べることが効きます。この記事を読み終える頃には、企業も個人も、EVの残存価値を“勘”ではなく“数式と仕訳”で扱えるようになります。
目次
EV“残価ショック”を会計のことばに直す

中古EVの相場が弱くなると、企業の決算では「残価保証の引当金」「リース資産の減損」「在庫評価損」という3つの科目が同時に重くなります。名前は難しくても、やっていることは共通しています――“将来見込んでいた価値(または利益)が薄くなったぶん、いまのうちに費用化しておこう”。ここでは、なるべく日常の感覚に置き換えながら、この三つの動きをスッキリ整理します。
残価保証の引当金:未来の「買い取り約束」の目減りを前もって費用化
残価保証は「リース満了時に○円で引き取ります」と約束する仕組み。約束した値(保証残価)より中古相場が下がるほど、差額を企業がかぶる可能性が高まります。そこで決算では、その“見込損”を引当金として計上します。
たとえば3年後の保証残価が200万円、いまの見積り中古価格が160万円なら、差額40万円が“将来の出血”候補。この分を現在の費用に振り替えるイメージです。
- ざっくり仕訳イメージ
費用(残価保証損失)××/引当金(残価保証)××
翌期以降、実際に買い取りで差額が発生したらこの引当金を取り崩して使います。
ポイントは「見積りを定期的にアップデートする」こと。相場が戻れば引当額は縮み、逆に相場がさらに落ちれば積み増します。家計でいえば“ボーナスで払う予定の修理費”を毎月積み立てるのに近い感覚です。
リース資産の減損:貸し出している車が“稼げる額”を下回ったら
リース会社が保有する車両(リース資産)は、本来「毎月のリース料+返却時の売却代金」で投資回収します。ところが中古価格が想定より落ちると、将来の回収額の合計が帳簿価額を割り込むことがあります。こうなると減損の検討です。
流れはシンプルで、①回収可能価額(これから得られるキャッシュの見積り)を見積もる→②帳簿価額を上回っているかチェック→③足りない分を一気に費用化。ここでの肝は「資産単位の見方」。個別の車両、または似た条件の車両グループで採算を見るのが一般的です。
- ざっくり仕訳イメージ
減損損失××/リース資産××
減損は“将来の稼ぐ力”の目減りをいま確定させる行為。いったん認識すると原則として戻し入れはできません。リース会社にとっては、料金の見直しや保守費の圧縮、販売チャネルの強化など“稼ぐ力”の底上げが同時並行で求められます。
在庫評価損:売れ残りリスクは“いまの売れる値段”で引き直す
ディーラーやメーカーの在庫車は、通常“取得原価”で計上します。ただし、値引き競争で“いま売れる値段(正味実現可能価額)”が原価を下回ったら、差額を在庫評価損として費用化。季節外れの服を原価では売れないのと同じで、「売れる値段」を基準に帳簿を引き直すわけです。
EVでは新型の航続距離アップ、急速充電性能の改善、ソフト更新の有無などが在庫の“売れ筋”を大きく左右します。型落ち感が出た在庫は、値札を下げても回転しづらく、評価損が膨らみやすい。逆に、保証の厚さやアップデート対応など“安心材料”が明確なら、下値は固くなります。
- ざっくり仕訳イメージ
在庫評価損××/商品(評価勘定)××
翌期、実際に売れた価格が見立てより良ければ、そのぶん利益が戻ります。ここは引当金や減損と違い、“売れた瞬間に最終確定する”のが特徴です。
三つの科目は「約束の差額に備える(引当金)」「稼ぐ力の低下を確定させる(減損)」「いま売れる値段で引き直す(在庫評価損)」という役割分担。共通するのは“早めに現実を数字へ落とす”姿勢です。EVは電池性能やソフト更新が価値の中核にあるため、相場は動きやすい世界。だからこそ、見積りの前提(中古価格、整備費、保証範囲、アップデート可否)をカレンダーに組み込んで定期チェックすることが、数字のブレを抑える近道になります。
メーカー保証とソフト更新――“のれん減損は戻せない”けれど、価値は補強できる

