不確実性は、敵か。味方か。――「量子的な思考」を、投資・会計・仕事の現場まで降ろして考える

みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。Jindyです。  

「不確実性は排除すべきリスクだ」
「不確実性は資源だ」

この二つを並べると、後者のほうが賢そうに見えます。
でも、ここは少し慎重に見たい。

世の中には、たしかに“なぜかうまくいく人”がいる。
理屈を完璧に語るわけでもないのに、気づくと人も案件も流れも集まってくる。外から見ると、理解不能だけど強い。だから人はそこに「量子的」とか、大きな言葉を貼りたくなる。

ただ、運だけで片づけると再現性を失う。
逆に、全部を設計で説明しようとすると、現実のややこしさをこぼす。

このブログでやりたいのは、その中間です。

今回のポストが言っていることを、複雑系、意思決定、起業家研究、量子認知までほどきながら、仕事、お金、投資、会計の感覚まで下ろしてみる。すると見えてくるのは、不確実性を消せる人が強いのではなく、不確実性の“扱い方”で差がつく、というかなり現実的な話です。

この話を読むメリットは大きい。
仕事で計画が崩れたとき、何を守り、何を変えるかが見えやすくなる。投資で「読めない局面」に出会ったとき、何を捨て、何を残すかの判断が変わる。会計でいえば、予算を外さないことだけが正義ではなく、変化に耐える資金配分や、やり直し可能な構造こそ価値だと腹落ちする。

言い換えると、このブログは「当てにいく人」から「外れても崩れない人」へ視点をずらすための文章です。

不確実性は本当に“悪者”なのか

不確実性と聞くと、多くの人は身構えます。
売上が読めない。相場が読めない。相手の反応が読めない。数字を扱う仕事では、ぶれはそのまま痛みになるからです。だから直線的な思考は強い。前提を置き、計画を立て、変動を抑え、結果を回収する。この発想は、工場、経理、内部統制、資金繰りでは今でも王道です。

でも、その成功体験を未知が大きい領域にまでそのまま持ち込むと、急に苦しくなる。

リスクと不確実性は、同じではない

研究ではかなり前から、リスクと不確実性は分けて考えられてきました。リスクは確率をある程度見積もれるもの。不確実性は、そもそも確率の置き方自体が怪しいものです。

この違いは実務で効きます。為替予約や保険は、ある程度分布が読めるから機能する。でも、新規事業の初速や、生成AIで仕事の分担がどう変わるかみたいな話はそうはいかない。データが少なく、前提が動き、当事者の行動で結果が変わるからです。

会計っぽく言うなら、リスクは引当やヘッジの世界。不確実性は、そもそも仕訳の前提が揺れている世界に近い。ここを一緒にすると、判断が鈍る。

不確実性は、損ではなく“情報”でもある

探索と活用の研究では、人は既にうまくいっているやり方を続けるか、まだ分からない選択肢を試すかで揺れます。後者は不安ですが、やらないと新しい情報が入ってこない。

つまり、不確実性はコストであると同時に、将来の判断精度を買うための入場料でもあるわけです。

投資でも仕事でも同じです。毎回同じ勝ち筋だけをなぞると、今の安心は買えても、次の学習機会は痩せる。ここでよくある誤解が、「じゃあ無計画でいいのか」というもの。違います。雑に動くことと、情報を取りにいくことは別物だ。前者は浪費で、後者は投資です。

少ない情報で決めるのは、雑ではなく強さでもある

不確実な世界では、情報を集めれば集めるほど強くなるとは限りません。研究では、複雑で不確実な状況では、シンプルな判断ルールのほうが頑丈に働く場面があると示されています。

資料だけ増えて、意思決定が遅れる。これは本当に多い。

必要なのは、情報の総量より切る基準です。
「撤退ラインは先に決める」
「一回の試行で失う金額は限定する」
「小さく試して反応を見る」

会計の言葉に寄せるなら、不確実性に強い人は未来を当てる人ではなく、損失上限をコントロールできる人です。


不確実性は、消す対象である前に、読み方を変える対象だ。
排除できるものは排除する。でも、排除しきれないものまで敵扱いすると、学習機会まで一緒に消してしまう。

システムは“作る”のか、“浮かび上がる”のか

今回のポストでいちばん面白いのはここです。

「システムとは作り出す対象になる」
「システムとは内部から浮かび上がらせるもの」

前半は分かりやすい。設計する、ルール化する、標準化する。会社はふつうこちら側の言葉で回っています。けれど現実には、それだけでは説明できない現象が多い。優秀な人を集めても空回りする組織があり、完璧な制度がなくても前に進むチームもある。この差を説明するのが、創発という視点です。

