みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。
補助金が消えた明日、そのEVはいくら「残る」?
今、自動車業界で何が起きているのか、そしてそれが私たちの生活やお財布にどう影響するのかを深く理解できます。中国のEV大手BYD(ビーワイディー)が日本市場向けに“軽自動車”サイズの電気自動車(軽EV)を投入し、日本のメーカーや政府を慌てさせています。一方で、新しく誕生した政権がEV補助金の見直しを示唆し、市場のルールが大きく変わる兆しも出ています。その結果、「補助金ありき」で成り立っているビジネスモデルには思わぬ損失リスクが潜んでいるのです。
本記事では、BYDの軽EV参戦による市場の変化と、新政権によるEV補助金政策の転換がもたらす衝撃について、投資や会計の視点を交えて丁寧に解説します。読み終えれば、単なる車好きとしてだけでなく、ビジネス感覚や将来の資産価値を見通す“プロ目線”でEV購入や市場動向を判断できるようになります。20~30代の若い社会人でも分かりやすく噛み砕いているので、明日から同僚や友人にも語りたくなる知識が身につくはずです。新しい技術や政策の変化に踊らされず、自分にとって本当に得な選択を見極めるヒントをぜひ掴んでください。
目次
海外勢BYD、「軽EV」で日本市場に本格参戦

まずは、中国のEVメーカーBYDがなぜ日本独自の軽自動車市場に挑んでいるのか、その背景とインパクトを探ります。軽自動車は日本の新車販売台数の3割以上を占める特別な市場で、これまで海外メーカーが本格参入した例はほとんどありませんでした。それだけに、BYDの参戦は業界に大きな波紋を広げています。本セクションでは、BYD軽EVの特徴や戦略、そして日本の自動車業界・政府の反応を3つの観点から深掘りします。
BYD初の“軽”EV「RACCO(ラッコ)」登場!
2025年10月末、東京で開催されたジャパンモビリティショー2025でBYDは日本市場向けに開発した初の軽規格EVとなるプロトタイプ「BYD RACCO(ラッコ)」を発表しました。この車は日本専用モデルであり、全長・全幅・全高はそれぞれ軽自動車規格ギリギリの3395×1475×1800mmに収まっています。4人乗りで前輪駆動、そしてBYDが得意とするリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP電池)を搭載するなど、小さいながら本格的なEVスペックです。
まだ市販前のプロトタイプですが、BYDの東福寺厚樹社長は「魅力的で手の届きやすい価格にする」と公言しており、その価格設定に注目が集まっています。具体的な価格は未公表ながら、先行する日産サクラ(軽EV)の259万円(補助金除く)より安い200万円台前後になるとの見方が強いです。実現すればガソリン軽自動車並みの価格帯であり、EVとしては破格の手頃さです。さらに、車名の“ラッコ”は同社の「ドルフィン(イルカ)」や「シーライオン(アシカ)」と同じ海洋シリーズに位置付けられ、日本向けに親しみやすいネーミングである点も興味深いところです。
低価格帯の商品投入により、「まだEVは高いから様子見」と考えていた層にも購入を検討させるインパクトがあります。「ガソリン代高騰で家計が苦しい中、この値段の軽EVなら試してみたい」という消費者の声が掴めれば、日本市場のゲームチェンジャーになり得ます。BYDラッコの登場は、これからEVデビューする多くの人にとってEVを一気に身近な存在にするかもしれません。
“軽自動車王国”日本に走る衝撃と警戒感
日本の軽自動車市場は、長年ホンダ・スズキ・ダイハツなど国内メーカーが独占してきた牙城です。税制優遇や維持費の安さ、駐車場規制の緩さといった制度的メリットもあり、地方を中心に幅広い層に支持されてきました。海外メーカーがほとんど参入できなかった理由は、日本独自の軽規格への対応が求められる割に利幅が薄く、“世界戦略車”として旨味が少ないと見られていたからです。ところがBYDはその常識を覆し、この閉ざされた市場に乗り込んできました。
