みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。Jindyです。
会議で、何かがおかしいと思う。でも、うまく説明できない。数字は合っている。資料も整っている。それなのに、このまま進めたら危ない気がする。そんなとき、説明できない自分の方が間違っているように感じませんか。
この記事では、その違和感をどう扱えば、仕事や投資の判断に生かせるのかを考えます。言語化を急ぐと失うもの。言語化しないままだと動かせないもの。その両方を見ていくと、頭のよさを、説明のうまさだけで測れなくなります。
人は言葉で考える。だから、名前を付けられないものは考えられない。この見方には、納得しやすいところがあります。ただ、そのまま人間の仕組みとして断定すると、少し狭い。人は、言葉になる前から、見て、感じて、何かを判断しています。問題は、その先です。
自分の中では気づいているのに、誰かと一緒に考える対象にならない。ここに、個人の思考と組織の思考の、大きな段差があります。
言葉は思考のすべてではない – 説明できないからといって、何も考えていないわけではない

言葉は便利です。頭の中のものを持ち運べる形にしてくれる。ただ、便利すぎる道具は、いつの間にか世界そのものに見えてきます。まずは、思考と言葉を少し離してみましょう。
頭の中には、文章以外のものもある
家具を動かす前に、部屋のどこへ置けば収まるかを想像する。聞き慣れた曲の、次の音を待つ。ボールの動きを見て、身体を寄せる。こうした処理を、毎回、頭の中で文章にしているとは限りません。
2024年のNature掲載の論考で、Fedorenkoらは、脳画像研究や失語症の研究などを整理し、複雑な思考にも言語が必須とはいえないと論じています。言語能力が大きく損なわれても、特定の計算や推論が保たれる例がある。これは、思考の全部を内なる独り言と同一視できない理由です。mcgovern.mit.edu
もちろん、言葉がいらないという話ではありません。目の前にない出来事を比較したり、条件を整理したり、考えを人に渡したりする場面では、言葉は強力な道具になります。
ここで区別したいのは、何かを捉えることと、それを説明できることです。説明は、捉えたものの一部を取り出す作業でもある。うまく説明できたから全体を捉えているとも、説明できないから中身がないとも、すぐには言えません。
名前は、見えるものの輪郭を変える
一方で、言葉が思考や知覚に影響しないというのも言いすぎです。Lupyanのラベル・フィードバック仮説では、言葉のラベルは、物の特徴に注意を向けたり、カテゴリーとして捉えたりする処理に関わると考えます。研究の整理では、ラベルが分類を助ける一方、個々の物の特徴の記憶には不利に働く場合も紹介されています。frontiersin.org
名前を知ることは、世界に取っ手を付けるようなものです。以前は漠然と流していた現象を、もう一度つかめる。別の場面と比較できる。人にも渡せる。
たとえば、仕事がしんどいとだけ言うと、仕事量を減らす話になりやすい。でも、同じ作業を何度も説明し直しているのか、承認を待っているのか、判断が一人に集まっているのかで、手当ては違います。
名前が増えると、原因を分けて考えやすくなる。ただし、名前を覚えただけでは足りません。どの出来事をその言葉に含めるのかまで確かめないと、立派な単語で雑にまとめ直しただけになる。語彙力と観察力は、同じものではないのです。
組織では、名前のない問題が議題から落ちる
人間の脳について、名前がないと考えられないとは断定できない。でも、組織の運営では、それに似たことが起こりえます。ここからは、研究をそのまま会社へ当てはめた結論ではなく、実務への応用として考えてみます。
報告書には項目がある。予算には費目がある。会議には議題がある。既存の箱に収まる問題は、担当者と対応期限を付けやすい。一方、何となく変だという感覚は、その箱に入りにくい。
仮に、担当者が減ったあとも、ミスの件数が増えていない部署があるとします。集計だけ見ると、効率化に成功したように見える。でも、実際には、経験者が毎回、提出前に気づいて直しているかもしれません。記録されたミスは少ない。訂正の手間は多い。この二つは両立します。
その手間を、個人の頑張りとして済ませるのか、業務を維持するために必要な作業として捉えるのか。呼び方が変われば、調べる対象も変わる。問題が存在しないのではなく、報告するための入口がない場合があるのです。
言葉は、現実をそのまま写す透明な窓ではありません。見たいものを見やすくし、扱いたいものを扱いやすくする道具です。その働きがあるからこそ、何を見落とすのかも考えたい。名前が付く前の感覚を残すには、言葉だけにこだわらず、図、写真、現物、具体的な出来事を使う方法もあります。言語化するまで何も共有できないと決めつけると、その入口まで狭くしてしまいます。
資料の項目が全部埋まったことと、現場を理解できたことは別です。空欄がない資料の外に、まだ名前のない負担が残っている。経理や管理会計の仕事では、この余白を忘れないことが判断の質につながります。
