ディープフェイクは“無形資産を燃やす火”:企業はどうやって損失を見積もる?

みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。 

その“偽動画”、あなたの会社の無形資産を何円燃やす?

想像してみてください。ある日、あなたの会社のCEOが巨額の賄賂を受け取る動画がSNSに出回ったとしたら──たとえそれが偽物でも、株価は急落し、築き上げてきた信頼が一瞬で崩れ去るかもしれません。近年問題視されているディープフェイクは、こうした悪夢を現実にしかねない存在です。中でも他人の顔を無断で合成したポルノ画像・動画(性的ディープフェイク)は急速に広がり、深刻な人権侵害として社会問題になっています。本記事では、このディープフェイク問題を倫理の観点だけでなく、企業の投資・会計の視点から捉え直し、企業にとっての“見えざる損失”と対策を考察します。

本ブログを読むメリット: ディープフェイクが個人や社会に与える影響はよく報じられますが、企業にとってはそれがブランド毀損や経済的損失という形で跳ね返ってきます。この記事では、

  • 性的ディープフェイク被害の実態と各国の規制動向を整理し、
  • ディープフェイクが企業のブランドや信用(無形資産)をどう蝕むか、「レピュテーション負債」というキーワードで深掘りし、
  • 企業が信頼を守るために講じ始めている対策と新たなコスト構造

について解説します。ディープフェイク問題に投資やリスク管理の観点を交えて述べることで、20〜30代のビジネスパーソンに「自分ごと」として捉えていただける内容を目指しました。読み終える頃には、ディープフェイクがもたらすビジネスリスクとその備え方について、一歩進んだ知見を得られていることでしょう。

性的ディープフェイク被害の現状と規制の動き

拡大する被害とその実態

AI技術の発達により、誰もが画像や動画を手軽に加工できる時代が訪れました。同時に他人の顔を合成した偽のポルノがネット上に氾濫し始めています。日本でも女性芸能人の顔を無断使用した偽ポルノ画像が出回り、実際に販売した男性が逮捕される事件も起きました。また、SNSに投稿された一般人の写真が勝手に裸に加工される“卒アル問題”と呼ばれる被害も相次ぎ、中高生が標的になるケースが報告されています。被害者にとって、自分の知らないところで作られた卑猥な偽画像が拡散する苦痛は計り知れません。毎日新聞の社説も「性的ディープフェイクは深刻な人権侵害だ。一刻も早く手を打つ必要がある」と警鐘を鳴らしています。

こうした性的ディープフェイクは、被害者個人の人生を狂わせるだけでなく、社会全体で見ても看過できない問題です。海外では若手女性政治家が自分の顔を悪用したフェイクポルノ画像の拡散により政治キャリアを断念に追い込まれた例もあります。ディープフェイクはまさに私たちの尊厳や安全を脅かす新手の「暴力」であり、その拡散を許せば被害はますます広がっていくでしょう。

規制は追いつくか?日本と世界の対応

深刻な被害状況を受けて、各国で規制の検討が進みつつあります。日本では現在、ディープフェイク自体を直接取り締まる法律は存在しません。被害に対しては名誉毀損罪やリベンジポルノ防止法、児童ポルノ禁止法など既存の法令で対応するしかなく、摘発は追い付いていないのが実情です。実際、2025年末にはAI生成のわいせつ画像を所持していた元教員が児童ポルノ禁止法違反で国内初の摘発を受けました。また、一部自治体は先行して動き始めており、鳥取県は2023年に児童のディープフェイクポルノ制作・提供を禁止する全国初の条例を施行しました。違反者には過料や画像削除命令などの罰則も科しています。

海外に目を向けると、韓国は対応の最先端を行っています。韓国ではディープフェイクによる性的な偽画像・動画の所持や閲覧まで処罰対象とする「ディープフェイク性犯罪防止法」が成立し、製造・配布した者には最大7年以下の懲役と厳罰化しました。それほど韓国社会では被害が深刻で、米ウォールストリートジャーナル紙は「世界の偽ポルノ映像の半分近くが韓国で作られている」と報じています。

米国でも州法レベルで、選挙に関連したディープフェイクや本人同意のないポルノを違法とする法律が制定され始めました。EU(欧州連合)ではAI規制法(AI Act)にディープフェイク対策が盛り込まれ、生成AIで作られた偽コンテンツであることを明示する義務が課されています。またデジタルサービス法(DSA)により、大規模プラットフォーム企業に対して偽情報や有害コンテンツの迅速な削除・警告表示の義務づけが開始されています。さらに、画像や動画に出所情報を埋め込んで真正性を証明するコンテンツ認証技術の標準化も国際的に進められています。

