“安い労働力”の裏で跳ねるコスト—技能実習の処分で何が乗る?

みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。

その“安さ”、本当に利益を連れてきますか?

働く現場の「人権・安全」が守られないと、会社に何が起きるのか。—結論から言うと、会計数字に静かに、でも確実に効いてきます。厚生労働省は2025年11月5日、技能実習法にもとづく行政処分を公表しました。監理団体の許可取消しや、実習計画の認定取消しが出ています。これは一部の会社にとって、受け入れ停止や計画の見直しを迫るシグナルです。現場が止まれば納期が遅れ、再手配・再教育・仲介解約の調整…と、目に見えにくい費用が積み上がる。まずは「ニュースが出た=自社には無関係」ではなく、「サプライチェーンのどこで自分ごと化するか」を冷静に点検することが大切です。

この記事では、会計の目線で整理します。ポイントはシンプルです。(1)是正のために一度だけ発生するお金は“臨時費用”(実務では特別損失など)として跳ねやすい。(2)一方で、再発防止のための監査や教育、体制の上乗せは“販管費”として毎期かかり続ける。(3)だからこそ、購買条件に「人権・安全」のKPIを入れて、契約と評価を仕組みにしておくと、サプライチェーンの“将来特損”を避けやすい。難しい理屈は不要です。現場で何が増えるか、決算書のどこに表れるか、そして事前に何を入れておくか—この三つだけ押さえればOK。

読むメリットは三つ。第一に、行政処分のニュースを“自社の数字”に翻訳できるようになります。第二に、経理・購買・現場が同じ地図で話せるチェックリストが手に入ります。第三に、銀行・監査人・取引先から「人権デューデリは?」と聞かれたとき、迷わず答えられるようになります。専門用語は最小限。製造でもサービスでも、中小でも大企業でも使える「実務の言葉」で書きます。最後に、投資・会計の視点から、短期の痛み(臨時費用)と、長期の体力(販管費の恒常化)をどうバランスさせるかまで踏み込みます。今日のうちに、あなたの会社の“見えないコスト”を見える化しておきましょう。

ニュースを“自社の数字”に翻訳する

まず、今回の話を自分ごとに引き寄せます。難しい制度の説明より先に、「会社のどこに波が来るのか」を地図にしておく。ここがズレると、現場は走り回り、経理は数字を追いかけ、購買は価格交渉で消耗します。逆に、波の入り口と出口(=損益計算書のどの行に効くか)が見えていれば、手当はシンプルです。

何が起きたの?(事実の整理)

11月5日、厚生労働省は技能実習法に基づく行政処分を公表しました。具体的には、ある監理団体の「許可取消し」と、複数の受入れ企業に対する「技能実習計画の認定取消し」です。要は、監理や受入れの適正さに問題が指摘され、一部で受入れや実習の継続が難しくなった、というシグナル。公表資料は厚労省のサイトにまとまっており、処分の種類と対象が明記されています。ここでのポイントは、「制度のニュース」ではなく「サプライチェーンの該当性」を早めに確認すること。一次・二次・三次のどこかに該当先がいれば、納期や品質、人繰りに影響が出る可能性があるからです。

現場では何が増える?(コストの入口)

処分が出ると、直接の当事者でなくても、連鎖で“余計な動き”が発生します。たとえば——

  • 人員の再手配:派遣・アルバイトを短期で押さえる、他拠点からの応援移動。交通費や手当が上乗せ。
  • 再教育・安全講習:受入れ先が変われば、基礎からの教育や安全訓練をやり直し。講師費・時間外の教育手当が発生。
  • 仲介・契約の見直し:違約金や解約精算、書類対応の外部専門家費用(社労士・弁護士)。
  • 工程の組み替え:残業・休日出勤の一時増、外注の駆け込み発注で単価が上がる。
  • 物流の振替:代替サプライヤーからの調達で運賃・梱包費が増加、納期遅延ペナルティの可能性。
    どれも一つひとつは小粒ですが、重なるとそれなりの“塊”になります。しかも予算外。ここが経営を地味に痛める点です。

決算書のどこに出る?(コストの出口)