成果は、上からの設計図だけでは生まれない

複雑系の研究では、全体の秩序や成果は、誰か一人の設計だけでなく、多数の主体の相互作用から立ち上がると考えます。

会議の一言、雑談で起きた認識合わせ、現場が勝手に編み出した工夫。こういう“設計書にないもの”が、あとから見ると成果を決めていたりする。

制度は入口でしかない。動くかどうかは、その制度が人と人のあいだでどう変形されるかで決まる。ここを見落とすと、「制度を作れば動くはずだ」という錯覚に入ります。

起業家的な人は、未来を当てるのでなく、手元から組み立てる

Sarasvathyの effectuation はこの話と相性がいい。要点は、未来を精密に予測してから動くのではなく、「自分は何を持っているか」「誰と組めるか」「どこまでなら失っても耐えられるか」から始めることです。

これが強いのは、予測が外れてもゲームから退場しにくいから。

投資でも事業でも勝ち筋は一つではない。ただし退場すると選択肢はゼロになる。会計でいえば、これはPLより先にBSを見る感覚に近い。どれだけ儲かりそうかの前に、その試行を支える資金、時間、人間関係の残高があるかを見るわけです。

良いシステムとは、統制が強いものではなく、やり直せるもの

ここは強く言いたいところです。

仕事でシステム化と言うと、漏れなく、速く、正確に、が前面に出ます。もちろん大事。でも、不確実性が高い領域ではそれだけだと脆い。

本当に強いシステムは、一回で正解を出すものではなく、間違っても壊れ切らず、学びを残して更新できるものだ。

予算制度でも、最初の数字が当たる仕組みより、差異が出たときに理由が見える仕組みのほうが強い。営業管理でも、全案件を完璧予測する仕組みより、外れた案件から何を学ぶかが残る仕組みのほうが伸びる。


システムは作るものだ。でも、それで終わりじゃない。
本当に価値が出るのは、作ったあとに、人の相互作用の中で少しずつ立ち上がる部分です。設計と創発は対立しない。強い現場は、その両方を持っている。

なぜ“理解不能だけど、なぜかうまくいく人”が生まれるのか

このポストが刺さる理由は、理屈よりここにあります。

たしかにいる。説明は雑なのに結果は出す人。段取りは粗く見えるのに、最終的に人が集まり、流れができる人。では彼らは、本当に“謎の幸運体質”なのか。

人は、分かったつもりになりやすい

RozenblitとKeilの研究で有名なのが、「説明の錯覚」です。人は、複雑な仕組みを実際以上に分かったつもりになりやすい。

戦略を語る。市場を語る。組織課題を語る。でも「なぜそうなるのか」を一段深く説明しようとすると、急に足元が怪しくなる。私たちは、直線的な物語をあとづけで作るのがうまい。だから非線形で偶然の入り込む成功を見ると、「あの人はセンスがある」「運がいい」と短いラベルで片づけてしまう。

ここ、落とし穴です。ラベルは理解を助ける一方で、観察を止める。

成功には、能力だけでなく偶然が混ざる

成功と運の関係を扱う研究では、才能や努力だけでなく、偶然性が成果を大きく左右しうることが示されています。

ただし「じゃあ全部運だ」となるのも違う。偶然だけでは継続的な成果になりにくいし、能力だけでも大きな成果は取りこぼす。現実は、その掛け算です。

“うまくいく人”は、運が良いというより、運が来たときに乗りやすい位置にいる可能性が高い。小さく試し、人とつながり、失敗しても致命傷にならず、反応を見て動きを変える。これは、偶然を資産化する動きです。

量子的な思考は、物理学というより比喩として読むのが安全

量子認知という研究領域は実際にあります。ただし多くの場合、それは人間の判断の文脈依存性や順序効果を説明するために、量子理論の数理枠組みを使うという話です。

つまり、「仕事ができる人の脳は量子で動いている」といった話を、そのまま支持しているわけではない。そこは飛躍です。

だからこのポストは、量子という言葉に酔うより、非線形、文脈依存、全部を固定しない、相互作用から形が出る、という話として読むほうがいい。その読み方なら、怪しい言い回しではなく、複雑な現実に対するかなり鋭い観察になります。


“理解不能だけどなぜかうまくいく人”は、理解不能なのではなく、こちらの説明能力が追いついていないだけかもしれない。彼らは偶然を神秘として扱っていない。偶然が入り込める余白を、自分の仕事や関係や資金の中に残している。だから外から見ると、幸運に見えるんです。