倫理問題から経営課題へ

性的ディープフェイクは倫理・人権の問題であると同時に、企業の価値に直接響くリスクでもあります。フェイク動画や偽情報によって企業の評判が傷つけば、ブランドイメージが低下し顧客離れや株価下落を招きかねないからです。例えば、経営者の不正をでっち上げた偽動画がSNS上で拡散すれば、真偽が判明する前に株価が急落し、企業は緊急対応に追われるでしょう。ディープフェイクはまた、偽の指示メールや音声で社員を欺き企業から金銭を詐取する詐欺にも悪用され得ます。

このように、ディープフェイク問題はもはや個人の倫理の話ではなく経営課題・リスク管理の問題として捉える必要があります。次のセクションでは、ディープフェイクが企業の無形資産をいかに脅かし、その損失をどう見積もるか、「レピュテーション負債(評判の負債)」という概念も交えて探っていきましょう。

企業の無形資産と「レピュテーション負債」:見えない損失を考える

ブランドと信頼は最大の無形資産

現代の企業価値の大部分は工場や設備ではなく、ブランド力や信用力といった無形資産が占めています(S&P500企業では無形資産が企業価値の約84%に達したとの分析もあります)。中でも企業の評判(レピュテーション)は顧客や取引先の信頼を左右する重要な資産です。評判が傷つけば売上減・株価下落など経済的損失に直結します。このレピュテーションリスク自体は以前から存在しますが、ディープフェイク時代にはその深刻度が格段に増しています。

近年、評判リスクを定量評価する試みとして「レピュテーション負債」という考え方も登場しました。評判を資産とみなすなら、不祥事などで生じた負の評判は企業にとって見えない負債だという発想です。実際、ある研究者の試算では鉄道会社のデータ改ざん事件で約1兆6000億円、自動車メーカーのリコール隠しで約1646億円もの評判負債(失われた企業価値)が発生したとされています。それだけ企業にとって評判は大きな価値を持ち、失えば莫大な損失につながり得るということです。

ディープフェイクがもたらす二つのリスク

ディープフェイクは企業に対し、大きく分けて二つのタイプの損害リスクをもたらします。(1)評判への打撃と(2)金銭的被害です。

まず(1)の評判への打撃です。経営陣の不正や不適切発言を捏造した偽動画が出回れば、事実確認が追いつく前に株価が急落し、世間の信頼は一気に揺らぎます。欧米では実際に、偽のニュースや映像の拡散によって企業の株価が乱高下した事例も報告されています。一度広がった疑惑を完全に払拭するのは容易ではなく、企業は否定の声明発表や緊急調査など高額な危機対応コストを強いられます。それでも取引先や顧客に「火のない所に煙は立たぬ」と思われてしまえば、契約打ち切りや利用離れといった長期的な信頼低下による損失も招きかねません。

次に(2)の金銭的被害です。AIが作った偽の声・映像で上司や取引先になりすまし、社員に不正送金させるようなディープフェイク詐欺が現実に起きています。海外ではそれによって数十億円規模の資金が詐取されたケースが報じられました。フォレンジック企業Regulaの調査によれば、2024年には企業の半数がディープフェイク攻撃を経験し、平均被害額は45万ドル(約6500万円)に上るとの推計もあります。こうした直接的な財務被害はもちろん、詐欺被害が公になれば「この会社はセキュリティが甘い」という印象から信用を失い、さらなる二次被害につながる恐れもあります。

見えない損失をどう測るか

では、ディープフェイクによる評判・信用の損失(レピュテーション負債)は具体的にどう見積もればよいのでしょうか。基本的には事件前後で失われた企業価値新たに発生した対応費用の合計が一つの目安になります。株価が○%下落したならその時価総額分、風評被害で売上が減少したならその減収分を損失と考えます。また、調査費・訴訟費・広報費などの危機対応費用はそのまま特別損失として算出できます。

もちろん、評判低下の長期的影響を厳密に数値化するのは容易ではありません。しかし「最悪○億円の損害もあり得る」という認識を持つことが重要です。実際、一部の分析では不祥事一件で1兆円規模の価値毀損が発生し得ると指摘されています。それほどまでに無形資産である評判は企業の命運を左右しうるということです。ディープフェイク時代においては、こうした見えない損失まで踏まえてリスク管理を行う姿勢が求められます。

信頼を守るために:企業が挑む対策とコスト

モデレーション強化という新たな原価

ディープフェイクという脅威に対処すべく、企業はさまざまなコストを負担し始めています。特にSNSなどプラットフォーム企業では、偽動画を含む有害コンテンツを監視・削除するモデレーション体制の強化が欠かせません。Meta社(旧Facebook)は安全対策に2016年以降130億ドル以上を投資し、対応要員は4万人規模に達したといいます。AIによる自動検出と人間の目によるチェックを組み合わせ、偽コンテンツの拡散防止に努めています。これら莫大な費用は一見目立ちませんが、ユーザーの信頼を繋ぎ止めるための必要経費(原価)と捉えられています。