この動きに対し、日本政府や業界内では警戒の声が上がっています。ある政府関係者は「物価高で生活が厳しい中、価格勝負の軽EVが消費者に受ければ日本勢はひとたまりもない」と危機感を示しています。実際、BYDは2023年からATTO3やDolphinなどSUVや小型ハッチバックEVを日本で販売してきましたが、月平均販売台数200台程度と苦戦していました。しかし軽という“大市場”に狙いを定めた今回の戦略転換は、日本メーカーにとって無視できない脅威です。
国内最大手の一角であるスズキの鈴木俊宏社長も、BYDの軽EV参入について歓迎と警戒を同時に表明しています。「新たな競争が始まる」こと自体は健全だとしつつ、「日本人の中国製品への心理的抵抗は低くなっており、BYDは大きな脅威になる」とも語りました。かつては「中国製=不安」というイメージがあったかもしれませんが、最近では家電やスマホで中国メーカーに馴染んだ若者を中心に抵抗感が薄れていることも背景にあります。価格と性能さえ良ければ、ブランドより実利を取る消費者が増えているのです。
さらに経済安全保障の観点からも注視されています。自民党の自動車議員連盟会長を務める森英介氏は「EVで中国メーカーが世界的に台頭してきており、強い危機感を持っている」と述べました。直ちに国内メーカーが売上を奪われるとまでは見込んでいないものの、日本政府としても戦略産業である自動車分野に中国資本が入り込むことを慎重に見ている様子です。BYD軽EVの参入は単なる新車発売ではなく、「自動車先進国ニッポン」に中国メーカーが攻め込む象徴的な出来事として受け止められているのです。
BYDの狙い:先行者利益とブランド確立
では、なぜBYDは敢えて効率が悪いとも言われる軽自動車規格に踏み込んできたのでしょうか?その背景には、「世界の自動車大国・日本で認められたい」という戦略的な思惑があると指摘されています。SBI証券の自動車アナリスト遠藤功治氏は「日本で売れることは一つのステータスであり、真の自動車メーカーになった証だ」と分析しています。つまり、世界でも難攻不落な日本市場で実績を示すことが、BYDのブランド価値向上につながるのです。
また、BYDは中国本国でEV販売台数トップクラスの実績を持ちながら、日本市場では2023年1月の参入以来2025年9月まで累計販売約6,598台と社内計画を大幅に下回る苦戦を強いられていました。この現状を打破すべく、市場規模が大きい軽セグメントに照準を定めたと考えられます。日本はEV普及率がまだ2~3%と低く、BYDから見ると「電動化導入期」の市場です。ここで“先行者利益”を掴み、EVの一般消費者への浸透を一気に進めようという意図も見て取れます。
BYDが自社開発したラッコには、日本の元日産エンジニアも一時参加していたものの、途中で退職し「開発詳細は全く共有されなかった」と証言しています。このエピソードからは、BYDが極秘裏に素早く商品化を進め電撃投入する方針だったことがうかがえます。まさに奇襲のようにライバル不在の市場へ切り込むことで、日本勢がEVシフトに手間取っている間にイニシアチブを握る狙いでしょう。
さらにビジネス面では、販路の全国展開にも動き出しています。BYDオートジャパンは2025年内に販売拠点を全国80か所に拡大し、翌年には全47都道府県をカバーすると発表しました。地方の軽自動車需要が高いエリアにも積極的にディーラー網を広げる計画で、これは国内メーカーにとって脅威です。かつて海外勢が軽を本気で売ろうとしなかったために守られてきた“小さな王国”に、ついに強敵が本腰を入れて乗り込んできた構図です。
