温暖化は“見えない減価償却”である:日本の資産が静かに溶ける会計

みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。
Jindyです。 

暑さで“資産の寿命”が縮んでるのに、あなたの会社の数字はそのままになっていませんか?

2025年の日本は、年平均気温が「過去3番目の高温」になる見込みだと報じられています。年平均気温偏差は速報値で+1.25℃(1〜11月)とされ、1898年以降で2024年、2023年に次ぐ水準。しかも“基準値より1℃以上高い年”が3年連続という、わりと笑えない連続記録です。こうなると私たちの生活が暑いだけじゃなく、会社の“モノ”が静かに痛みます。空調はフル稼働、冷凍冷蔵は負荷増、物流は温度管理の追加コスト、建物は熱による伸縮や劣化、道路や線路は高温で変形リスク…。「まだ壊れてないから大丈夫」は、会計的には一番危ないワードかもしれません。

この記事の主張はシンプルです。温暖化は“見えない減価償却”を早める——つまり、設備やインフラの「使える年数(寿命)」を削り、将来の更新・修繕・停止損失を前倒しで連れてくる、ということ。ポイントは“壊れた瞬間”だけじゃなく、壊れるまでのスピードが上がる点。寿命が短くなれば、毎年の減価償却費は増えやすく、利益の見え方も変わります。さらに、修繕費や電気代が増えると原価が膨らみ、価格転嫁が追いつかなければ、利益率はじわじわ削られます。これ、現場の「最近キツい…」を、数字で説明できる武器にもなります。

初心者向けに、難しい用語は最小限でいきます。この記事では、①“熱”が資産に与えるダメージの正体(どこが、なぜ、早く傷むのか)、②会計でどう表現されるか(耐用年数の見直し=見積り変更、減価償却の増え方、場合によっては損傷=減損の考え方)、③空調・物流・食品・建物・道路など“熱に弱い資産”が多い業界で、明日から意思決定を変えるヒント(投資の優先順位、保守計画、KPIの置き方)——この3つを順に噛み砕きます。税務の世界でも、条件を満たせば「耐用年数の短縮」という考え方が整理されています(制度の存在を知っているだけでも、社内議論が進みます)。

読み終わるころには、「猛暑=コスト増」という単純な話から一歩進んで、「暑さを前提に、投資(CAPEX)と会計をどう組み替えるか」が見えるはず。特に20〜30代のビジネスパーソンなら、「設備投資って結局いくら必要?」「更新は何年先?」「この原価上昇、説明できる?」に直面しがち。そこで本記事は、社内資料にそのまま落とせる“考え方のテンプレ”として書きます。暑さを“気合いで乗り切る”から、“数字で先回りする”へ。気温のニュースを、経営のニュースに変えるための“翻訳”を一緒にやっていきましょう。

暑さは“壊れる前”に資産の寿命を削る

2025年の日本は、年平均気温が1898年以降で3番目の高さになる見込み(速報値)で、基準値(1991〜2020年平均)から+1.25℃とされています。しかも2025年の夏(6〜8月)は平均気温偏差が+2.36℃で、統計開始以来で最も高い水準。ここまで暑いと、「壊れてから直す」では遅くて、壊れるスピードが上がるのが本質です。

会計の言葉に翻訳すると、こうなります。
“使える年数(寿命)が短くなる” → 減価償却が早まる(=毎年の費用が増えやすい)
そして怖いのは、いきなり故障しなくても、じわじわ劣化して「更新時期が前倒しになる」点。これが“見えない減価償却”です。

「稼働時間の増加」が、いちばん分かりやすく寿命を縮める

暑い年ほど、空調・冷凍冷蔵・サーバー室の冷却は稼働時間が伸びがちです。すると、モーターやコンプレッサー、ファン、ベルト、フィルターなど“動く部品”の消耗が早くなります。
現場感としては「電気代が増えた」になりやすいけど、本当はもう一段深くて、部品交換や保守回数が増え、更新も早まる。ここはPL(費用)と同時に、将来のCAPEX(投資)を前倒しする動きにつながります。