コストの出口は3つの棚に分けると見通しがよくなります。

  1. 臨時の是正コスト(単発):受入れ停止に伴う違約金、緊急の外注・教育のやり直し費用、トラブル調査の外部費用など。「今年だけドンと出た」性質が強い支出は、実務上は特別損失(臨時費用)として処理されることが多い領域です。決算説明では「一過性」として説明しやすい反面、キャッシュは確実に出ていきます。
  2. 再発防止の体制整備(毎期):監査の強化、定期のサプライヤー評価、教育の標準化、内部通報の拡充、現地監査の旅費など。性格的には販管費として恒常化しやすいコスト。月次の固定費をじわっと押し上げます。
  3. 原価への波及:工程の組み替えや外注単価の上振れは売上原価に乗り、粗利率を削ります。値上げで吸収できなければ、四半期の利益率が下にズレる。
    この3棚に仕分けて見積もれば、取締役会や銀行、監査人への説明もスムーズです。「一過性」「恒常」「原価」のどれがどれくらいか——ここを数字で言えるかどうかが分かれ目になります。

どう動く?(最初の30日プラン)

最初の一手は大がかりでなくてOK。

  • 該当性チェック(1日):購買・生産・人事でリストアップ。処分リストと自社サプライヤー・派遣元・監理団体を突合。該当候補に★印。
  • コスト見積(1週間):★印の取引について、上の「3棚」で粗見積り。目安で十分。
  • 契約の安全装置(30日内に着手):更新・新規の契約に、人権・安全のKPI条項(監査受入れ、教育実施率、重大事故ゼロ報告など)と、未達時の是正計画・価格調整のルールを入れる。将来の“特損”を予防する保険です。
  • 社内の見える化(随時):臨時費用と恒常費の見積を月次で棚卸し。四半期の見通しに反映。
    「早く、荒く、全体像をつかむ」。完璧主義より、まずは勘所を押さえることが効きます。

チェックリストと“実装のコツ”——現場・購買・経理が同じ地図で動く

ニュースを“自社の数字”に落とすには、手順を固定化するのがいちばん早いです。厚労省は11/5付で技能実習法に基づく行政処分を公表しました。まずは自社が影響を受ける可能性を素早く点検し、次にコストの置き場(臨時/恒常/原価)を決め、最後に契約と運用にKPIを組み込む。この3ステップを、紙一枚で回せる形にします。公表情報は厚労省サイトやOTIT(外国人技能実習機構)のプレス一覧にまとまっています。ここを“一次情報”として使うのがコツです。

サプライチェーン該当性チェック(所要:半日)

目的:どこに火種があるかを早割り出し。
やること

  • 監理団体・受入れ企業・派遣元の名称リストを最新化(購買・人事で突合)。
  • 厚労省の「行政処分」ページと名称で突き合わせ。一致/類似は全部ピックアップ。
  • 一致した取引先は“優先A”、可能性がある先は“要確認B”に色分け。
    落とし穴:名称の揺れ(英記・旧商号・協同組合の略称)。登記簿の正式名称で見ると漏れにくい。
    成果物:A/B色分けリスト(担当・金額・納期影響のメモ付き)。これで役員説明の“地図”が完成。

コストの置き場を早決め(所要:1日)

目的:決算インパクトを素早く見える化。
やること

  • A/Bリストごとに想定コストを3棚で箱入れ。
    1. 臨時費用(特損候補):違約金、緊急外注、調査・弁護士費、再教育のやり直し。
    2. 恒常費(販管費):定期監査、教育標準化、通報窓口、現地訪問の旅費。
    3. 原価へ波及:外注単価の上振れ、残業・休日出勤、物流振替。
  • 金額はレンジでOK(例:50〜80万円)。まずは粗く。
  • 経理は勘定科目と開示方針(一過性か、恒常か)をメモ化。翌期以降の固定費化が見えたら、来期予算に織り込む。
    落とし穴:「全部原価」「全部販管費」など一括り処理。説明が弱くなるので、発生理由で分けるのが鉄則。
    成果物:3棚サマリー(四半期・通期の利益率影響を一行コメント)。

KPIを契約に入れる(所要:2週間でドラフト)

目的:再発時の“将来特損”を予防する仕組み化。
やること(条項のひな型イメージ)