BYDの軽EV「ラッコ」は、日本の自動車市場に新風を巻き起こす存在です。破格の価格設定と、中国メーカーへの抵抗感薄れという追い風を背景に、消費者の心を掴む可能性を秘めています。日本の業界・政府はこの挑戦を歓迎しつつも強く警戒しており、EVシフトの主導権争いがいよいよ本格化する兆しです。「日本でEVが売れた」という実績を勝ち取るべく攻勢をかけるBYDと、それを迎え撃つ国内勢——その戦いの行方は、日本経済と私たちのカーライフにも大きな影響を与えるでしょう。
新政権のEV補助金見直し、その狙いと影響

次に注目すべきは、日本政府のEV補助金政策の大転換です。2025年秋に誕生した新政権(高市早苗政権)は、EV普及を支えてきた補助金制度の見直しを示唆しています。ここでは、現行の補助金制度がどのような仕組みで、特に外国メーカー車にどんな影響を与えていたのかを整理します。そして新政権が補助金縮小・停止に舵を切ろうとする背景に迫り、その政策変更が業界や消費者にもたらすインパクトを3つのポイントから考察します。
現行のEV補助金制度と「軽EV優遇」の実態
日本ではEV購入時に国からCEV補助金が交付されます。2025年度の場合、普通乗用車EVの基本補助額は上限85万円、小型・軽EVは上限55万円となっています(これに性能や政策貢献度に応じた加算措置があり、最大でそれぞれ90万円と58万円まで増額されます)。さらに自治体独自の補助金も併用でき、多い地域では数十万円上乗せされるため、総額100万円以上の補助を受けて購入するケースもあります。この補助金のおかげで、たとえば300万円のEVが実質200万円前後で買えるといったことが起き、EV普及の大きな推進力となってきました。
特に軽EVは国の補助上限が58万円(2025年度)と比較的手厚く設定されています。日産サクラや三菱eKクロスEVといった国内メーカー製の軽EVはフルに近い57万4千円の補助金が支給されており、ガソリン車との差額を大きく埋めています。その一方で、補助金額の算定には「メーカーの取組み評価」による差が存在します。航続距離や外部給電機能、充電インフラ整備状況、サイバーセキュリティ対策などの項目で点数付けされ、基準を満たす度合いによって補助額が増減される仕組みです。表向きは性能や社会貢献度を反映する制度ですが、実際には「ブラックボックス」との指摘もあり、結果的に外国メーカーへの補助金が低く抑えられているケースがあるのです。
その典型例がBYDやテスラへの補助金額の低さでした。国沢光宏氏の自動車評論によれば、2023年度の補助金額を見ると、テスラ車は外部給電機能無し・充電網未整備でも約87万円もの補助が出ていた一方、BYD車は航続距離も長く急速充電設備もある好条件なのに35万円程度しか出ていなかったといいます。国内メーカーのEV(例えば日産アリア等)は最大85~89万円出ていたので、BYDは日本勢の「3分の1」程度しか補助金を受けられていなかった計算です。この不自然な格差について、中国政府が日本政府に抗議していたとの情報もあり、補助金制度が事実上国産優遇・外資冷遇になっていた可能性が示唆されています。
軽EVに関しても、仮にBYDが参入した場合は当初補助金が極端に低く抑えられる懸念がありました。国沢氏は「サクラやN-ONE e:は軽EVなので57.4万円補助金が出る。今年度BYDが軽を出したら20万円程度ではないか」と予測しています。もしそうなら、日本勢と比べて37万円ものハンデです。国内軽EVが補助金適用後に実質200万円台前半で買えるのに、BYDラッコは補助金が少ない分、同じ価格帯を実現するのが難しくなるわけです。「補助金頼みの価格競争力」という構図が透けて見え、この制度下では日本メーカーが逃げ切れるとの読みもありました。
