深夜の一本が粗利を削る──配送KPI→PLの翻訳

みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。

深夜の一本、数字で決めていますか?

コンビニの“夜間配送”って、現場ではKPIで語られがちですよね。積載率○%、リードタイム○時間、配送回数○本――どれも大事。でもPLに落ちた瞬間、数字の意味がガラッと変わります。例えば、車両・人件費は夜間帯ほど固定化しやすい一方、店舗側では深夜〜明け方の欠品が“見えない機会損”として積み上がる。ここを翻訳できると、「もう1本走らせるか」「まとめて朝に寄せるか」の判断が、勘ではなく収益ロジックで語れるようになります。加えて、都市部ではマイクロハブ(小規模中継拠点)を挟む設計が有効です。最終区間を短くし、在庫を“待ち”ではなく“流れ”で回すことで、過剰在庫と緊急便の両方を圧縮できます。日本でも行政・民間でマイクロハブ導入や共同配送が具体的に進み、ルート最適化や拘束時間の短縮とセットで成果が出始めています。

もう一つ、見落としがちな論点が“行列=税”という考え方。レジ前の待ちやバックヤード不足による品出し遅延は、価格のように明示されない“心理コスト”。人はこの“税”を嫌って離脱します。夜間の在庫精度や補充タイミングがズレるほど、客導線に摩擦が生まれ、CVR(購入率)は下がる。だからこそ、配送KPIは店内のサービス動線と不可分に設計すべき。夜間に一気に荷を落として朝まとめて品出し――は一見効率的でも、深夜帯の需要山に穴を開け、結果として粗利を削ります。都市型店舗では、共同配送・マイクロハブ・AI配車の三点セットで“必要な時に必要な量を短距離で”届ける体制を作り、レジ前の滞留や欠品を同時に潰していく。この記事では、①車両・人件費の固定化 vs 欠品の機会損、②マイクロハブでリードタイム短縮→在庫縮小、③“行列=税”を避ける動線設計でCVR↑――この3本の柱を、ロジ会計×サービス設計×行動経済の視点でやさしく解きほぐします。明日からの会議で、そのまま使える“配送KPI→PL翻訳の型”を持ち帰ってください。

固定費と欠品の“見えない損”を同じ土俵に並べる

まずやることはシンプルです。配送側の「固定化しがちなコスト」と、店舗側の「欠品による見えない機会損」を、同じ単位に変えて比べられるようにすること。単位は“1便あたり/1時間あたり/1店舗あたり”のどれでもOK。大切なのは、判断の土台をそろえることです。ここを揃えないまま「もう1本走らせるべきか?」を議論すると、声の大きさ勝負になって迷子になります。

配送の固定費の正体をほぐす

配送は変動費に見えて、夜間ほど“ミニマム固定費”が顔を出します。車両(リース・減価償却・保険)、ドライバー(基本給+深夜割増)、拠点(夜間管理・仕分け人員)、そしてルートの空走リスク。これらを便数で割って「1便あたり原価」に直します。
カンタンな型はこうです。

  • 1便原価 ≒〔車両コスト/日+人件費/日+拠点夜間コスト/日〕÷ 実運行便数
  • さらに、距離と時間で割って「1kmあたり」「1分あたり」にも展開しておく

ポイントは“実運行便数”。見込みではなく、実績に合わせて週次で更新します。夜間は便数が減るほど、1便原価がグンと跳ねやすい。もう一点、混載率(積載重量やケース数)も補助指標に。積載が薄いのに“慣習で走らせている1本”は、原価を押し上げる最有力候補です。

欠品の機会損を数字にする

欠品はPL上“売上が立たなかっただけ”に見えますが、実態はもっと広い。単品の粗利を逃すだけでなく、「ついで買い」が消え、レジ前の待ちが伸び、次回の来店確率まで下がる。これを小さくても数字に寄せます。

  • 欠品粗利損 ≒ 平均単価 × 粗利率 × 需要量 × 欠品率 ×(1−代替率)
  • ついで買い損 ≒ 欠品に遭遇した客数 × ついで買い平均粗利
  • 行列“税”の損 ≒ 待ち時間増分 × 離脱率 × 平均粗利