危機対応プロセスと従業員教育

一般企業でも、ディープフェイクに備えた危機対応プロセスの整備従業員教育が重要です。万一、自社や経営陣に関する偽動画が出回った場合に備え、誰がどのように事実確認し、どの段階で公式発表するかをあらかじめ定めておきます。公式サイトや公式SNS以外の情報は信用しないよう周知しておけば、混乱の拡大を抑えられるでしょう。

また社内では、不審な連絡や指示に騙されないよう社員教育を徹底する必要があります。特に財務担当者には、大金の支払い指示はメールや音声だけで鵜呑みにせず、必ず複数人で確認する習慣を持たせます。AI音声は人間には判別が難しいため、日頃からディープフェイク詐欺の手口を共有したり、重要な通話は必ず本人確認を取るルールを設けることが肝心です。さらに、重要会議の記録や取引のログを保存しておくなど、後から真偽を証明できる証跡を残しておくことも有効でしょう。

保険活用や業界連携による備え

さらに、ディープフェイクによるリスクに対して保険業界連携で備える動きも出てきています。サイバー保険の中にはディープフェイク詐欺による損害賠償や緊急対応費用をカバーするものが登場し始めました。また、Adobeなどが提唱するコンテンツ認証技術(画像や動画に真贋の出所情報を埋め込む仕組み)に企業が参加するなど、技術面で偽コンテンツ拡散を防ぐ取り組みも進んでいます。

加えて、世界経済フォーラムが主導するデジタル・セーフティ・コアリションのように、官民が協力してオンライン上の有害コンテンツ対策に取り組む枠組みも整いつつあります。企業一社では対応しきれないディープフェイク問題だからこそ、産業界全体で知見を共有し、技術者や法律家・行政機関が連携して社会全体の耐性を高めていくことが重要です。

もちろん、これらの対策にはコストが伴います。しかし信頼はもはや贅沢品ではなく戦略的な必需品です。ディープフェイクという新たなリスクに立ち向かうための投資は、長い目で見れば企業価値を守るための安い授業料とも言えるでしょう。

おわりに:信頼の火を絶やさないために

ディープフェイクは、真実という社会の基盤を揺るがす炎です。その炎は面白半分の悪戯から国家規模の情報工作まで、多方面で私たちのプライバシーや企業の信用を焼き尽くそうとしています。しかし企業も社会も、今まさにこの炎に立ち向かい始めました。法整備を進め、検知技術を磨き、一人ひとりが偽情報に惑わされないリテラシーを身につけようとしています。長年かけて築いた信頼という無形資産を守り抜こうという意志がある限り、きっとこの炎を制御できるでしょう。

企業経営においても、売上や利益と同じくらい信用を守ることが重要な時代です。ディープフェイクの時代に必要なコストを惜しまず信頼を守り抜くことが、企業の使命と言っても過言ではありません。偽りの映像が飛び交う世の中だからこそ、本物の誠実さと信用が一層輝きを増すはずです。企業も私たち個人も、その信頼の灯火を絶やさず未来へ繋いでいきたいものです。

深掘り:本紹介

もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。

『生成AIの脅威 情報偏食でゆがむ認知』読売新聞「情報偏食」取材班
「生成AIが作る“もっともらしい嘘”」が、なぜ人の判断を狂わせ、社会やビジネスを揺らすのか。偽情報に“ハックされる側”にならないための視点が手に入ります。ディープフェイクを「他人事」から「自分の意思決定の問題」に引き寄せてくれる一冊。


『EUのAIガバナンス──新技術に対する国際的な科学技術ガバナンスに向けて』北和樹
「規制って結局、何を守って何を縛るの?」に真正面から答える本。EUのAI法を軸に、なぜルールが必要になったのか、企業はどこまで責任を負うのかを整理できます。プラットフォーム責任やモデレーションコストを“経営の言葉”に変換したい人に刺さります。

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「AIを入れた瞬間、ガバナンスが必要になる理由」が腹落ちするタイプの実務本。倫理の綺麗事ではなく、事業としてAIを回すための“ルール設計”が見えてきます。社内規程・ガイドライン・監督責任の論点がまとまり、炎上対応が“場当たり”から“設計”になります。

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『新「レピュテーショナル・リスク」管理論──SNS時代の情報の加速化・拡散にどう対応するか』
ディープフェイクの怖さは「嘘そのもの」より、拡散スピード誤解の定着。この本は、その現実を前提に、危機対応・社内統制・ステークホルダー対応をどう組むかを具体化してくれます。“レピュテーション負債”を組織で返済していくための、実務的な地図になります。


『ディープフェイクの衝撃 AI技術がもたらす破壊と創造』笹原和俊
ディープフェイクを「技術の仕組み」「社会への破壊力」「対策の方向性」まで一気通貫で整理してくれる入門の決定版。この記事のテーマ(無形資産の毀損・対応コスト・規制)を、知識の土台から補強したい読者にちょうどいい一冊です。


それでは、またっ!!

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