しかし、こうした不公平な補助金格差は持続可能ではないとの見方もあります。公平性を欠く制度設計はWTO(世界貿易機関)ルールに抵触する恐れがあり、日本政府内でも「あからさまな外国排除はできない」という声が出ています。実際、2025年7月の日米交渉では「EVよりFCV(燃料電池車)を優遇する補助制度を見直す」と日本が約束しており、補助額の格差縮小に舵を切る方針が示されました。このように、従来の補助金制度には内外から改善圧力がかかっていたのです。つまり、新政権の方針転換は突発的な思いつきではなく、ある程度予見されていた流れとも言えます。
高市新政権、「EV補助金ストップ」を示唆
2025年3月、高市早苗氏が首相就任前のテレビ番組で語った発言は業界をざわつかせました。それは「私やったら、EV補助金は止める」というものです。高市氏は「あれで儲かってるのはアメリカのテスラとか中国のBYDとかでしょ?」と指摘し、EVやその電池の多くが海外製なのに国費(税金)で補助するのは国益に合わないとの持論を展開しました。彼女の試算では、補助金を2年間止めれば約3,000億円の歳出削減になり、その分が国の「得」になるとも述べています。
この発言通り、高市政権は誕生後にEV補助金制度の抜本的見直しを示唆する報道が相次ぎました。「環境性能割(燃費性能に応じた自動車取得税の軽減措置)の凍結を検討」「ガソリン税の一部減税」など、EV推進とは逆行するような施策も取り沙汰されています。実際、EVは従来、環境性能割が非課税だったのですが、それが凍結されれば優遇が失われます。またガソリン価格を下げる政策を優先すれば、消費者はEVよりガソリン車に留まろうとし、「EVよりHV(ハイブリッド)が有利」という雰囲気が強まる可能性があります。
高市首相の真意としては、日本の自動車産業全体を考えたときに、現状のままEV偏重政策を続けることへの疑問があるのでしょう。トランプ前米大統領が「米国第一」で自国産業を保護したように、日本も自国企業が得をしない補助金は絞るべきだとの考えです。特にテスラやBYDのように売れている海外EVメーカーに日本の税金が流れ、その車に使われる部材も中国製が多い現状では、「日本の国富が海外に流出している」と映ります。高市氏は筋金入りのガソリン車愛好家とも言われ、エンジン車を大事にしたい思いも根底にあるかもしれません。いずれにせよ、新政権はEV普及のスピードを政府主導で加速させる路線から、一旦ブレーキを踏む路線へと大きく舵を切ろうとしているのです。
この方針転換にはアメリカからの圧力も一因でしょう。米国は日本のEV補助金制度が自国メーカー(テスラ)に不利だと問題視しており、日本は補助金の見直し(格差縮小)を約束しました。高市政権としては、下手に外国勢だけ補助金を下げると報復を招くため、「いっそ全部止めてしまえ」という極論に走る可能性があります。もちろん国内でEVを推進してきた勢力からは反発も出るでしょうが、景気対策や財政健全化を掲げる高市首相にとっては思い切ったカードを切る好機と捉えている節があります。実際、2025年10月には「令和6年度補正予算でのEV補助金の申請は2026年2月で終了」との発表があり、今後は新たな予算を組まない可能性が示唆されています。これは事実上、現行補助金の幕引きを意味します。
こうした政策転換は、日産や三菱といった国内EV先行組にも衝撃を与えています。日産は早くからEV「リーフ」や「サクラ」に注力してきましたが、国内でEV販売を伸ばす前提には補助金がありました。高市政権の減税策(ガソリン税下げ等)でEV戦略の見直しを迫られるとの分析もあります。実際、ガソリン価格が下がりEVの税優遇もなくなれば、消費者は高いEVより安価なガソリン車・ハイブリッド車を選びやすくなります。これは「EVシフト二元論の崩壊」とも言え、メーカーにとっては長期投資と短期政策のギャップに苦しむ局面です。政権の狙いが短期の経済効果なら、売れにくいEVより買い替え需要を喚起しやすい既存車のテコ入れに傾くのも無理はありません。ただ、その副作用として日本はEV後進国のまま取り残されるリスクも孕んでいます。
