みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。
その“16,300円”、あなたの物差しでも本当に妥当ですか?
いま、日本の株式市場でまた一つ大きな「ガバナンスの事件」が動いています。米アクティビストのエリオットが豊田自動織機(TICO)に“ほぼ5%”まで出資を積み上げ、トヨタグループ主導の非公開化(1株16,300円)は「過小評価だ」と正面から異議を唱えました。株式保有は直近の開示で3.26%が確認され、その後に水準を引き上げたと報じられています。
この記事は、このニュースを初心者にもわかる会計の目線で読み解く案内役です。アクティビストは難しいことをしているようで、狙いはシンプル。「隠れ資産(持ち株・余剰資金・のれん等)に光を当て、資本をムダに寝かせない」——そのプレッシャーでROE(自己資本利益率)を押し上げ、株主価値を再配分させる、という作法です。TICOの件では、買収プロセスの透明性や少数株主の扱いが論点になり、価格の妥当性(16,300円は安すぎないか?)が真っ向勝負の土俵になっています。
読むメリットは3つ。
- ニュースの“会計的な読み方”が身につく:どの数字に注目すれば、価格の高い安いを自分で考えられるか。
- アクティビストの思考を知る:なぜ彼らは持ち株や余剰資金にうるさいのか、何を変えさせたいのか。
- 今日からできる実践:「解散価値メモ」を自作して、材料株ニュースを“自分の物差し”で評価できるようになる。
流れはこうです。まず、今回のディール構造と“5%弱”問題の背景を、専門用語抜きでざっくり整理します。次に、アクティビストが好む「隠れ資産」3点セット——(A) 持分法・上場子会社の時価, (B) 余剰現金や有価証券, (C) のれんや含み損益——にどう当てはめていくかを解説。最後に、あなた自身が「純資産÷株数」+「子会社・持分の時価評価」で簡易NAV(解散価値)をメモ化する手順を具体的に示します。これが作れると、「このTOB価格、どの前提を置けば妥当?」を自分の頭で検証でき、見出しに踊らされずに済みます。
今日の一手としてのゴールは明快です。
- 会社の直近の純資産(自己資本)と発行株式数を拾い、1株当たり純資産(BPS)を出す。
- 主要な持株・上場子会社の時価(時価総額×持分比率)をざっくり足し込む。
- 余剰現金・有利子負債を差し引き、1株あたりの簡易NAVを計算。
- それと提示買付価格(16,300円)や足元株価を横並びで見る。
ここまでできれば、今回のニュースは「自分の目で価格を評価する練習台」になります。難しい数式は不要。家計簿と同じで、持っているもの(資産)と借りているもの(負債)を並べるだけ。数字はあなたの味方です。
目次
何が起きている?——ディールの全体像を“やさしく”整理

まず土台。豊田自動織機(TICO)はフォークリフト等の世界大手。トヨタ自動車などが関与する非公開化(1株16,300円)の計画が進む中、エリオットが持ち株を増やし、「その価格は安すぎる」「手続きに透明性が足りない」と主張して舞台に上がりました。TICOは9/30時点でエリオットが3.26%保有と開示、その後約5%に近い水準まで積み増したと報じられています。提案価格16,300円は、過去報道ベースでも妥当性への疑問が根強い案件です。
この取引はシンプルに言えば「グループ内整理+非公開化」。新設の受け皿会社(トヨタ不動産などが関与)を通じてTICO株を買い集め、16,300円で株主に売ってもらう設計です。特色は、プレミアム(上乗せ幅)が小さいこと、そして関係当事者が多く“身内取引”感が強いこと。ここが海外投資家やガバナンス団体からの突っ込みどころになっています。
では、エリオットはどこを見ているのか? 彼らの“型”は明快です。
- 会社に眠る隠れ資産(持ち株・余剰資金・のれん)を可視化せよ。
- ROE(自己資本利益率)を押し上げ、資本効率を高めよ。
- プロセスの独立性・透明性を確保せよ。
今回も同じ。「過小評価」と「手続きの不透明さ」を同時に突き、より高い価値の“見える化”と条件の見直しを迫っています。
数字の取っかかり——“16,300円”は高い?安い?