  • 人権・安全KPI
    • 年○回の現地監査受入れ/指摘是正率100%
    • 安全教育実施率100%(新規受入れ時+年1回)
    • 労災・重大事故ゼロ(発生時は24時間以内に一次報告)
  • 未達時の取決め:是正計画の提出期限、価格調整/一時停止の条件、再発時の契約解除。
  • エビデンス:教育記録、勤怠・宿舎の写真、第三者監査報告の提出形式を指定。
  • 更新タイミング:年1回のKPI再設定会議を議事録化。
    落とし穴:KPIが“絵に描いた餅”になること。監査の窓口(責任者名・メール)とデータ様式(CSV/写真要件)まで決めると回り始める。
    参考:厚労省の公表は処分の種類・対象・日付まで出るので、契約の「重大不履行」に“行政処分を受けた場合”を明記しておくと運用が楽。

運用の小ワザ(明日から使える)

  • 月次ダッシュボード:A/B件数、臨時費用の発生、販管費の積み上がり、原価率のブレを1枚。CFO・生産・購買が同じグラフを見る。
  • “一社集中”の見直し:特定監理団体・派遣元への依存率を算出。一定以上はセカンドソースで分散。
  • 監査は“短く・回数多く”:長大な年1回より、要点監査×四半期。サンプル抽出で現地の実在確認。
  • 現場の声ライン:外国人スタッフからの匿名通報を多言語で。月次で件数と対応状況を会議体に報告。
  • 価格交渉の言語化:KPI達成は加点要素、未達は減点と価格条件。情緒ではなく“点数表”で管理。

うまく回っている会社の共通点

  • 一次情報主義:SNSや噂ではなく、厚労省・OTITの公表で判断。
  • 小さく早い試運転:まず一部門・一取引でKPI契約をテスト→標準化。
  • 会計と現場が横で話す:臨時費用の見積を現場が作り、経理が棚に入れる。役割の分担が明確。

投資・会計の視点——短期の痛みと長期の体力を両立させる

ここからは「お金の置き方」を考えます。処分ニュースに反応して慌てて火消しをすると、臨時費用がドンと出ます。気持ちは分かる。でも、そこで終わると毎年じわじわ効いてくる販管費(監査・教育・仕組み化)が“重り”になります。ポイントは、守りのコストを“投資”に翻訳すること。同じ1円でも、説明の仕方と効果の出し方で、銀行・投資家・社内の納得度は変わります。

「臨時費用」は“痛みの地図”をつけて出す

臨時費用(特損候補)が避けられない時は、内訳と原因の地図を必ず添えましょう。

  • 分類:人員再手配/教育やり直し/契約・法律対応/物流振替、など“発生理由”で分ける。
  • つながり:どの工程・どの取引先・どの納期に効いたかを簡単なフローで示す。
  • 再発防止リンク:それぞれに対して、来期からのKPI・ルール(誰が・何を・いつ)を紐づける。
    こうしておくと、監査人や銀行に「一過性」だと説明しやすくなります。同時に、社内では学びの棚卸しになる。出血は痛い。でも、どこを切ったら血が出るかを把握できれば、次は守れる。

「販管費の恒常化」は“収益の話”に変換する

監査・教育・現地確認・通報窓口…これらは毎年かかる販管費です。ここを単なる固定費として扱うと、利益を削る敵になります。発想を少し変えて、売上と粗利を守る“保険+販売投資”として語りましょう。

  • 営業に効く:人権・安全KPIを持つサプライヤーは、大手の調達条件をクリアしやすい。新規商談の参加資格を得る効果がある。
  • 価格に効く:KPI達成を点数化し、“信頼プレミアム”として単価に数%の上乗せ交渉ができる土台になる。
  • 品質・納期に効く:監査と教育は結果的に手戻り・やり直しを減らし、原価のブレを抑える。
    会議では、「販管費がX増 → 失注回避Y件/値引き抑制Z%」のように売上・粗利での回収ストーリーを短く語るのがコツです。

“小さなROI”で確かめてから広げる

一気に全社展開をすると、現場が疲れます。小さなROI検証→横展開が安全です。

  • 対象を絞る:依存度の高い取引先・工程から着手(上位20%で全体の80%をカバーしがち)。
  • 指標を3つだけ:①納期遵守率 ②手戻り率 ③KPI未達件数。まずはこの3つで十分。
  • 期間は90日:四半期で前後比較(入れる前と後)。数字が動いたら勝ちパターン。
  • 意思決定の型:数字が良ければ標準化、変化が乏しければ設計見直し。やらない・続けるを淡々と決める。
    ROIは難しく考えなくてOK。「月○万円の監査費用 → 失注回避で売上△万円を守れた/手戻り減で残業△時間削減」——このレベルで十分に経営判断ができます。