補助金縮小がもたらす市場へのインパクト
では、EV補助金が縮小・停止された場合、具体的にどんな影響が市場に現れるでしょうか。まず考えられるのは、新車EV販売の減速です。補助金によって割安感があったEVが値上がりする形になるため、価格に敏感な層は購入を見送るでしょう。実際、ドイツでは2023年に急にEV補助金を削減・廃止した結果、販売台数が一時激減しました。前年まで右肩上がりだったEVシェアが、補助金カット直後の月には前年同月を大きく下回る落ち込みを見せ、“EV冬の時代”と報道されたほどです。もっともドイツの場合、その後しばらくして販売は回復基調に戻りましたが、政策変更による需要の乱高下が起きたのは事実です。日本でも補助金終了前に駆け込み需要が発生し、その反動で翌月以降の販売が落ち込むといった波が起きる可能性があります。
実際に2025年9月、日本でも似た現象が起きました。テスラとBYDが期間限定の値下げキャンペーン(BYDは「Go!Go!Go!キャンペーン」で独自に最大117万円補助の名目値引き、テスラは在庫車の値引き)を行ったところ、9月の輸入EV販売台数が前年比約3倍に跳ね上がりました。輸入車全体のうちEV比率が初めて15%を超え、過去最高を記録したのです。しかし、この反動減を業界は警戒しています。キャンペーン終了後の10月以降、あの9月の盛り上がりが「需要の先食い」だった場合、再び販売にブレーキがかかる懸念が指摘されました。これは補助金でも同じで、終了前に「今が買い時!」と皆が飛びつけば、その後しばらく新車が売れない停滞期が訪れかねません。
次に、メーカーの戦略修正も避けられません。特にEVに注力してきた日産・三菱・ホンダあたりは、国内販売計画の前提が崩れるため軌道修正を迫られます。場合によっては新型EVの投入時期を遅らせたり、生産台数を絞ったりするかもしれません。政府が環境対応車の普及にブレーキをかければ、企業も投資回収が難しくなるので慎重になります。これは日本市場を見限って海外向けにシフトするメーカーが出るリスクもあります。逆にトヨタなどハイブリッド主体のメーカーは「ほら見たことか」とHV推進を続けるでしょう。EVシフトの足並みが各社でバラバラになる可能性もあり、市場全体の方向性が定まりにくくなるかもしれません。
そして何より消費者への影響です。私たちは補助金のおかげでEVを「高いけど補助金込みなら手が届く」と捉えてきました。それが補助なしで正価を突きつけられると、「やっぱりEVは高い。今はやめておこう」となりやすいでしょう。ただ一方で、補助金が無くなることでEVメーカー側も真の実力勝負にさらされます。補助金前提で高値を維持してきた車種は値下げを迫られるかもしれません。競争原理が働き、車両価格そのものが下がる期待も一部ではあります。実際、中国では国の補助金が2022年に完全終了しましたが、それに負けずメーカー各社が価格競争を繰り広げ、市場拡大を続けています。日本でも補助金なしで魅力ある商品なら売れるという証明ができれば、本物の普及期に入るとも言えます。とはいえ当面は、EV購入を検討していた人が戸惑い、販売現場で「買い控え」ムードが漂うことは避けられないでしょう。
新政権によるEV補助金見直しは、短期的に見ると市場の混乱やEV販売の減速を招きかねない劇薬です。補助金が当たり前だった環境から放り出され、メーカーも消費者も戸惑いを隠せません。しかし長期的には、補助に頼らない“地力”の勝負が始まる転換点でもあります。コスト競争力と商品力を兼ね備えたEVだけが生き残り、本当の意味で持続可能な市場が形成される可能性もあります。高市政権の賭けは、日本の自動車産業にとって諸刃の剣ですが、この荒波を乗り越えた先に、より強靭で合理的なEV市場が生まれるのかもしれません。
補助金頼みモデルの減損リスクを読み解く

