市場の水位と、企業の泳力 – 景気のせいにする会社、景気を使いこなす会社

みなさん、おはようございます!こんにちは!こんばんは。Jindyです。 

景気が悪い。人が動かない。原材料が高い。競合が値下げしてきた。

会社の業績が鈍ると、会議室には外部環境を説明する言葉が増えていく。どれも嘘ではない。実際、景気、金利、為替、資源価格、規制は、企業の売上や利益を大きく動かす。

ただ、それだけで話を終えると、投資家としても経営者としても判断を誤る。

同じ業界にいて、同じ向かい風を受けながら、利益を伸ばす会社があるからだ。逆に、市場全体が伸びているのに、シェアを落とし、値下げに逃げ、利益率まで削っている会社もある。

ここで必要なのは、根性論ではない。

景気か、企業努力か。

そんな二択でもない。

このブログを読むと、企業の業績を三つに分けて見られるようになる。

ひとつは、市場全体が伸びたのか縮んだのか。
ひとつは、その中で自社が競合から顧客を奪えたのか。
もうひとつは、獲得した売上を利益とキャッシュに変えられたのか。

この三つを分けるだけで、過去最高益という言葉に踊らされにくくなる。景気悪化を言い訳にしている会社と、本当に構造的な打撃を受けている会社も見分けやすい。

さらに、よく使われるファンという言葉を、継続率、単価、粗利、キャッシュフローへ翻訳できるようになる。

決算書は結果表だ。

だが、その数字の裏には、市場の水位と企業の泳力が混ざっている。

投資で勝ちたいなら、その二つを分解しなければならない。

市場シェアはゼロサム、企業業績はゼロサムではない – 勝者がいるから敗者がいる、は半分だけ正しい

競争の世界では、誰かが勝てば誰かが負ける。

この感覚は分かりやすい。スポーツなら、勝敗は明確だ。市場シェアも似ている。ある市場を切り取れば、各社のシェアを合計したものは全体になる。自社の取り分が増えれば、どこかの取り分は減る。

だから、市場シェアにはゼロサム的な性格がある。

ところが、売上高や利益まで同じように考えると話がおかしくなる。

市場全体が拡大すれば、複数社が同時に増収できる。反対に、市場そのものが縮めば、シェアを伸ばした会社でさえ減収になる。

相対的には勝っている。
絶対額では縮んでいる。

企業分析では、このねじれが頻繁に起きる。

勝ち負けには、相対評価と絶対評価がある

会社が競合より成長しているかを見るのが相対評価だ。

市場が縮小する中で自社の売上減少が小さければ、競争上は健闘している。値上げ後も顧客が離れず、競合より利益率を維持できているなら、企業の強さが表れている。

一方、前年より売上や利益が増えたかを見るのが絶対評価になる。

ここ、混ぜると危ない。

好況期には、競争力の弱い会社でも増収できる。市場全体が膨らみ、その波に持ち上げられるからだ。経営陣は手応えを語り、現場も忙しくなり、決算書の数字も華やかになる。

でも、市場成長率を下回っていれば、実態はシェア低下だ。

増収しているのに負けている。

こういう会社は珍しくない。

反対に、不況期には減収していても、競合より下げ幅が小さく、シェアと利益率を守れている会社がある。表面の数字は地味だが、次の回復局面では一気に差が開く可能性がある。

投資家が見るべきなのは、増えたか減ったかだけではない。

市場に対して、どちらへ動いたかだ。

市場が膨らめば、勝者は一社でなくていい

企業活動は、すでに存在する利益を奪い合うだけではない。

新しい商品が生まれ、今まで存在しなかった需要ができる。使いにくかったサービスが改善され、利用者が増える。供給網が効率化され、価格が下がり、これまで買えなかった人にも届く。

そのとき、企業だけでなく顧客や取引先にも価値が生まれる。

つまり、経済活動にはパイの奪い合いと、パイそのものを大きくする動きが同時にある。企業と顧客、供給者が生み出す価値と、その価値を誰が獲得するかは、分けて考える必要がある。

この違いは、経営戦略を考えるうえでかなり大きい。

競合から顧客を奪うことだけに集中すると、値引き、広告費の積み増し、過剰サービスへ向かいやすい。売上は取れても、業界全体の利益率が落ちる。いわば、勝者のいない消耗戦だ。