結論

不確実性は、たしかに怖い。予定を狂わせ、数字を崩し、努力を空振りさせる。できれば無くしたい。その気持ちは自然です。

でも、現実はそこまで親切ではない。
未来は、管理だけでは閉じない。人も市場も組織も、こちらが線を引いた通りには動かない。だからこそ、強さの定義を少し変える必要がある。

ぶれない人が強いのではない。
ぶれても戻れる人が強い。

全部わかる人が勝つのではない。
分からなさの中で、壊れない形を作れる人が残る。

投資でも、会計でも、仕事でも同じです。完璧な予測を持てないことは敗北ではない。それは、この世界の仕様だ。そして仕様である以上、戦い方はある。

資金を厚く持つ。
損失上限を決める。
小さく試す。
反応を見る。
人とのあいだに流れを作る。
外れたあとに学びを残す。

地味です。でも、この地味な設計が、あとから「なぜかうまくいく人」に見える輪郭を作る。

たぶん、幸運は空から降るだけのものではない。
余白のある人に、あとから入り込んでくる。

未来を全部読み切れなくても大丈夫だ。少し外してもいい。途中で組み替えていい。理解しきれないものが残っていてもいい。その残りものの中に、新しい流れの入口がある。

本当にしぶとい人というのは、強くて硬い人じゃない。
揺れを含んだまま、それでも前に進める人だ。

参考書籍

『リスクの未来学 予測不能時代を考える8つの視点』
変化の大きい時代に、「何が危ないか」を並べるだけで終わらず、そもそもリスクをどう見るかの視野を広げてくれる一冊です。目の前の不安に振り回されず、構造で考えたい読者にはかなり刺さります。ニュースを追っているのに腹落ちしない。そんな人ほど、読後に景色が変わります。


『予測不能の時代 データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』矢野和男
「変化に強い組織とは何か」を、感覚論ではなくデータと実証の言葉で読み解きたい人に向いています。ルールで縛るほど強くなるわけではない。むしろ、幸せ・つながり・適応力が企業の底力になる。その視点は、このブログのテーマとかなり相性がいい。仕事観を少し静かに揺らしてくる本です。


『人が壊れるマネジメント プロジェクトを始める前に知っておきたいアンチパターン50』橋本将功
不確実性に弱い組織は、たいてい「計画が甘い」のではなく、壊れ方のパターンを知らない。この本はそこをかなり具体的に見せてくれます。勢いで走り出した企画が、なぜ途中で人も空気も数字も傷めるのか。きれいごと抜きで知りたい読者には、かなり実用的です。読んだあと、プロジェクトの見方が一段シビアになります。いい意味で。


『組織の未来をひらく創発ワークショップ』
「創発」という言葉をふわっと終わらせず、チームの中でどう生まれるのかを実践の形でつかませてくれる本です。ひらめきは天才の専売特許ではなく、場のつくり方で起きる。この感覚を持てると、組織や会議の見え方が変わります。新規事業、組織変革、停滞感のある現場。どれかに心当たりがある読者なら、ページをめくる手が止まりにくいはずです。


『学習する組織 システム思考で未来を創造する』
変化に強い会社やチームをつくるうえで、避けて通れない定番です。少し骨太ですが、そのぶん「部分最適ではなく全体を見る」とはどういうことかが深く残ります。目先の正しさに振り回されているときほど、この本は効きます。仕事が複雑になるほど、場当たり対応ではなく“学べる構造”が必要になる。その意味が、じわっと見えてきます。


それでは、またっ!!

引用論文・参考文献

・Sarasvathy, S. D. “Causation and Effectuation: Toward a Theoretical Shift from Economic Inevitability to Entrepreneurial Contingency” (2001).
・Wyatt, L. E. et al. “Exploration versus exploitation decisions in the human brain” (2024).
・Harms, M. B. et al. “The Structure and Development of Explore-Exploit Decision Making” (2024).
・Feng, S. F. et al. “The dynamics of explore–exploit decisions reveal a signal-to-noise mechanism for random exploration” (2021).
・Mousavi, S. & Gigerenzer, G. “Risk, uncertainty, and heuristics” (2014).
・Lichtenstein, B. B. et al. “The leadership of emergence” (2009) / “Complexity Leadership Theory” (2006).
・Busemeyer, J. R. & Bruza, P. D. Quantum Models of Cognition and Decision (2012/2024).
・Rozenblit, L. & Keil, F. “The misunderstood limits of folk science: an illusion of explanatory depth” (2002).
・Pluchino, A. et al. “Talent Versus Luck: The Role of Randomness in Success and Failure” (2018).

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