最後に、ビジネスと会計の視点から「補助金頼みモデル」の減損リスクについて考えます。補助金に依存して販売や利益を確保している製品・事業は、政策変更によって一転して損失を被るリスクがあります。このセクションでは、需要の先食い現象による在庫リスク、企業財務への影響、そして私たち消費者が賢く立ち回るための判断基準を3つのポイントに分けて深掘りします。難しく聞こえる減損会計の話も、日常の買い物感覚に置き換えて分かりやすく説明しますのでご安心ください。
需要の先食いが生む「販売の谷間」リスク
会計用語で「減損」とは、資産の価値が大きく下落したときに帳簿上その損失を認識することです。企業にとって商品の売れ行き不振で在庫の価値が目減りする事態は、この減損リスクに直結します。補助金頼みのビジネスモデルでは、補助金がある間は売れていても無くなった途端に需要蒸発→在庫が積み上がる、といった危機が潜みます。
例えば、前述のように補助金終了前の駆け込み需要は一種の「需要の先食い」現象です。本来なら将来に分散して発生したはずの購入が前倒しされた結果、終了後の期間に需要の真空地帯(販売の谷間)が生まれます。この谷間の期間、メーカーや販売店は売上が落ち込むだけでなく、売れ残り車両を抱えるリスクがあります。特にEVはバッテリー技術の進歩が早く、在庫として長期間寝かせると陳腐化する恐れもあります。さらにモデルチェンジや新型車の登場が重なると、中古価値も下がるので在庫車の評価損(値引き販売による損失)が発生しかねません。まさに「売り時を逃した在庫」は企業の爆弾になるのです。
実際にメーカー各社はこうしたリスクを織り込んで動いています。前述の2025年9月に販売を伸ばしたBYDやテスラは、キャンペーン終了とともに需要減を警戒しつつあります。BYD日本法人は「9月の盛り上がりが先食いの要素が強ければ、年度末にかけて販売減速の懸念がある」と述べ、今後も市場活性化策が必要とコメントしました。つまり、一時的なテコ入れで伸ばした分の反動で在庫過多→値引き販売の悪循環に陥らないよう警戒しているのです。
加えて、グローバル展開する企業では各国の政策変更が収益に与える影響を注視しています。中国のEVメーカーは、自国で補助金が切れた2023年以降、政府支援なしでも戦えるよう価格設定や販促を見直しました。日本勢も、高市政権の動きを受けて国内販売計画を修正するでしょうが、その際に重要なのは「無理に売上数量目標を追わない」判断です。下手に補助金分を値引きして販売を維持しようとすると、利益を削って在庫処分する形になりかねません。それよりも、生産台数自体を調整して需要減に備える方が賢明でしょう。減損リスクを抑えるには、需要が冷え込むタイミングで早めに在庫圧縮を図ることが肝要なのです。
企業財務と残価へのインパクト
補助金頼みモデルが崩れた際には、企業の財務指標にも影響が現れます。まず売上高が想定より下振れすれば、固定費負担が重くのしかかり、利益率が低下します。EV開発には莫大な投資が必要ですが、販売台数が計画に届かなければ回収期間が延び、最悪の場合一部投資の回収断念(減損処理)に追い込まれる可能性もあります。具体的には、開発費の償却期間を見直したり、生産設備を遊休化すれば減損損失を計上するような事態です。これは企業の株価や信用にもマイナス材料となり、投資家から見放されるリスクに直結します。
また、自動車メーカーにとって重要なのが車両のリセールバリュー(残価)です。新車が売れた後、数年経って中古車オークションでいくらになるか——これは個人のオーナーだけでなく、自動車リース会社やメーカー自身の認定中古車事業にも大事な指標です。補助金があった頃は、新車価格が下支えされていたため残価設定も高めに見積もられていたかもしれません。しかし補助金が無くなり新車販売が低迷すると、中古車市場では「そもそも人気が出なかったEV」の評価が厳しくなることが考えられます。需要が薄い中古EVは値崩れし、残価が急落するリスクがあります。