初心者はまず現在地を3点で並べると迷いません。
- 提示価格(16,300円):TOBのものさし。
- 直近の株価レンジ:市場が何を織り込んでいるか。
- 簡易NAV(解散価値):あなたが自分でざっくり出す“内なる物差し”。
報道では、16,300円は発表直前株価に対し限定的な上乗せにとどまる指摘があり、妥当性への疑問が国内外から出ています。数字は後述の「解散価値メモ」で自分の手でも検証可能です。
なぜ揉める?——“身内ディール”と透明性
今回の非公開化はトヨタグループ内の再編色が濃い取引。社外から見ると、価格の決め方や特別委の独立性に疑問が向かいやすい構図です。ガバナンス団体は「不透明さの見本」と批評、海外投資家も条件の再考を求めています。エリオットはそこに乗り、「プロセスを開け」「価値を正しく評価せよ」と圧力を強める——これが現在地。
エリオットの“5%弱”の意味——交渉の席を確保する
3.26%→約5%に近い保有は、「無視できない声量」を確保する狙い。大量保有の届出や対話の場を通じ、価格・条件・プロセスの三点セットにてこ入れを迫れます。複数の機関投資家が既に疑義を表明しているため、“流れ”の可視化にも効く。つまり、議論の土俵を整えに来たわけです。
最後に、ここまでを会計の目でひと言にすると——
「価格は前提次第。だから自分の前提(簡易NAV)を持て」です。ニュースの温度差は、どの資産をどう評価したかで説明できます。次のセクションでは、エリオットが好む“隠れ資産3点セット”の探し方と、誰でもできる「解散価値メモ」の作り方を、家計簿レベルのやさしい手順で解説します。
どこに“隠れ資産”がある?——解散価値メモの作り方

まず合言葉はこれ。「会社は箱。中身=資産−負債」。アクティビストは、この“箱の中身”のうち市場にきちんと伝わっていない価値に光を当てます。今回の文脈で見る“隠れ資産”の代表は次の3つ。
- A:持ち株・上場子会社の時価(例:保有する上場株式や関連会社の評価)
- B:余剰資金(現預金や売却可能な有価証券など、事業に過剰と思われる分)
- C:その他の含み(のれん・含み益/損、遊休不動産など)
この観点で豊田自動織機(TICO)を眺めると、今回のテイクプライベート(1株16,300円)の“割安・割高”を測るモノサシが見えてきます。報道ベースでは、提示価格は発表前の株価に対する上乗せが小さい、あるいは直前終値に対して割引といった指摘があり、透明性への疑問も相まって火種になっています。さらに、新会社に集約する複雑なスキームや、トヨタ不動産の関与/豊田章男氏の個人出資(1億円)といった“身内色”が、海外投資家の警戒を強めています。
材料集め——「数字の拾い方」を型にする
初心者でも迷いません。同じ場所から、同じ順で拾うだけ。
- 自己資本(純資産)と発行株式数
決算短信 or 有価証券報告書の連結B/Sと期末発行株式数を確認。
→ BPS=自己資本÷株数。まずは“素の箱の重さ”を知る。 - 有利子負債と現金等
現金及び現金同等物+有価証券と有利子負債(短・長)を並べ、
→ ネットキャッシュ(現金−負債)を計算。ここが余剰かどうかを考える。 - 持ち株・上場子会社
保有銘柄が上場しているなら“時価総額×保有比率”で“いまの値段”を概算。
帳簿にある取得原価とはズレやすいので、時価で上書きするのがコツ。 - 不動産や投資有価証券の含み
注記や補足資料にヒント。固定資産の時価情報があれば足す、なければ保守的にゼロでもOK。 - 事業の稼ぐ力(ざっくり)
営業利益やEBITDAに簡易倍率(例:×5〜8倍など保守的な範囲)を当て、
「資産価値+事業価値」の両目線を持つ。ただし無理に盛らない。 - テイクプライスとの横並び
1株あたり簡易NAVと提示価格16,300円、足元株価を横に置く。
→ 「どの前提なら16,300円は妥当?」を自分の言葉で説明できれば合格。
参考:今回の取引は16,300円での買付が軸。発表直前比で約23%のプレミアムという見方がある一方、直前終値より低いタイミングもあったとして投資家から批判が出ています。スキームは新設会社+トヨタ不動産+トヨタ自動車の資本参加で組む計画で、これが利益相反や手続きの独立性の論点に。
手を動かす——“1ページ”の解散価値メモ(雛形つき)
スプレッドシートで1ページにまとめるのがコツ。列は「項目/金額(億円)/根拠URL or 注記/メモ」。式は中学生レベルでOK。