「素材の伸び縮み・やわらかさ」が、建物とインフラを痛める

熱は、素材を地味に痛めます。たとえばコンクリートは、日射や気温などの高温作用で温度変形が生じ、長期的な性質にも影響し得る、という整理があります。
道路も同じ。環境省のガイドラインでは、黒いアスファルトは日射で表面温度が60℃を超えることがあるとされています。国交省の資料でも、路面温度が50℃台後半になる観測が示されています。
こうなると、ひび割れ・わだち・伸縮によるズレなどが起きやすくなり、修繕の頻度が上がる。修繕が増えれば費用は増えるし、損傷が大きいと「資産価値が下がった」とみなす議論(減損)にもつながりやすくなります。

「温度管理コスト」が、物流・食品・店舗の“見えない原価”になる

食品や医薬、ECの冷蔵・冷凍、外食の厨房、コンビニのショーケース…温度管理が前提の業態は、暑さが強いほど冷やすためのエネルギーロス(廃棄・品質低下)リスクが増えます。ここは「売上が伸びても利益が伸びない」原因になりがち。
会計的には、①電気代や保守費が原価・販管費を押し上げる、②冷却機器の更新が前倒しになる、③対策投資(断熱・遮熱・高効率機器)が増える――という3点セットで効いてきます。つまり、暑さは“気合い”じゃなくて、原価構造そのものを変えにきています。

最後に、初心者向けの超シンプルな見分け方を置いておきます。

  • 維持するための出費(フィルター交換・小修繕・点検)→ だいたい“費用”(その年のPL)
  • 性能を上げる/寿命を延ばす出費(断熱改修・大型更新・能力アップ)→ “投資”(資産になり、のちに償却)

暑さが続くほど、後者の判断が増える=投資計画と会計の接続が重要になります。

会計でどう表れる?「耐用年数の見直し」と「減損」の2段構え

2025年の日本は、年平均気温が平年(1991〜2020年)より+1.25℃(1〜11月の速報値)で、1898年以降3番目の高温になる見込み——と気象庁がまとめています。暑さが“例外”じゃなく“前提”になってくると、会社の数字の出方も変わります。
ここでは初心者向けに、「会計で何が起きるか」を 2つのレンズで整理します。

寿命が縮むなら「耐用年数」を見直す(=見積り変更)

減価償却って、超ざっくり言うと「高い買い物(設備)を、使う年数で割って、毎年ちょっとずつ費用にする」仕組みです。
ところが暑さで劣化が早まり、“当初思っていた年数”で使えないなら、その前提を変えないといけません。

IFRS(国際会計基準)では、有形固定資産の耐用年数や残存価額は少なくとも毎期末に見直すことが求められ、変わったら「見積り変更」として将来に向かって反映します。
日本基準でも、耐用年数の変更は「過去が間違いだった」ではなく、状況変化による見積り変更として扱う考え方が整理されています。

イメージ例:

  • 1,000万円の設備を「10年使える」として、年100万円ずつ費用化していた
  • でも猛暑で負荷が増え、「残りは2年しかもたない」と分かった
    残っている簿価(まだ費用化してない分)を、残り2年で割るので、以後の減価償却費はグッと増えます。
    壊れてないのに利益が減る。これが“見えない減価償却”の正体です。

ダメージが大きいと「減損」になる(=資産の価値を下げる)

耐用年数の見直しは「まだ使える前提」の調整。
一方で、暑さや気候リスクが原因で “もう投資額を回収できない” くらい状況が悪化すると、次は「減損(げんそん)」の話が出ます。

IFRSのIAS 36では、各報告日に「減損の兆候」があるかをチェックし、兆候の例として物理的な損傷や陳腐化などが挙げられています。
日本基準でも、固定資産の減損は「回収できない状態が相当程度に確実」な場合に帳簿価額を減額して、将来へ損失を繰り延べないための処理だ、という考え方が示されています。

初心者向けに言い換えると、減損はこうです。

  • 「この店舗(工場)は、暑さ対策コストや営業制約で、もう儲けが出にくい」
  • 「将来の稼ぐ力が落ちた」
    帳簿の資産価値を下げて、損失を出す(痛いけど、現実に合わせる)

“税務の年数”と“実際の寿命”がズレると、意思決定が遅れる

ここが地味に重要です。日本には税務上の「法定耐用年数」がありますが、実態として寿命が縮むなら、税務でも条件を満たせば耐用年数の短縮の承認申請という制度が用意されています。
ただし、税務の手続は手続、財務会計は財務会計で考える必要があるので、「税務が変わってないから会計もそのまま」は危険になりがち。