一方で皮肉なことに、補助金が消え新車価格が上がると、中古EVの方が割安感から需要が増えて値落ちしにくくなる可能性もあります。例えば、新車で400万円に値上がりしたEVがあるとして、補助金時代に300万円で買った人が3年後に中古で売るとき、市場に新車400万しか無いなら中古車に250万円以上の値が付くかもしれません。補助金があった頃より相対的に高値で売れる——つまり中古オーナーには有利になる展開も考えられます。ただしこれはそのEVモデルが市場で一定の評価を得ている場合です。補助金が無いと売れないような車種は、新車需要が落ち込むだけでなく中古でも人気が出ず、結局値下がりしてしまうでしょう。
企業会計の観点では、リース資産や社用車として抱えるEVの残存価値見込みが下がれば、早期に損失を引当計上する必要が出てきます。リース会社は契約終了後の車を売却して利益を出すモデルなので、残価下落リスクは死活問題です。もしEVの将来残価に不確実性が増せば、リース料率が上がったりEVリース敬遠といった連鎖もあり得ます。それこそが補助金頼みモデル崩壊の波及効果であり、減損の連鎖とも言えます。企業はこうした残価リスクをヘッジするため、残価保証の見直しやサブスクモデルへの移行など手を打つ必要があるでしょう。
賢い消費者になるための指針
では、私たち個人はこの状況でどう立ち回るべきでしょうか。幸い、会計や投資の視点は消費者の購入判断にも応用できます。ポイントは「3年後の下取り価格が、補助金抜きのトータルコストを上回るか」というシンプルな検証です。難しく聞こえますが、要は「補助金なしでも損しない車か?」を見極めようということです。
具体的には、EVを購入する際に補助金込みの値引き前提でお得感を判断するのではなく、仮に補助金が全く出ない価格でも3年後・5年後にそれなりの値段で売れるかを考えてみます。例えば補助金なし価格が350万円のEVがあり、今なら50万円補助が出るとします。一見300万円で買えるからお得!と思いがちですが、大事なのは350万円で買ったと思って価値が残るかです。もし3年後に売るとき下取りが200万円つけば、補助金無しでも実質負担は150万円+運用コストとなります。一方、補助金ありで300万で買えたけど中古で120万円にしかならなければ、補助金に釣られて買った分リセールで大損する計算です。
要するに、補助金分は「ボーナス」ではなく将来の下取り減少を埋めるための予備費くらいに考えるのが安全です。補助金無しでもコスパが良い車なら、補助がなくなった後も中古価格が大きく崩れにくいでしょう。逆に補助金前提で割高な車は、いずれ市場原理で適正価格(=もっと安い価格)に修正されます。その調整コストを負担するのは、最後にその車を持っていたユーザー、つまりババを引いた人です。私は以前、家電量販店のポイント大盤振る舞いに踊らされて買い物したら、次のモデルがすぐ出て値下がりし結局ポイント分以上に損した…なんて経験がありますが、それに少し似ています。「目先の得」に飛びつくとトータルでは損することがあるのです。
賢い消費者になるためには、少し投資家になったつもりで未来を読む視点を持ちましょう。EV技術の進歩スピード、市場での評価、ガソリン価格の動向、そして政府の方針転換――これらを総合して、「この車は3年後どうなっているか?」と想像するのです。もちろん一般ユーザーに完璧な未来予測は無理ですが、難しい数式は要りません。街で同じ車をよく見かけるか、口コミ評価が高いか、メーカーの覚悟(販売網やアフターサービス)が感じられるか等々、肌感覚で十分判断できます。そして一番確実なのは「補助金が無くても自分はこの車が欲しいか?」という問いです。イエスなら買い、迷うなら待て——とてもシンプルですね。