現場での集め方は難しくありません。POSで「欠品時刻前後15~30分の販売数差分」を拾い、フェイス前の在庫ゼロ時刻(前回入荷時刻+品出し完了時刻)と照合。ついで買いはレシートバスケットの組み合わせ頻度で近似。行列は人感センサーや簡易カメラで“並び長・待ち秒”を取れば、離脱との相関が見えてきます。完璧である必要はなく、定義を固定して毎週ブレずに積み上げることが肝です。

“もう1本走らせるライン”を決める

最後に、追加1便の判断ラインを用意します。考え方は限界比較です。

  • 追加1便の限界費用(1便原価+追加で増える仕分け/積替えの微増分)
  • その便で減らせる“欠品由来の限界粗利損”(深夜帯の需要山に合わせて補充することで回収できる粗利)

判断メモの雛形はこれで十分。
走らせる=「限界粗利の回収見込み」>「追加1便の限界費用」
補正として、①曜日係数(週末・給料日後は需要山が高い)、②時間帯係数(0–2時より2–5時の方が回収幅が大きい店舗もある)、③品種係数(代替が効きにくいフラッグシップ商品は回収粗利が厚い)を掛けます。さらに、レジ待ちが伸びやすい店は“行列=税”の影響も上乗せ。ここまで定義すれば、会議で「体感」をぶつけ合わずに、しれっと数字で決まります。


夜間配送の1本は、原価の話であり、同時に“欠品と行列の連鎖”をほどく投資でもあります。両者を同じスケールに並べると、やる・やらないの線が静かに浮かび上がるはず。

マイクロハブで“近くて速い”を作り、在庫を軽くする

マイクロハブは、都市内に置く小さな中継拠点。幹線(センター→街)でまとめて運び、ハブで店別に切り分け、最終区間を“短い・軽い・回数多め”に変える仕組みです。メリットはシンプルで、①店着までのリードタイムが縮む、②店内の安全在庫が下がる、③緊急便や空走の削減でムダが消える。夜間帯の“あと一山”を取りに行くには、遠いセンターから太い便を引っ張るより、近いハブから細い便を回す方が合理的になりやすい。ここでは、時間の分解→在庫式への翻訳→導入の設計図、の順で手なりに掴んでいきます。

時間を分解し、短縮レバーを見つける

店に商品が並ぶまでの時間は、ざっくりこう分解できます。
T合計=発注~積込+幹線走行+中継処理+最終走行+荷降ろし+品出し
マイクロハブは「最終走行」と「荷降ろし前後の待ち」を直撃します。センター直行だと、①店間距離がバラつき、②夜間の受け入れ枠に集中し、③1便が重くて品出しが遅れがち。ハブを挟むと、最終走行の平均距離が短くなり、便を“薄く”できるので、店着後すぐ棚に載せやすい。やることは二つだけ。

  • 距離の短縮:ハブを需要重心(多店舗の真ん中)に置く。軽バン・カーゴバイク・徒歩台車を混ぜて、信号・路地に強い車両で刻む。
  • 待ちの平準化:店別の到着時刻を波ではなく“縦に細く”並べる。中継処理はクロスドック(通過型)で滞留ゼロを狙う。

試しに、センター→店の平均8km/25分が、ハブ→店で3km/10分になるだけで、1周回あたり15分浮く。これを夜間に4周回まわせば、単純計算で1時間の回収。浮いた時間は“欠品帯”に差し込む短便に変えられます。

リードタイム短縮が在庫をどれだけ軽くするか

店の在庫は“売れ行きのブレ×時間”で太ります。安全在庫の考え方をやさしく置き換えると、
必要在庫 ≒ 日販のブレ(σ)× 供給までの時間(L)に比例
つまり、Lを短くすれば在庫は素直に軽くなる。夜間のマイクロハブ運用で「1日2便→3便」にできると、実質のLが約1/3短縮。結果、①バックヤードの占有が減り、②棚前の補充が小刻みになって陳列精度が上がり、③賞味期限リスクも下がる。
もう一歩踏み込むなら、“足りなくなる確率”を下げるには、在庫を増やすよりLを縮める方が効くという発想を持っておくと判断が揺れません。店舗に“置いて守る”より、“近くから運んで守る”。これがマイクロハブの本質です。