だから現場で効くのは、会計を“後追い作業”にせず、投資判断とセットにすること。

  • 暑さで稼働が増える設備(空調・冷却・冷凍)ほど、保守費+更新時期の前倒しが起きやすい
  • なら、修繕の繰り返しで延命するのか、早めに高効率機器へ更新するのか
  • その判断を、PL(費用)とB/S(資産)の両方で説明できると強い

ここまでで、温暖化が“コスト増”だけじゃなく、減価償却(寿命)→減損(価値)の順で、会計にじわじわ入ってくるのが見えてきたはずです。

じゃあ会社は何をすればいい?「暑さを数字にする」実務の型

2025年は、日本の年平均気温が過去3番目の高温になる見込み(1〜11月速報で偏差+1.25℃)。夏(6〜8月)に限れば、全国の多くの地点で記録的な高温が出ています。つまり今後は「たまたま暑い年」ではなく、「暑いのが標準」になっていく前提で、設備とお金の使い方を組み替える必要があります。

ここでは、初心者でも会社で使えるように、“暑さを会計と投資に落とす”3つの型を紹介します。

まず「暑さ」をKPI化する:設備の“寿命アラーム”を作る

暑さ対策って、気合い・根性・現場の経験だけで回すと、どうしても後手になります。
そこでおすすめは、暑さを“数字のアラーム”にすること。

たとえばこんな項目を、月次で見える化します。

  • 空調・冷凍冷蔵の稼働時間(前年同月比)
  • 電力使用量 / 売上(原価構造が変わってないか)
  • 故障・アラート件数(軽微な不調の増加=寿命短縮のサイン)
  • 物流や食品なら、温度逸脱(規定温度を外れた回数)や廃棄ロス

ポイントは「壊れてから」じゃなく「壊れそう」を拾うこと。暑さは、路面だと黒いアスファルトで表面温度が60℃を超えることもあると整理されているくらい、環境そのものの負荷が上がっています。負荷が上がれば、資産の寿命も前倒しになりやすい。

投資の優先順位を変える:「延命コスト」と「更新コスト」を比べる

次にやることはシンプルで、“延命し続けるより、更新した方が得”が起きてないかを見直すことです。

暑さが強いと、ありがちな負のループがあります。
修繕が増える → 稼働停止が増える → 応急処置が増える → さらに壊れやすくなる

ここで効くのが、投資判断の物差しを1本追加すること。

  • A案:今の設備を修繕しながら使う(毎年の修繕費+故障リスク+電気代)
  • B案:早めに更新する(初期投資は増えるが、電気代や故障が下がる)

この比較ができると、「暑さ対策」は“コスト”から“利益を守る投資”に変わります。しかも寿命が短くなるなら、税務の世界でも条件を満たせば耐用年数の短縮の承認申請という制度が用意されています(存在を知っているだけで社内の議論が進みます)。

社内説明の武器を持つ:開示・監査の時代は「物理的リスク」が前提になる

最後は“説明責任”の話です。最近は、気候変動を「環境の話」ではなく「財務の話」として扱う流れが強まっています。IFRS S2では、熱波などの急性リスクや、気温上昇のような慢性的リスク(chronic physical risk)が企業に財務的影響を与えうる、という整理が明確に書かれています。
またISSBは、投資家が“現在と将来の財務影響”を理解できる情報の開示を求める方向で、背景資料も公表しています。

ここで大事なのは、難しい開示文を作ることではなく、社内の意思決定を整えること。
具体的には、

「暑さKPI」→「耐用年数の見直し」→「投資計画」

この線をつなげておくと、利益がブレたときも説明しやすいし、監査や取締役会でも話が通りやすくなります。TCFDでも、戦略・リスク管理・指標と目標といった枠組みで、シナリオ分析を含む整理が推奨されています。

暑さは、ニュースの見出しだけで終わりません。設備の寿命を削り、投資を前倒しにし、利益の見え方まで変えていきます。だからこそ、「暑い」→「費用が増えた」で止めずに、「暑い」→「寿命が縮む」→「減価償却と投資計画が変わる」まで落としていく。これが、温暖化を“経営の言葉”に変える一番の近道です。