EVの評価を揺らす最大要因は、電池の体力とアップデート可否です。ここでは「保証」と「OTA(ソフト更新)」が中古価格や会計上の見積りにどう効くのかを整理しつつ、「のれん減損は原則として戻せない」という会計の大前提もあわせて押さえます。2024〜2025年にかけては、Hertzの大規模なEV売却や減損がニュースになり、残存価値に対する視線が一段と厳しくなりました。こうした地合いの中で、保証・ソフト要素は“下値の盾”としてどこまで機能するのでしょうか。
保証は“下値のフロア”を作る
多くの自動車メーカーは「8年/10万〜12万マイル(約16万〜19万km)で容量70%維持」を電池保証の目安にしています。Rivianは走行距離上限を17.5万マイルに拡大するなど、足元では条件強化の例も見られます。さらに米国では州・規制対応として、カリフォルニアが2026年モデルから“10年/15万マイルで70%維持、2030年以降は80%”といった要件を打ち出し、制度面からも“フロア”を底上げする流れが進行中です。中古車の買い手は「残り保証」が見える個体を好み、引き取り側(ディーラー・リース会社)の査定も安定しやすくなります。会計上も、保証が下支えするぶん、残価保証引当の見積りや在庫の正味実現可能価額にポジティブな補正が入りやすい、というロジックです。
OTA(ソフト更新)は“時間とともに良くなる資産”という物語を支える
EVはソフトで走り味や効率が伸びる稀有な耐久消費財です。航続や充電制御、安全機能の改善が“型落ち感”を薄めれば、リース満了時の下取りや二次流通の需要に効いてきます。実務では、OTA対応の有無やアップデート履歴を評価表に組み込み、回収可能価額(=これから稼げる現金)の見積りに反映させるのがコツ。たとえばTeslaは毎年多数のOTAを配信しており、「購入後に機能が増える」前提が中古相場の粘りに寄与する、という見立ては合理的です。研究・解説記事でも、OTAが機能追加や不具合修正を通じて資産価値を補強する点が指摘されています。
ただし、OTAがあるからといって市場全体の下落圧力を無効化できるわけではありません。2024〜2025年には新車値引きやフリート放出の増加で、BEVの買取相場が圧迫された局面が実際に観測されました。OTAは“個体差の上振れ要因”、一方で需給は“相場の地合い”――両者を分けて考えるのが実務的です。
「のれん減損」は戻せない――では何が調整できる?
ここが重要な会計の肝。のれんの減損は、IFRSでもUS GAAPでも原則として“戻入れ禁止”です。つまり、一度“期待価値の目減り”を認めたら、その後に保証延長やソフト更新で事業の見通しが改善しても、過去に認識したのれん減損を取り消すことはできません。この点は国際・米国双方のガイダンスで明確に示されています。
では、何もできないのか――答えは「できることも多い」。のれん以外の資産(例:車両という有形資産、識別可能な無形資産、販売用在庫)については、IFRSなら一定条件で減損の戻入れが可能ですし、少なくとも将来キャッシュ・フローの見積りは随時アップデートできます。実務上は、①保証・OTAを“サービス要素”や“無形の差別化”として事業の稼ぐ力(回収可能価額)に反映、②残価保証引当や在庫評価の前提(中古価格、販売日数、整備コスト)を最新データで更新、③減損テストでは他の資産の評価を先に見直してからのれん判定――という順番を踏むのがセオリーです。
保証は“底”、OTAは“上ブレの余地”。市場全体の需給悪化(例:フリート一斉売却)で相場が緩んでも、保証とソフトがあれば個体価値は下支えされやすい。一方、のれん減損そのものは会計ルール上、後から戻せないため、評価改善の果実は“将来の利益”や“他資産の評価”に現れる、という割り切りが必要です。実務で迷ったら、①保証残存・OTA履歴・電池健康度を定量指標として台帳化、②四半期ごとに残価・売却日数の市場データを取り込み、③テストの順序と単位(個体/グルーピング)を明確化――この三点をまず整える。これが“勘”ではなく“仕訳と見積り”で戦うための最短ルートです。
家計のTCO──「買うか、借りるか」は数式で決める