- 自己資本(連結B/S) …… A
- 現金+短期投資 …… B
- 有利子負債 …… C
- ネットキャッシュ=B−C …… D
- 上場持株の時価(合計) …… E
- 例:①上場会社X(時価総額×保有%)
- 不動産・その他の含み(保守的推定) …… F(なければ0)
- 調整後純資産(A+D+E+F) …… G
- 発行株式数(万株) …… H
- 簡易NAV(1株)=G÷H …… I
最後に比較ボックスを置く:
- 簡易NAV(I) vs 提示価格 16,300円 vs 足元株価。
- 差の理由(例:「上場持株の時価を反映」「不動産はゼロ評価」)を一言メモ。
ここまで作れれば、ニュースや投資家の発言が自分の数字に置き換わります。エリオットが「過小評価」「透明性」を突く理由も腹落ちしやすい。
つまずきポイント——“過度な期待”と“過度な悲観”を避ける
- 含みは盛りすぎない:時価の分かる上場持株以外はゼロ〜控えめが基本。
- 重複計上に注意:事業価値(倍率評価)と資産価値を二重に足さない。
- スキームによる希薄化や資本構成の変化:今回は新会社・非投票優先株・関連当事者など構造が複雑。誰がどれだけの権利を持つかを図で確認。
ここまでの着地を一行で言うなら、「数字の“地図”を自分で描ければ、見出しに振り回されない」。今回の買付価格16,300円が低いと見る人もいれば妥当とする人もいる——違いは前提です。だからこそ、解散価値メモを自作して“自分の前提”を持つ。これがアクティビスト案件を読み解く最短ルートです。
「ニュースを刺す」実践編——チェックリスト&失敗しない読み方

ここからは手を動かす運用。難しい理屈より、5〜15分で回せる型を持つほうが強いです。TICOの件のように価格・プロセス・隠れ資産が絡むニュースは、次の順で“刺さる”ようになります。
読む前・読んでる間・読んだ後の「3段チェック」
A. 読む前(1分)——前提を置く
- 自分のものさしを先に決める:
- ①BPS(自己資本÷株数)でざっくり下限感
- ②簡易NAV(サクッとでOK)
- ③提示価格と足元株価を横並びで見る
- ねらいを一言メモ:「今回は“過小評価か”を見る」など。
B. 読んでる間(3〜7分)——数字だけ拾う
- 「いつ・誰が・いくらで・何%」の4点だけハイライト。
- 上場持株・余剰資金・のれん/不動産の単語が出たら★印。
- “独立性・特別委・フェアネスオピニオン”などプロセス語に線。
C. 読んだ後(5分)——自分の数字に戻す
- 1枚スプレッドシートにBPS→簡易NAV→比較ボックスを更新。
- 差の理由を3行で言語化:
- 例)「上場持株を時価で評価→NAVが上振れ」「不動産はゼロ評価」
- アクションを1行で決める:
- 「追加材料待ち」「価格見直しの催促が出るまで静観」「勉強案件に回す」など。
目的は“結論の早出し”じゃなく、“判断の後戻りを減らすこと”。前提→数字→比較の順で並べると、過激な見出しでも冷静に捌けます。
5分ミニ演習——“3行サマリー → 10行メモ → 1行結論”
最初はタイマー5分でOK。ニュース1本を次の型でほぐします。
① 3行サマリー(声に出せる長さ)
- だれが:例)海外アクティビストが大株主に。
- 何を:提示価格は○円、評価は過小と主張。
- 論点は:隠れ資産+プロセスの透明性+プレミアム。
② 10行メモ(数字と仮説だけ)
- 提示価格:○円
- 発表直前株価:○円(差:○%)
- BPS(自己資本÷株数):○円
- 上場持株の時価(合計):○億円(根拠:○)
- 余剰資金(ネットキャッシュ):○億円
- のれん/不動産:扱いは0 or ▲○億円(保守)
- 調整後純資産:○億円
- 発行株式数:○万株
- 簡易NAV/株:○円
- NAVと提示価格の差:○円(理由:上場持株の評価差 など)
③ 1行結論(行動)
- 「提示価格は保守NAVと同水準→材料待ち」
- もしくは「保守NAV>提示価格→価格見直し圧力に注目」
ここでのコツは“決めつけない”こと。あくまで仮説の棚を作るだけ。新しい開示が出たら棚の数字を差し替える、それで十分です。
よくある落とし穴——ここだけ避ければだいたい大丈夫
落とし穴1:含みを盛りすぎる
- 不動産や未上場持分の「夢の評価」を積むと、NAVが簡単に膨らむ。
- ルール:「時価がわかるものだけ反映」+「悩んだらゼロ」。