結論:温暖化は、利益ではなく“前提”を溶かす

2025年の日本は、気象庁の「天候のまとめ(速報)」で、年平均気温が統計開始(1898年)以来“過去3番目の高温”になる見込みとされています。ウェザーニュースも、基準値(1991〜2020年)より1℃以上高い年が3年連続だと報じました。ここまでくると、暑さは「季節の話」じゃなく、会社の資産にかかる“恒常的な負荷”です。

この負荷が厄介なのは、売上をいきなり奪う前に、まずB/S(資産)を静かに削るところ。空調や冷凍機は稼働が増えて消耗が早まり、建物や道路は熱で伸び縮みして傷みやすくなり、物流・食品は温度管理コストとロスが増える。結果として「更新が早まる」「修繕が増える」「止まると損が大きい」になり、気づいたときには“予算が常に足りない状態”に入りやすい。これが、温暖化=見えない減価償却の正体です。

じゃあ、初心者が明日から押さえるべきポイントは何か。結局、やることは3つだけです。

  1. 暑さをKPI化する:稼働時間、電力/売上、故障予兆、温度逸脱などで「寿命が縮んでるサイン」を見える化する。
  2. 延命と更新を比べる:修繕費・電気代・停止損失まで含めた“数年合計”で、更新の前倒しが得かどうか判断する。
  3. 会計の言葉にする:寿命が縮むなら耐用年数の見直し、回収が厳しいなら減損——数字の出方を先に説明できる形に整える。

そしてもう一歩だけ。いまは「気候の物理的リスク(熱波などの急性リスク、気温上昇などの慢性リスク)」が財務に影響しうる、という整理が国際基準でもはっきりしています。だから社内説明は、ふわっとした“環境の話”より、「どの資産が、どの数字に、いつ効くか」で語る方が強い。
税務の世界でも、条件を満たせば耐用年数短縮の承認申請
という道が用意されています(申請フォームや添付資料の考え方が公開されています)。制度を知っているだけで、投資の議論が前に進みます。

温暖化は、遠い未来のリスクじゃなく「今日の償却ペース」を変える出来事です。早く気づいた会社ほど、更新の順番を選べるし、投資の余力も守れます。暑さのニュースを見たら、「電気代が増えた」で終わらせずに、「うちの資産は何年ぶん前倒しになった?」と一回だけ問い直す。その一問が、守りのコストを“攻めの投資”に変えて、あなたの会社のPLを救います。

深掘り:本紹介

もう少しこの内容を深掘りしたい方向けの本を紹介します。

『IFRS®サステナビリティ開示基準』
「結局S1/S2の“原文”って何が書いてあるの?」を一発で解決する、公式翻訳の決定版。あなたの会社の“暑さ=物理的リスク”を、開示・会計の言葉に翻訳するときの根っこになります。議論がブレなくなるのが最大の価値。

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『業種別 IFRS国際サステナビリティ開示基準の実務対応』
「うちはどの指標を、どこまで出せばいい?」が一番つまずくポイント。これは業種別の開示要求を軸に、気候の“数字”を現場に落とす本です。空調・物流・食品・建物など、あなたの業界のKPI設計に直結しやすい。


『ISSA 5000対応 サステナビリティ情報保証の実務ガイド』
いまや「出す」だけじゃなく「数字の信頼性」が問われる時代。暑さ起因のコストや設備更新の根拠を社内外に説明するとき、どんな証跡が必要かがわかります。“監査・保証の目線”を先に入れておくと、後から地獄を見ません。


『サステナビリティ基準がわかる(日経文庫)』
難しい本に突っ込む前の、いちばんいい助走。ISSBや周辺の基準が何のために存在して、企業のどこを変えるのかを、短い時間でつかめます。「温暖化=見えない減価償却」という視点を、社内の非会計メンバーに共有するときにも使いやすい一冊。


『令和6年12月改訂 減価償却実務問答集』
この記事の“尖り”を、実務の言葉に変えるための辞書。耐用年数、修繕費と資本的支出の考え方など、現場で揉めやすい論点をQ&Aで潰していけます。「暑さで更新が前倒しになる」局面ほど、ここが効きます。

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それでは、またっ!!

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