未来会計:銀行・投資家が見ているもの

資金の出し手は、“ルールで動く会社かどうか”を見ます。

  • 方針→手順→記録の三点セットがあるか(紙1枚のポリシー、チェックリスト、実施ログ)。
  • KPI未達が起きたときの是正ループ(期限・責任者・再発防止)が回っているか。
  • 情報開示(サステナビリティ報告)の粒度が年々良くなっているか。
    ここが整っていると、与信や資本コストで静かなご褒美がつきます。逆に、場当たり運用は資金調達の見えないコストになります。

——短期は「痛みを見える化」、長期は「守りを投資に翻訳」。この二段構えで、処分ニュースを自社の筋力アップに変えられます。

結論:ニュースを“痛み”で終わらせず、“体力”に変える

行政処分のニュースは、たしかに嫌な響きです。けれど、ここで終わらせない会社は強くなります。ポイントは三つだけ。(1)起きた費用を分解して見える化(臨時/恒常/原価)(2)再発防止を“仕組み”として契約に入れ込む(人権・安全KPI)(3)守りのコストを売上・粗利に結び直す(参加資格・信頼プレミアム・手戻り削減)。これを回せば、短期の“痛み”は学びに変わり、長期の“固定費”は投資に変わります。

初心者向けにもう一歩だけ噛み砕くと——「何にいくら?」「毎年いる?一回きり?」「それで売上・粗利は守れた?」を、毎月同じ紙で確認するだけです。難しい理屈はいりません。名称を突合し、A/Bで色分けし、3つの棚にコストを置き、KPI未達なら是正の締切と責任者を書く。ここまでできれば、監査にも銀行にも説明が通ります。何より、現場・購買・経理が同じ地図を持てる。

“安い労働力”は、実は高くつくことがあります。人権と安全を大切にする仕組みは、遠回りに見えて一番の近道です。安全な現場は品質を安定させ、欠品やクレームを減らし、価格交渉の土台になります。数字は正直です。だからこそ、今日決めた小さな手順が、来期の粗利と信用を守ります。ニュースは通過点。あなたの会社の意思とやり方次第で、“将来特損の芽”は、将来利益の芽に変わります。静かに、淡々と、でも確実に—今月から回していきましょう。

深掘り:本紹介

もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。

『サプライチェーンにおける人権リスク対応の実務』
弁護士×コンサルが、人権DD(デューデリジェンス)を“手順”に落とし込んだ現場本。チェックリスト、証憑、契約条項の勘所までまとまっているので、購買・法務・現場が同じ地図で動けます。「まず一冊」ならこれ。


『図解 不祥事のグローバル対応がわかる本』
サプライチェーン上の不祥事を“10類型”で整理。初動、広報、再発防止、取引先対応まで図解でスッと入ります。「臨時費用を最小化する動き方」が具体的に掴めて、役員説明にも効く。

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

図解 不祥事のグローバル対応がわかる本 [ 竹内 朗 ]
価格:2,530円(税込、送料無料) (2025/11/9時点)


『責任ある企業の行動原則を踏まえたサプライチェーンリスクとコンプライアンスの実務』
人権・ESG・経済安保・サイバーまで横断で俯瞰。規制地図を一枚にしてくれるので、“どこから整えるか”の優先順位が立てやすい。KPI設計の「漏れ防止」にも。


『2024年版 日本の労働経済事情—人事・労務担当者が知っておきたい最新トピック』
制度改正や動向を“最新の土台知識”としてキャッチアップ。技能実習に代わる新制度の流れも押さえられるので、社内の方針決め・研修資料づくりにちょうどいい。


『不法就労リスクを防ぐ 外国人雇用における在留資格の法律実務Q&A』
受入れ現場の「これってOK?」に即答できるQ&A形式。在留資格の落とし穴を避けられるので、将来特損の芽を早期につぶす実務武器として有用。

それでは、またっ!!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です