みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。
ニュースが“無料”になった瞬間、誰がその請求書を払うことになる?
いま起きているのは「AI企業vs新聞社」のケンカ…だけじゃありません。もっとイヤ〜な本質は、“みんなが便利さに酔って、誰も原価を払わなくなる”現象です。
このブログを読むと、①AI要約がメディアのPL(損益)をどう削るか、②ブランド毀損がBS(貸借対照表)の無形資産をどう溶かすか、③このままだと私たちの社会がどんな「情報の財政破綻」に向かうのか――を、会計の言葉でスパッと見通せます。
ニュースを「無料の空気」だと思っていると、いつの間にか空気清浄機(=取材現場)が止まります。止まってから慌てても遅い。今のうちに、“情報の会計帳簿”を一緒に覗きましょう。
目次
AI検索は「新聞泥棒」か?――争点は著作権より“収益認識”だ

シカゴ・トリビューンがPerplexityを提訴した、というニュースは象徴的です。争いは法廷へ、というより「収益モデルの死活」が法廷に移った。要約で満足され、リンクを踏まれない。つまり、読まれた瞬間に“負け”が確定する構造です。
(ここでちょい補足)新聞社のビジネスは、ざっくり言うと「固定費ビジネス」です。取材網・編集部・法務・校閲…コストの大半が先に発生する。だから“あとから1クリック増える”の価値がデカい。逆に言うと、1クリック減ると、限界利益がゴリっと削れる。AI要約が怖いのは、クリックを「数%」削るだけで、利益を「数十%」削りかねない点です。
ユーザーの“満足”が、新聞社の“売上”を相殺する
会計っぽく言うと、AI要約は「代替サービス」です。ユーザーの便益(満足)を、新聞社の売上(広告・購読)に変換する前に、AIが横取りする。
広告モデルは“閲覧”が前提の取引。ところがAIが「答え」だけ渡して終わると、閲覧が発生しない。売上を認識するための“履行義務”が踏まれず、キャッシュ化の導線が切れます。ここで怖いのは、クリック減が一過性じゃなく“構造”だという点。AI要約の普及局面では「検索した=解決した」が増え、媒体側の“送客前提の収益認識”が崩れやすくなる。
訴訟の核心は「スクレイピング」より“迂回決済”にある
新聞社側の怒りを一言で言うと、「うちの工場(取材)で作った商品を、別の店が試食コーナーで配り、レジに行く前に客を帰している」です。
ここ、会計的に重要。なぜなら“販売チャネルの奪取”は、将来CF(キャッシュフロー)の見積もりを直撃するから。たとえば購読モデルであれば、無料要約が増えるほど「購読に至る転換率」が落ちます。広告モデルであれば、PVが減り、在庫(広告枠)の回転が鈍ります。どちらも「将来の稼ぐ力」の毀損です。
AI側の言い分「新しい技術はいつも嫌われる」は、半分だけ正しい
確かに新技術への反発は歴史ある。でも今回は違う。検索が“送客装置”だった時代は、出版社もプラットフォームもWin-Winでした。ところがAI要約が主役になると、送客の契約が破れます。
しかも今回の厄介さは、技術の進歩が「盗みのコスト」を限界まで下げたこと。昔の盗用は人間がコピペする必要があった。でもAIは、コピー→要約→再構成→大量配布が自動で回る。つまり「取材コストは高止まり」「転用コストはゼロに近づく」。このギャップが、法廷を呼び寄せました。
もう一段、投資家目線で言うと、これは“マルチプル(PERやEV/EBITDA)”の話でもあります。市場がメディア企業に付ける評価は、成長率と安定性の期待で決まる。検索流入が不安定になる=将来CFのボラが上がる=割引率が上がる=企業価値が下がる。PLが少し傷むだけでも、評価は想像以上に沈みます。だから訴訟は感情論じゃなく、資本市場への説明責任でもある。
結局これ、著作権バトルというより「売上が立たない世界で、誰が取材コストを負担するの?」という会計の問いです。法廷はその“請求書の宛先”を決める場所になりました。
広告モデルの減損――ニュース企業のPLに起きる“静かな大火事”

広告モデルって、かなり繊細です。広告単価は(雑に言えば)「閲覧数×ブランド安全性×信頼」で決まる。AI要約が閲覧数を削り、誤情報が信頼を揺らす。結果、PLのトップライン(売上)がじわじわ燃えます。
CTR低下は“売上の将来予測”を壊し、減損テストのトリガーになる
無形資産の減損は「将来CFの下方修正」が引き金です。検索流入が太いメディアほど、CTRの低下はそのままCF予想の下振れになる。