迷いどころはシンプルに「残価リスクを自分で持つか、他人(リース会社)に渡すか」。これを数式にすると腹落ちします。相場が荒い局面では、計算式+シナリオ分けがいちばん効きます。中古EVの値が動きやすい今はなおさらです。2024〜2025年のデータでも、EVは維持費が低い一方、減価のブレが大きく、TCOは“二層構造”(維持費は軽い/資産価値は重い)になりがち。だからこそ、残価の取り扱いで結論が変わります。
フォーム(型)を作る:TCOの基本式
- 購入
TCO=(購入価格−補助金)+金利(ローン利息)+保険・税金+電気代+メンテ・駐車場−売却見込額(残価) - リース/サブスク
TCO=(月額×月数)+初期費用(登録等)+保険・税金(込みのことも)+電気代+メンテ差額±解約・超過走行精算
違いは太字の残価。購入は自分が負い、リースは事業者が負います。相場が崩れた年は、後者が有利になりやすい構造です。実際、2024年以降は中古EVの流通が増えて価格が大きく調整し、在庫が厚いモデルほど残価が軟化しました。
前提の入れ方:電気代とメンテは“地味に効く”
EVはオイル交換などが不要で、メンテ費はガソリン車より軽いのが通説。米エネルギー省の比較でも、走行1マイル当たりの定期メンテ費はEVの方が低いと示されます。加えてAAAの年次レポートでも「EVは整備費は低いが、減価(デプリ)が重い」という傾向が明示されています。つまり、日々のコストはEVが有利、資産価値は読みにくい、という整理が妥当です。電気代は自宅充電中心か公共急速主体かで差が出るので、自宅:公共=8:2など、実態に近い比率で置くのがコツ。
シナリオを3本作る:相場「下振れ・横ばい・上振れ」
購入の場合は、売却見込額を3本線で置きます(例:下振れ70%/横ばい80%/上振れ85%など)。リースは逆に、残価調整や精算金の条件を読み込みます。2024〜2025年はフリート放出や新車値下げも重なり、短期での値崩れが現実化。こういう局面では、「3年乗って売る」前提の購入は下振れに敏感。反対に、リースは“残価が崩れたときに効く保険”になりやすい。Hertzの事例のように、企業でも残価の見誤りで巨額損失が出るほど相場は動くため、個人の防御としても合理的です。
ルール・補助の読み替え:税制や保証は“数字化”して入れる
地域の補助や税制は、購入では即時のキャッシュ減、リースでは月額の圧縮として反映されます。最近はリース経由で優遇がパススルーされる設計も多く、月額で実感しやすい。電池保証(例:容量70〜80%基準など)は二次流通での“下値のフロア”になり、結果的に売却見込額の下支えや、リースの超過劣化ペナルティ抑制につながります。制度や保証の条件は毎年更新されるので、契約前に最新条件を引用して数値置換が鉄則です。
具体アクション:今日からできるTCOチェックリスト
- 走行距離・充電比率(自宅/公共)・保険等級を自分の実績で固定。
- 同一グレードの中古落ち相場を3年分さかのぼって拾い、上記3シナリオに当てはめる。
- 充電単価は平日夜間/休日昼間など時間帯別を採用し、急速充電手数料も別立て。
- リースは残価・精算式・解約条項を表に落とし、距離オーバー時の1km単価をTCOに足し込む。
- OTAや保証延長の有無を“プラス要素”として売却見込額に微調整(上振れケースにのみ反映)。市場ではOTA対応や保証の厚さが下取り査定に効いたという報告が増えています。
日々の支出ではEVが優位、資産価値は相場次第――この二層を分け、残価リスクを誰が持つかで方式を選ぶのが合理的です。相場が不安定な今は、リースで保険をかけつつ、“満了後は中古で乗り継ぐ”という戦略も現実的。一方、長く乗るなら購入でも勝てます。答えは銘柄や地域電気代、充電スタイルで変わるので、上のフォームに自分の数字を入れて3本シナリオで比較してみてください。


結論:価値は“期待の設計”で守れる
相場が荒れた時期には、数字が冷たく見えます。残価保証の引当金は積み増され、リース資産は減損検討にさらされ、在庫は正味実現可能価額で引き直される。――でも、ここまで見てきたように、それは“失敗の告白”ではなく、“これからの判断を良くするための翻訳作業”です。将来の損失候補を早めに費用化し、資産の稼ぐ力を現実に合わせ、在庫はいま売れる値段で測る。会計は、曖昧な不安を具体的な数字へと刻み直し、次の一手を選べる状態に整えてくれます。
EVを巡る価値は、電池の体力とソフトの更新で毎日ゆっくり変化します。保証が“下値のフロア”をつくり、OTAが“上振れの余地”を支える。のれん減損は戻せない――この厳格なルールがあるからこそ、私たちは他の資産やキャッシュフローの見積りに敏感になり、前提を小まめにアップデートする習慣が身につきます。企業は、残価の見立てと回収可能価額を四半期ごとに点検し、販売・保守・ソフトの打ち手を同時に前へ。家計は、TCOのフォームに自分の数値を入れ、残価シナリオを三本引いて「買うか、借りるか」を淡々と決める。やることは難しくありません。必要なのは、“期待の設計図”を持ち、定期的に書き換えることです。
もし今、中古EVの相場ニュースを見て気持ちがざわつくなら、深呼吸して台帳を開きましょう。保証残存、OTAの履歴、電池健康度、売却までの計画――価値を決める要素は手元で管理できます。数字は味方です。期待を正しく設計できたとき、残価ショックは“避けようのない事故”ではなく、“想定内のコスト”へと姿を変えます。会計は恐れるものではなく、価値を守る盾。相場がどちらを向いても、準備した者から順に安心して進める。それが、EV時代の賢い戦い方です。
深掘り:本紹介
もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。
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それでは、またっ!!

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