落とし穴2:二重計上
- 事業価値(例:EBITDA×倍率)と資産価値を両方満額で足すのはNG。
- ルール:どちらか主軸を決めて、もう一方は参考に留める。
落とし穴3:プロセス軽視
- 価格だけ追って独立性・利益相反を見落とすと、のちほど条件修正で全部やり直しに。
- ルール:「特別委の実権」「第三者算定」「少数株主の扱い」の3語を毎回チェック。
落とし穴4:期限と資本構成を忘れる
- TOB期間・最低成立条件・資金の出所(株or借入)で結果のシナリオは変わる。
- ルール:比較ボックスに日付と条件を必ず一行入れる。
落とし穴5:見出しで脳内決算
- 「過小評価」「史上最大」など強い言葉は一旦ミュート。
- ルール:“数字が言っていること”だけをメモ。感想は最後。
締めにもう一度、やることはシンプルです。
- BPSと簡易NAVの自分メモを常に最新化。
- 提示価格・株価・自分NAVを同じ行に並べる。
- 差の理由を日本語で3行。
これでニュースは“知る”から“使う”に変わります。誰かの強い意見より、自分の前提のほうが静かに効く。地味ですが、長く効く武器です。
結論:数字は怖くない——“自分の物差し”を持てば、ニュースは味方になる
最後にもう一度、今回の学びをひとつにまとめます。エリオットのようなアクティビストは、特別な魔法を使っているわけではありません。会社という“箱”の中身を、あるがままの値段に置き直すだけ。持っている株や不動産、余ったお金——眠っている価値を見える化し、「それに見合う扱いをして」と求めているだけです。難しい理論より、手順がすべてでした。
あなたが今日からやることはシンプルです。
- 直近の自己資本と株数でBPSを出す。
- 上場持株の時価と余剰資金をざっくり足し引きする。
- 1株あたりの簡易NAVを作り、提示価格や株価と横並びにする。
この3点セットがあれば、見出しの強い言葉に煽られず、自分の前提で判断できます。数字は“正解”を約束しませんが、後悔を減らすことはできます。前提をメモとして残し、ニュースが出るたびに数字だけ差し替える。それを続ければ、相場のノイズは自然と薄れます。
そして、会計の視点は投資だけでなく、仕事にも効きます。「資産は何か」「負債はどこか」「余剰は眠っていないか」で見直せば、部門の予算も企画も、根拠のある説明に変わります。アクティビストが照らすライトは、ときに眩しい。でも、その光は私たちにも使える。自分の物差しをポケットに入れておけば、ニュースは“消費するもの”から“使いこなすもの”に変わる。静かで強い武器を、今日から持ち歩きましょう。
深掘り:本紹介
もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。
『アクティビストと企業支配権市場—日本企業に変革と再編を迫るマーケットの猛威』
日本の“支配権市場”を俯瞰しつつ、特別委員会やフェアネス・オピニオンの実務まで踏み込む一冊。TICOのような“身内ディール”で何が揉めるのかが整理できます。実務の骨格を押さえたい人向け。(「買ってすぐ現場で使える系」)
『アクティビストの正体—対話と変革を促す投資家の戦略』
“物言う株主”の歴史・戦術・日本での最新動向を通訳してくれる入門の決定版。なぜ彼らはROEや隠れ資産にうるさいのかを、丁寧に分解してくれます。アクティビストの目線を短時間で掴みたい人に。(読みやすくて腹落ちしやすい)
『アクティビズムを飲み込む企業価値創造—高ROE、PBR経営実現への処方箋』
“攻めのガバナンス”として、資本コスト・PBR経営・配当/自社株までをワンセットで設計。アクティビスト“対策”ではなく“同じ方向を見る”実装論です。管理部門〜経営企画が武器化したい時に。(図表が多く、行動に落とし込みやすい)
『企業価値評価 第7版[上下]』
世界基準のバリュエーション教科書の最新版。FCF・WACC・ROICの考え方からケースまで網羅。分厚いけど、NAVづくりの“どこを保守に置くか”の勘所が磨かれます。長く手元に置くバイブル枠。
『「企業価値評価」がわかる本—実務で役立つ』
“式より手順”で、評価プロセス→チェックリスト→落とし穴を短く整理。簡易NAVメモを作る時の実務寄りな道案内として最適です。まずはサクッと掴みたい人へ。
それでは、またっ!!
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