ここで会計的に怖いのは、下がり方が“滑らか”なこと。急落は危機として認識されるけど、じわじわ下がると対策が遅れる。減損は、だいたい「気づいた時に手遅れ」枠で来ます。
減損テストの“現場”っぽい話をすると、無形資産(ブランド、顧客関係、サイトドメイン等)は、将来CFを見積もって回収可能価額(利用価値)を算定する。ここでCTR低下は、①売上成長率の下方修正、②広告単価の下方修正、③獲得コスト(TAC的なもの)の上方修正として入ってくる。ちょっと怖いのは、AI要約の影響が「検索だけ」じゃなく「リファラル全体」に波及する可能性がある点です。クロールは増えるのにクリックが返らない“ギャップ”が広がると、将来CFの根拠が薄くなる。
広告主は“ニュース回避”から“ニュース選別”へ――ブランドセーフティの会計インパクト
昔は「ニュースは炎上しやすいから避けよう」が強かった。でも最近は、ニュースの“質”を判定して出稿する動きが強まっています。
ここで起きるのは、PLの二極化。強い媒体は「直販・指名流入・ブランド力」で広告単価が守られやすい。一方で弱い媒体は、検索流入が削られた分だけ“薄利多売の多売”が成立しなくなる。
この差は、単なる人気の差じゃなくて「資本効率の差」になります。強い媒体は投資(取材・人材)を継続でき、コンテンツの質がさらに上がる。弱い媒体は投資を削り、質が落ち、さらに単価が下がる。会計って冷たいけど、こういう“正の複利/負の複利”を容赦なく可視化します。
AIは“記事”だけ盗むんじゃない。“文脈”も薄める
広告モデルの裏には「文脈価値」があります。たとえば、記者の連載、編集の視点、読者コミュニティ。
でもAI要約は、文脈を“抽出”して“均質化”する。味噌汁の出汁だけ抜いて、具材は捨てる感じ。すると読者は「どこで読んでも同じ」になり、ブランドに帰属する超過収益力が落ちる。会計の言葉で言えば、ブランドという無形資産の“収益力(エコノミック・レンタ)”が削れる。
広告モデルの本当の敵は、AIそのものより「クリックしない習慣」です。習慣はPLを変え、PLが変わるとBSが変わる。数字は、思想より強い。
ブランド毀損(ハルシネーション混入)――“信用”という資産が溶ける速度

ここからが一番怖い話。ニュース企業の最大の資産は「信用」です。そして信用は、会計上は“のれん”や“ブランド”みたいに、目に見えないのに高価。しかも一度割れると、修復コストが高い。
ハルシネーションは「損害賠償」より先に“信頼の引当”を発生させる
会計的には、誤情報の拡散は「将来の損失」への備え=引当の発想に近い。訴訟費用だけじゃない。訂正・説明・顧客対応・信用回復キャンペーン。目に見えない損失の連鎖が起きる。
さらに厄介なのは、誤情報が“その媒体が言ったこと”として拡散されやすい点。AIが出した文章は、読者にとって「どこ発か」がぼやける。ぼやけたまま炎上すると、ダメージは一次ソース側に落ちやすい。これ、企業で言えば「偽のIRを勝手にばら撒かれる」みたいなものです。胃がキュッとなるやつ。
信用が薄れると、購読モデルは“解約率”で死ぬ
広告モデルが壊れると、次は購読に頼る。でも購読は“期待”で買われます。
「この媒体なら、裏取りしてくれる」
「この記者なら、読めば理解できる」
この期待が、AIの誤情報混入で揺らぐと、解約率(チャーン)が上がる。チャーンはPLを直撃するだけでなく、LTV(顧客生涯価値)を下げ、投資余力を奪います。取材が薄くなる→価値が落ちる→さらに解約…という負のスパイラル。
ここで投資家のいやらしい視点を一つ。ブランド毀損はPLに“すぐ”出ないことが多いのに、株価には“先に”出ます。なぜなら市場は「次に起きるチャーン」と「次に起きる広告単価下落」を、先回りで織り込むから。会計は過去を写す鏡だけど、資本市場は未来を値付けする。だからこそ、メディア企業は「まだ数字に出てないから大丈夫」を言った瞬間に負け筋に入る。
だから“守りのインフラ”が動き出した――Pay-per-crawlとRSL
面白いのは、出版側が「泣き寝入り」だけじゃなく、インフラを味方につけ始めたこと。
“robots.txtの進化版”のような標準化の動きや、AIクローラーを許可・課金・ブロックできる仕組みが出てきています。これは会計で言うと、「コンテンツの利用を、取引として再定義する」試みです。タダ読みを“売上”に戻すための会計設計。
もちろん万能ではありません。規格を守らない相手には効かないし、囲い込みが進むと“情報の壁(ペイウォール)”は厚くなる。でも、いまのまま“無料のタダ乗り”を放置すると、最終的に残るのは「安く作れる情報」だけです。だったら、取引として整理して、支払うべき相手に支払う。そのほうが社会の帳尻は合う。