突出した判断には二つの入口がある – 感じ取る力と、考える道具をつくる力

言葉の外へ手を伸ばす方法は、一つではありません。まだ説明できないものを感覚で捉えることもあれば、新しい区別やモデルをつくり、考えられる形にすることもある。ただし、これを人間の固定的な二分類にする必要はありません。
熟練者の直感は、経験の結果が先に届く
経験を積んだ人が資料を見て、ある箇所で手を止める。最初から説明が出てくるとは限らない。それでも、見慣れた流れから何かが外れていると感じる。これは実務で考えられる、直感の使い方の一例です。
その感覚を神秘化する必要はありません。説明を順番に組み立てるより先に、経験から身についたパターンへの反応が出ることがある。本人にも、どの手掛かりをどう重く見たのかを、すべて言葉にできるとは限らないのです。
たとえば、利益が増えた会社に対して、何か嫌な感じがする。その感覚だけで評価を決めるのは危うい。でも、売掛金の回収状況、在庫の動き、取引条件の変更を確かめる入口にはできます。利益の数字を疑うというより、利益がどんな取引から生まれているのかを見に行く。
直感の価値は、答えを保証することより、見る場所を教えてくれることにあります。虫の知らせを、調査依頼に変える。そう考えると、直感と分析はかなり仲よく働けます。
勘が当たる場所と、当たりにくい場所がある
ただし、長く働いている人の勘なら信頼できる、とはいきません。KahnemanとKleinの2009年の論文は、直感の質を見極めるには、環境に予測可能な規則性があるか、それを学ぶ機会があったかを見る必要があると整理しています。本人が強く確信していることは、正確さの証明になりません。PubMed
繰り返し似た処理をして、誤りや正解が確かめられる仕事と、条件が次々に変わる判断では、経験の蓄積の意味が違います。同じ部署に長くいただけで、あらゆる意思決定の精度が上がるわけではない。
投資でも、事業の仕組みを読む力と、明日の値動きを当てる力は分けた方がいい。この商品は顧客が離れにくそうだという見立てが当たっていても、その株を今の価格で買って報われるかは別の問いです。
信じるべきは、自信の強さより、何について訓練された感覚なのか。その勘は、いつ外れたと分かるのか。外れたときに修正できるのか。ここまで問い直して初めて、直感を仕事の道具として使えます。
新しいモデルは、考える対象を増やす
もう一つの入口は、今ある言葉では分けられないものに、区別をつくることです。難しい専門語を発明する必要はありません。似ていると思っていた二つを、別々に扱えるようにするだけでも、思考は進みます。
売上が増えたという説明から、販売数量と単価を分ける。利益が増えたという説明から、継続する要因と一度限りの要因を分ける。こうしたモデルがあると、以前は一つの数字だったものの中に、違う動きが見えてくる。
仮に、会議の準備、照会への返信、説明のやり直しが多い仕事を、作業が遅いと呼んでいたとします。そこで、判断するための材料をそろえる時間を分けて観察する。すると、担当者の速度ではなく、情報が届く順番に問題があるかもしれないと考えられる。
この区別のよさは、新しさより、確かめる行動が変わることです。何を含み、何を含まないかを決める。別の人でも見分けられるか試す。違う結果が出たら定義を直す。モデルは、名前を付けて完成するものではなく、観察に使いながら育てるものです。
逆に、何でも説明できてしまうモデルには気をつけたい。売上が増えれば戦略が成功した、減れば改革の途中だから、と言えてしまうなら、その説明を確かめる方法がありません。どんな結果なら見立てを撤回するのか。それが言えるモデルの方が、次の判断に使いやすいのです。
感性で捉える人と、モデルをつくる人。この二つは、優秀な人を選別するための診断ではありません。一つの判断の中で、行き来できる二つの入口として捉える方が役に立ちます。
違和感に気づく。仮の説明をつくる。データや現物を見て確かめる。説明からこぼれたものに、もう一度気づく。この往復を止めないことが、言葉の外にあるものを、実際の判断につなぐ道になります。
名前を付けたら、現場に戻る – 会計・投資・経営で思考を広げる方法

ここまでの話を、明日の仕事にどう持ち込むか。ポイントは、言葉を増やして満足しないことです。その言葉で、誰が何を確かめ、何を変えるのかまで考えます。
会計のラベルは、現実を扱うための約束である
会計は、取引を一定のルールで分類し、比較できる数字へ変える仕事です。この仕組みがあるから、個々の取引を全部見なくても、会社の状態を議論できる。言葉とモデルの力が、はっきり働いている領域です。
一方、決算書の項目だけで、経営上の価値をすべて説明できるわけではありません。新人が困ったときに誰へ相談すればいいか分かること。取引先に、無理なお願いをする前に話せること。例外処理の理由がチームに残っていること。そうした力は、専用の科目として見えるとは限らない。