導入ミニ設計図(小さく始めて、早く学ぶ)

実装は難しく見えて、段取りに落とすとこうなります。

  1. 地図で重心を見る:直近3か月の売上×欠品率で“重たい店”を色付け。円の重心付近に候補エリアを3つ。
  2. 最終区間の分布を出す:現行の店別“センター→店”距離・時間のヒストグラムを作り、中央値と裾(遠い店)を把握。
  3. 器の確保:夜間に使える小型物件(駐車場の一角、空き倉庫、商業施設のサービスヤード)をあたり、電源・照明・騒音の条件をチェック。
  4. KPIを3つだけ:ハブ滞留時間(分)、店着時刻の偏差(分)、ケース通過コスト(円)。増便してもこの3つが暴れなければ合格。
  5. 車両のミックス:軽バン+原付カーゴ+台車。細い道路・夜間の静音・短停車に強い組み合わせに。
  6. 運用の細工:店別カゴで“棚順”に並べる/レジ混雑時間帯を避けて納品枠を刻む/品出しを“到着10分以内”のルールで回す。
  7. POC(2週間):テスト期間だけ“深夜の短便”を1本増やし、欠品率・レジ行列・売上を観察。費用より、まず効果の感度を掴む。

注意点は、ハブの固定費と近隣配慮。夜間作業音・照明・搬出入の導線は最初から“静かに・短く”を設計に入れておくと揉めません。


マイクロハブは“倉庫を増やす話”ではなく、“距離と待ちを削る話”。近くに置いて短く回すだけで、棚は痩せ、欠品の谷が埋まり、売り逃しが減っていきます。

“行列=税”を減らす動線設計でCVRを上げる

「並ぶ=お金は払っていないけど、時間で課税されている」——この感覚を前提に店を組み直すと、売上は静かに伸びます。やることは3つだけ。①今どこに“税”が乗っているか見える化、②動線を短く・交差を減らす、③決済までの“最後の30メートル”を軽くする。配送の回し方を変えるだけでは足りません。店内の摩擦を同時に削ると、欠品の谷もレジ離脱も一気に浅くなります。

行列の“見える化”とCVRのつなぎこみ

まず、測らないと直せません。最低限はこれで十分。

  • レジ待ち秒:10分粒度で平均・最大を記録。
  • 離脱率:列に並んだが購入しなかった人数/来店者数。
  • CVR:購入者/来店者。

ここで大事なのは、1分待ち増でCVRが何%落ちるかの“感度”を出すこと。1週間分のデータを散布図にして、ざっくり傾きを読むだけでも意思決定は変わります。例えば「+60秒でCVR−3%」と見えたら、60秒を削るために必要な在庫・補充・レジ体制のコストを、売上の戻りで比較できる。さらに、“欠品×行列”の掛け算にも注意。人気商品が欠けた時間帯は、ついで買いも減り、レジは短いのにCVRが落ちることがある。指標は分けて、原因を取り違えないようにします。

動線を短く、交差を減らす——棚とバックヤードの微整形

行列の多くは、店内の“交差”が生む渋滞から発生します。処方箋はシンプル。

  • 一筆書き導線:入口→主力棚→ドリンク・スナック→ホットスナック→レジ、の順で人の流れがUターンしない並びに。特にドリンクと会計を遠ざけない。
  • 補充の“細切れ化”:夜間の到着便を“薄く”し、10〜15分で出し切れる単位に。台車で通路を塞ぐ時間を最小化。
  • ホットスポット緩衝:レジ前1.5mは“滞留専用レーン”として空け、突き当たりにPOPやカゴ置き場を作らない。
  • 棚前の即応在庫:欠けやすいフラッグシップは、棚下に“1回分の追い出し箱”を常備。補充1回=60秒以内を目標に。
  • バックヤード⇄売場の距離短縮:マイクロハブで入荷ケースを“棚順”に組んでおくと、店内歩数が半分以下になることが多い。歩数が減れば、補充の隙間時間が増えて列も縮みます。