信用は、現金みたいに金庫に入れて守れない。守るには、取材・編集・透明性という“プロセス資産”を維持し続けるしかない。そしてその維持費を払う仕組みを、社会が用意できるか。ここが勝負です。
結論:ニュースは“無料”じゃない。無料にした瞬間、未来が請求書を持ってくる
AI検索が便利なのは事実です。速いし、要点も掴める。疲れている夜には、正直ありがたい。
でも便利さの裏で、世界は静かに帳簿を付けています。
私たちが「読まずに分かった気」になるたび、どこかの取材現場の時間が削られる。記者が現場に行けなくなる。ファクトチェックが省略される。地方の小さな事件が拾われなくなる。
その時、社会が失うのは“情報”ではなく、“現実に触れるための感覚”です。
会計は冷たい学問に見えるけど、本当は優しい。だって会計は「誰が、何を、どれだけ負担したのか」を可視化して、ズルを暴くから。
AI検索=新聞泥棒問題の本質も同じです。ズルをしているのはAI企業だけじゃない。私たち全員が、“無料で済ませる側”に立った瞬間、ちょっとずつ共犯になる。
極端な話、私たちはいま「情報インフラ税」を払うか、払わずにインフラ崩壊を受け入れるかの二択に近づいています。税といっても国に払う話ではなく、クリックや購読やライセンス料として“ちゃんと支払う”という意味で。
そして最後に、これを“社会の会計”として見ると、話はさらにエグい。ニュースは公共財に近い性質があるのに、費用負担は民間(広告・購読)に寄っている。そこへAI要約が入ると、「便益は社会全体に拡散」「費用は特定の出版社に集中」という、典型的なフリーライダー問題になる。フリーライダーが増えると、供給が減る。すると残るのは、PRと扇動と陰謀論――つまり“コストが安い情報”だけ。そうなった世界で、あなたの投資判断はどれだけ当たるだろう?(ヒント:当たりにくい)
だから、提案はシンプル。
気になった記事は、1クリックでいいから一次ソースに行く。
好きな記者がいるなら、月数百円でもいいから支える。
「無料」の代わりに、未来へツケを回さない。
ニュースは、今日の私たちを守るだけじゃない。
明日の子どもたちが、ちゃんと現実を見て判断できる世界を残すための“インフラ”です。
インフラは、ただで維持できない。
でも、維持できた社会は――ちゃんと強い。
深掘り:本紹介
もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。
『AI白書 2025 生成AIエディション』東京大学 松尾・岩澤研究室 ほか
この本は「お気持ち」じゃなくて、生成AIをめぐる論点を“体系化して俯瞰”できます。技術・社会実装・リスクの見取り図があると、ニュースの収益モデル崩壊を語るときに、論点がブレない。あなたのブログで言う“PL/BSで殴る”ための地図になります。
『AIの作品は誰のもの? 弁理士と考えるAI×著作権』竹居 信利 / 橘 祐史
まさに今回の主戦場。「学習は?」「出力は?」「誰が責任?」を、現場で使える粒度に落としてくれるタイプです。Perplexity訴訟みたいな話が出たとき、SNSは感情で燃えるけど、あなたはこれで“会計処理の前提になる法的境界線”をきれいに引けるようになる。
『AIと著作権』上野 達弘 / 奥邨 弘司
前に紹介した本が「使う人の実務寄り」だとすると、こっちは議論の骨格(原理原則)が強い。ニュース企業の“ブランド毀損(ハルシネーション混入)”や“無断要約”を、単なる炎上ではなく、権利・契約・引用の設計問題として整理できます。読後、文章の説得力が一段上がります。
『情報メディア白書2025』電通メディアイノベーションラボ/電通総研
あなたの武器である会計目線に刺さるのはこれ。“メディア産業を数字で”見られるので、広告モデルの減損や、PV・滞在・サブスクの構造変化を、ふわっと語らずに済む。言うなれば、ブログの主張に監査証跡(っぽい迫力)を足してくれる本です。
『広告白書 2025-26年版』日経広告研究所
「AI要約がニュースの入口を奪う」=「広告の配分が変わる」=「メディアのPLが壊れる」。この鎖を、ちゃんと繋げるための広告サイドの一次資料です。広告主が何を見て、どこに予算を動かすのか。ここが読めると、あなたの記事の“減損”が机上の空論じゃなくなります。
それでは、またっ!!
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