人件費を減らす案なら、削減する費用は計算しやすい。では、相談相手が減ったことで、判断のやり直しがどれだけ増えるのか。その負担も確認しないと、費用の減少だけで効率化を評価してしまいます。
もちろん、見えない価値を何でも資産計上すればいいわけではありません。会計処理と、経営判断のために観察する対象は分けておく。財務報告のルールを守りながら、その数字だけでは分からないことを補う。数字を作る側には、この二つの仕事があります。
投資では、ラベルより中身の区別を増やす
割安株、成長株、AI関連、高配当。こうした言葉は、調べる入口として便利です。でも、ラベルが結論になると、その企業について知る作業が止まりやすい。分類できたことと、理解できたことを混ぜない方がいい。
たとえば、同じ成長でも、顧客が繰り返し買うことによる成長と、広告費を増やして新規客を取り続ける成長では、確かめたい点が違います。売上の伸びだけでまとめず、維持に必要な支出や、顧客が残る理由を分けてみる。
これは、独自の言葉をつくれば投資で勝てるという話ではありません。会社の説明を、自分が確かめられる問いへ変えるという話です。需要は増えるのか。その需要を利益にできるのか。さらに、その利益を現金として残せるのか。
そして、どれほど魅力的な事業でも、価格の問いは残ります。よい会社というラベルには、買値まで含まれていません。自分のモデルが捉えている範囲と、まだ捉えていない範囲を分けておく。その慎重さが、物語に引っ張られすぎるのを防いでくれます。
違和感を、仮の名前と小さな検証につなぐ
実務で試すなら、いきなり新しいKPIを設置するより、小さな記録から始める方が扱いやすい。たとえば、作業時間は減ったのに疲れるという違和感がある。そこで、終わった作業へ何度戻ったかを、短期間だけ記録してみる。
訂正で戻ったのか、説明を求められたのか、前提が変わったのか。まず出来事を残す。その後で、何度も同じ場所へ戻る仕事に仮の名前を付ける。ここでは、再開にかかる手間と呼んでみてもいい。立派な名称より、中身が共有できることの方が先です。
さらに、追加の照会をまとめて受ける、提出前に前提をそろえるなど、小さな変更を試す。戻る回数と負担が減るか確かめる。減らなければ、最初の説明が違ったのかもしれない。名前を守るために、現場をねじ曲げないことです。
AIを使うなら、観察した出来事を渡して、複数の説明候補や反例を出してもらう使い方ができます。ただ、流暢な説明ができたところで調査は終わりません。自分が渡していない現場の事情は、もっともらしい文章からは確認できない。候補を持って、現物に戻ります。
記録するときは、最初の違和感と、あとでつくった説明を分けて残すのも有効です。説明が整うと、初めから分かっていたように感じやすい。何を見て立ち止まり、何を調べて考えが変わったのか。その順番が残っていれば、次の学びに使えます。
名前の効果を確かめる問いは、簡単です。その言葉を使ってから、見るものと行動が変わったか。変わらないなら、説明が整っただけかもしれません。逆に、地味な言葉でも、調べる場所が変われば十分に働いています。
ただし、観察用の数字を評価用の数字へ変えるときは、もう一度考えたい。照会件数を減らすことだけを求めれば、必要な照会まで控える可能性があります。現場を理解するための物差しを、いつの間にか現場を縛る目標にしないことです。
結論 説明が終わったところから、もう一度見る
仕事では、説明できる人が頼りにされます。それは当然です。人と一緒に動くには、考えを共有する必要がある。でも、説明がうまいことだけを評価すると、説明に乗る現実ばかりを選んでしまうかもしれません。
だから、まだ説明できないものを、少しだけ保留しておく余裕がほしい。言葉にできないからといって切り捨てず、感覚に強く響いたからといって即座に信じない。気づいた内容を残して、あとで確かめに戻れるようにする。
個人にも、組織にも、そういう余白があっていいと思います。会議で結論を出す前に、何がこの説明からこぼれているかと聞く。予算を決める前に、今は数字にしていない負担を尋ねる。自分の判断が外れたときに、自分の能力だけでなく、使っていた分類も見直す。
頭のよさは、今ある言葉を使いこなすことだけではありません。今ある言葉では、まだ足りないと気づけることでもある。
言葉の外は広い。そこへ出かけるために言葉を使い、帰ってきたら、また言葉を直す。分かったつもりになった瞬間に、もう一度見る。その習慣が、思考の届く範囲を少しずつ広げてくれます。
言葉と直感のあいだを、もう少し歩くための5冊
1.『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』今井むつみ・秋田喜美