補助金頼みのモデルに潜む減損リスクは、企業にとって在庫処分や残価下落という現実的な損失となり得ます。しかし、その見方を身近に引き寄せれば、私たち消費者も同じ土俵にいると気付かされます。車は高価な買い物ですから、一種の資産運用です。補助金というインセンティブが消えたとき、その資産価値がどう動くかを読むことが、損しない買い物につながります。「安物買いの銭失い」にならないよう、目先の補助金だけでなく、中古価値や総保有コストまで見据えて判断する——それがこれからの時代のスマートなクルマ選びと言えるでしょう。
結論:激動のEV新時代を前に、磨こう“先見力”と“目利き力”
BYDの軽EV参戦と新政権の補助金見直し――この二つの出来事は、日本のクルマ社会にとって大きな転換点となりました。海外勢が牙城を崩さんと猛攻を仕掛け、守る国内勢も政策という楯を失い、いよいよ真っ向勝負の舞台が整いつつあります。ここまで読み進めてくださった皆さんは、単なるニュースの裏にあるダイナミックな構造変化を感じ取っていただけたのではないでしょうか。
もちろん、一人の消費者の力で市場の流れを変えることは難しいかもしれません。でも、私たち一人ひとりが賢い選択を積み重ねることで、企業も市場もより健全な方向に導かれるのです。補助金という後押しがなくとも価値あるものが生き残り、付け焼き刃のモデルは淘汰される――それは長い目で見れば、より良い製品とサービスが生まれる土壌になるはずです。
最後に強調したいのは、変化を恐れず先を読む力の大切さです。EVシフトの波に乗るのか、静観するのか、決めるのはあなた自身。でもどちらを選んでも、今日得た知識があればもう無闇に不安がる必要はありません。テクノロジーと政策と市場の三位一体の動きを俯瞰し、自分にベストな答えを導けるはずです。激動のEV新時代、踊らされるのではなく踊る気持ちで、自分なりの未来図を描いてみてください。その先には、きっと後悔の少ないスマートな人生と、ちょっぴり誇らしいマイカーとの日々が待っていることでしょう。さあ、あなたも今日から“先見力”と“目利き力”というエンジンを胸に、新しい時代のロードを走り出してみませんか?
深掘り:本紹介
もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。
最新EVのすべて(2026年)
各モデルの電費・バッテリー仕様・装備比較が一望でき、補助金なし前提の素の実力を見抜くのに便利。次に伸びる“軽EV×都市利用”の勘所も掴めます。読後はディーラーでの値引き交渉の論点がクリアに。
図解即戦力 自動車業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書[改訂2版]
最新のサプライチェーン/販売モデルまで図解で整理。EV時代の収益ドライバー(ソフト/アフター/残価)のつながりが腹落ちします。入門書なのに投資・仕事にそのまま効く“会話の武器”になる一冊。電子版もあり。
GX グリーントランスフォーメーション 経営大全
補助金→カーボンクレジット→サプライチェーン排出まで、政策×会計×事業の全体像をザッと掴むのに最適。補助縮小フェーズで企業が何に投資を張り替えるか、読み筋が立ちます。EVだけに寄らない“勝ち筋”を見たい人向け。
炭素会計 実務と戦略 ― スコープ3で始める新しい世界標準
スコープ1/2/3算定と開示の“実務の型”を丁寧に解説。EVのLCA(ライフサイクル)視点や、電池/電力ミックスで何が変わるかの理解が進みます。投資判断や企業取材で本質質問ができるようになります。
トヨタの戦い、日本の未来。— 本当の勝負は「EV化」ではなく「知能化」だ!
“EV一本足打法”に警鐘を鳴らしつつ、知能化(ソフト/OS/データ)での競争軸を提示。補助金頼みではない残価とTCOが強い商品の作り方を、トヨタの視点で読み解けます。政策の揺れに左右されない投資観を養うのに◎。
それでは、またっ!!
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