効果は「補充1回あたりの通路占有秒」「ピーク帯の通行量(人/分)」で追うと因果が掴みやすい。交差が減ると、自然にCVRは上がります。

決済を“最後の30メートル設計”で速くする

レジ前こそ“税”の本丸。設備投資の大小に関わらず、できることは多いです。

  • 支払いの分散:セルフレジ1台でも“現金派の渋滞”を逃がす効果が高い。有人=現金・複雑処理、セルフ=キャッシュレス中心で役割を分ける。
  • 会計前ピットイン:レジ手前に“忘れ物救済”のミニ棚(電池・ガム・カップ麺トッピングなど高回転小物)を置き、列離脱を逆に“ついで買い”へ転換。
  • 袋詰めゾーンの独立:支払い完了後に半歩ずれる台を用意し、次の客がすぐ会計に入れるレイアウトに。
  • 90秒ルール:ピーク時は「並び開始→会計完了」まで90秒超過を警戒ラインに。ラインを超えたら、即席で“補充→レジ応援”へ役割転換。
  • メニューの摩擦を削る:ホットスナックやレジ横コーヒーは、グラム表記やカップサイズを一目で比較できる表示に。選択時間が5秒削れれば列はみるみる短くなる。

この“最後の30メートル”が軽くなると、配送や在庫の改善がダイレクトに売上へ伝わるようになります。逆にここが重いと、良い在庫もレジで蒸発します。


行列は“店の課税制度”みたいなもの。課税率(待ち秒)を下げる設計を重ねると、CVRは素直に上がります。配送の本数、ハブの距離、棚の順番、レジの一歩——全部つながっている。現場で触れる小さな摩擦から削っていけば、粗利は静かに積み上がります。

結論:深夜の一本は“勘”ではなく“翻訳”で決める

夜の道路は静かでも、店のPLは静かじゃない。配送のKPI、棚の欠け、レジ前の息づかい——全部が一本の線でつながっています。ここまで見てきた通り、鍵は“翻訳”。積載率や回転数といった現場の指標を、1便原価・限界粗利・在庫とリードタイムの関係へ地道に写し替える。そのうえで、マイクロハブで距離と待ちを削り、店内の交差を減らし、最後の30メートル(決済)を軽くする。この流れが揃うと、「深夜に一本増やすべきか?」の問いは、熱量ではなく数式で静かに答えが出ます。

実務で迷いやすいのは、“完璧なデータが揃うまで動けない”罠。ここは割り切って、小さく回して早く学びます。週次で1便原価を更新し、POSと観測で欠品粗利損の当たりを掴む。マイクロハブは暫定ロケーションでいい。ハブ滞留(分)/店着偏差(分)/ケース通過コスト(円)の3点だけを守り、2週間のPOCで“深夜短便”の効き目を測る。店内は、台車の占有秒とレジ待ち秒を削る小細工を重ねる。すると、多少粗くても“限界比較”が回り始める——追加1便の限界費用 < 回収できる限界粗利か、否か。線を越えたら走らせ、越えなければやめる。それだけ。

もう一つ、続けるコツ。現場の手触りを、会議室に“輸送”すること。棚前で起きた30秒の滞留や、バックヤードから売場への歩数のムダは、エクセルだけだと見えません。だから、散布図1枚と、現場写真3枚をセットで持っていく。数字で仮説、写真で納得。この二段構えが、部署をまたいだ合意形成を速くします。物流と店舗運営、設備と人、どれか一つだけを尖らせても、行列という“税”が回収してしまう。だから、近いハブ×薄い便×軽い動線を一本の施策として束ねる。投資は小さく、学習は速く、翻訳は一貫して。

最後に、粗利を守る視点。深夜の一本はコストではなく、“粗利を取り戻す権利”です。欠品の谷を埋めることで、ついで買いは戻り、レジの列は縮み、次回来店の確率が上がる。つまり、今日の一本が、明日の常連を連れてくる。数字は冷たいけれど、意思決定は温度を帯びます。あなたの店、あなたのエリアで、まずは2週間。一本の短便、ひとつの棚順、90秒のライン——小さく始めて、静かに勝つ。それが、配送KPIをPLに翻訳するということ。深夜の道路に一本、正しい線を引きましょう。

深掘り:本紹介

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