言葉は、完成した世界に後から貼る札なのか。それとも、世界を捉える力そのものに関わるのか。この問いを、オノマトペや子どもの言語習得、仮説をつくる推論から考える本です。身体で感じることと、抽象的な意味を扱うことのあいだに、どんなつながりがあるのか。言葉と感性を二つに分けすぎないための入口になります。この記事では、言語化する前に捉えられるものと、言語化によって扱いやすくなるものを分けました。その境目を、言葉が生まれ、学ばれる過程から考えたい人向けです。言語は必要か不要かという二択から離れ、そもそも人が言葉を使えるようになるとは何なのかを掘り下げられます。
2.『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』ガイ・ドイッチャー
自分にとって自然な分類は、ほかの言語を使う人にも自然なのか。色の呼び方、位置の伝え方、文法上の性などを手掛かりに、言語・文化・思考の関係を探る一冊です。自分の言葉が世界をそのまま写しているという感覚に、別の角度から揺さぶりをかけてくれます。この記事の、名前は輪郭を変えるという論点を、会社の用語や会計の分類から離れて考えたいときに向いています。ただ、題名だけで、母語が思考の可能性をすべて決めると受け取らないこと。どの領域で、どのような違いを扱っているのかを追う読み方が合います。言葉の影響を過小評価することにも、過大評価することにも距離を取りながら、ものの見方を広げたい人へ。
3.『暗黙知の次元』マイケル・ポランニー
何かが分かることと、その分かり方を全部説明できることは違う。この差を、知覚や学習だけでなく、科学的な探求や創造性まで広げて考える古典です。暗黙知という言葉を、ベテランの勘の言い換えで終わらせず、人間の知がどう成り立つのかという問いへ戻してくれます。この記事の、説明できないものをすぐに切り捨てないという姿勢を、哲学的に掘り下げたい人に向いています。手順書を増やしても伝わらないものがあるのはなぜか。熟練の中には、言葉で渡せる部分と、経験を通じて身につける部分がどう重なっているのか。即効性のある仕事術を求めるというより、知っているとは何かを時間をかけて考えるための一冊です。
4.『ファスト&スロー 上 あなたの意思はどのように決まるか?』ダニエル・カーネマン
直感を大事にしたいときほど、自分の判断がどう間違うのかも知っておきたい。速い思考と遅い思考、判断の偏り、自信過剰などを扱うこの本は、感覚に従えばよいという方向へ話が流れるのを止める役割を担います。この記事では、違和感を答えではなく調査の入口として使うことを提案しました。その区別を、自分の判断の癖から点検したい人に向いています。特に、もっともらしい説明ができることと、その説明が正しいことを混ぜてしまう場面を考える助けになります。思考を二つの固定的な性格タイプに分けるための本としてではなく、同じ自分の中で何が働いているかを確かめるために読むと、ほかの4冊とバランスよくつながります。
5.『ビジネス・インサイト 創造の知とは何か』石井淳蔵
新しいビジネスモデルが生まれるとき、人はどんな知を働かせているのか。ポランニーの暗黙知の議論と、ビジネスの事例をつなぎ、創造的な洞察を考える本です。この記事の、感じ取ることと、考えるためのモデルをつくることの往復を、経営やマーケティングへ持ち込みたい人に向いています。数字を集めれば未来の選択肢が自動的に出てくるわけではない。それでも、思いつきだけで進めるわけにもいかない。その間をどう考えるかという読書になります。ほかの4冊が言語や認知そのものを主に扱うのに対して、この一冊は事業の創造へ焦点を移します。独自の言葉を発明することが目的にならず、顧客や事業を違う見方で捉え直すために何が要るのかを考えられます。
言葉と感覚のつながりから入りたいなら『言語の本質』。普段の分類を外から見直したいなら『言語が違えば、世界も違って見えるわけ』が入口になります。説明できない知を深く考えるなら『暗黙知の次元』へ。直感の危うさを点検するために『ファスト&スロー 上』を挟み、経営への応用を考えたいときに『ビジネス・インサイト』を読むと、それぞれの役割がつながります。
それでは、またっ!!
引用論文・参考文献
- Fedorenko, E., Piantadosi, S. T., & Gibson, E. A. F.(2024). Language is primarily a tool for communication rather than thought. Nature, 630, 575–586. 公開論文
- Lupyan, G.(2012). Linguistically Modulated Perception and Cognition: The Label-Feedback Hypothesis. Frontiers in Psychology, 3, 54. 論文
- Kahneman, D., & Klein, G.(2009). Conditions for intuitive expertise: A failure to disagree. American Psychologist, 64(6), 515–526. 書誌・抄録
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