一方、新しい用途や顧客層を開拓できれば、競合と殴り合わずに売上を増やせる。

強い会社は、競争に勝つだけではない。

競争の場所をずらす。

敗者の損失が、そのまま勝者の利益になるわけではない

ある会社が顧客を失ったとき、その需要が必ず競合へ移るとは限らない。

顧客が購入自体をやめることもある。代替商品へ流れる場合もある。中古市場へ移るかもしれない。設備や在庫が余り、廃棄や減損が発生すれば、価値そのものが消える。

会計の世界では、この消えた価値がかなり生々しく見える。

在庫評価損。固定資産の減損。撤退費用。契約損失。貸倒引当金。

競争に負けた結果が、必ず誰かの売上になるわけではない。社会全体から価値が失われ、損失だけが残ることもある。

だから、勝ち組と負け組を単純な一対一で捉えると、企業の実態を見誤る。

市場シェアは移る。

でも、利益は移るだけでなく、生まれたり、消えたりする。


企業比較では、競合順位だけを見ると足りない。

市場全体が上がっているのか。下がっているのか。その中で自社の位置がどう変わったのか。

この二軸で見る必要がある。

市場の水位が上がっただけなのに、自分の泳力が上がったと勘違いする会社は危うい。

反対に、水位が下がる中で前へ進んでいる会社は、数字以上に強い。

景気は言い訳ではない。だが、無視できるほど軽くもない – 業績は、外部環境と企業能力の掛け算で決まる

景気の問題ではない。もっとやれることがある。

この考え方には、経営を前へ進める力がある。外部環境のせいにして止まる組織は、改善の余地を自ら捨てるからだ。

ただし、景気を無視していいわけではない。

会社の努力で金利は決められない。人口構造も変えられない。資源価格や為替を完全に支配することもできない。

経営ができるのは、外部環境を消すことではなく、受ける影響を小さくし、場合によっては追い風へ変えることだ。

利益を分解すると、景気と実力が見えてくる

売上高は、大きく分ければ市場規模と自社シェアで決まる。

利益は、その売上に価格、数量、商品構成、変動費、固定費が重なってできる。

ここで経理の出番になる。

売上が伸びたという一行だけでは、何も分からない。

数量が増えたのか。
値上げしたのか。
利益率の高い商品が売れたのか。
為替換算で膨らんだだけなのか。
買収した会社が連結に加わったのか。

同じ増収でも、中身はまるで違う。

特に固定費の大きい会社は、景気変動の影響を強く受ける。売上が少し落ちただけでも、利益が大きく沈む。逆に回復時には、追加売上が利益へ流れ込みやすい。

これは経営者の気合ではなく、コスト構造の問題だ。

だから不況期に見るべきなのは、単なる減益率ではない。

限界利益率は守れているか。固定費を柔軟に動かせるか。在庫や売掛金に資金が寝ていないか。資金繰りに耐えられるか。

PLだけを見ていると、見逃す。

本当の耐久力は、BSとキャッシュフローに出る。

過去最高益は、実力の証明とは限らない

過去最高益。

投資家がつい反応してしまう言葉だ。見栄えがいい。勢いも感じる。

でも、最高益にはいろいろある。

本業の数量が伸びた最高益。
値上げが浸透した最高益。
高採算商品へ構成が変わった最高益。
円安や資源高に押し上げられた最高益。
資産売却や税効果を含む最高益。

同じラベルを貼るには、性格が違いすぎる。

決算書を作る側の感覚で見ると、利益はひとつの塊ではない。複数の要因が積み上がった結果だ。

だから投資判断では、過去最高という結果より、再現性を確認する。

その利益は来期も残るのか。
値上げ後も数量は維持できているか。
営業キャッシュフローは利益についてきているか。
運転資本の悪化で現金が消えていないか。
投下資本に対する収益性は上がったのか。

利益が増えても、在庫と売掛金がそれ以上に増え、借入金まで膨らんでいるなら、手放しでは喜べない。

会計利益は増えている。
でも、現金は増えていない。

ここ、かなり大きな落とし穴だ。

不況時ほど、企業固有の差がむき出しになる

企業収益の差を、年度、業界、親会社、個別事業などへ分解した研究では、業界だけでなく個別事業固有の要因が大きいことが示されている。別の研究では、厳しい経済環境ほど企業固有の影響が強くなるという結果も報告された。

これは感覚的にも納得しやすい。

好況期は、多少の非効率が売上増加に隠れる。余計な会議、遅い意思決定、膨らんだ在庫、採算の悪い顧客。市場が伸びている間は、問題が利益の下に沈んでいる。

不況になると水が引く。

すると、何が強みで、何がぜい肉だったのかが一気に見える。

生産性の企業間格差が大きく、しかも持続することは研究でも広く確認されている。技術だけではない。経営管理、人材、学習、資源配分、競争環境が積み重なって差になる。

ただし、努力すれば必ず勝てる、という話でもない。

優れた経営とは、嵐を否定することではない。

嵐が来る前に借入期間を整え、在庫を絞り、固定費を見直し、顧客との関係を深めることだ。環境変化を察知し、機会を捉え、保有する資源を組み替える能力は、動的能力として整理されてきた。


景気に左右されない会社など、ほとんどない。

強い会社は、影響を受けないのではなく、受け方が違う。

追い風では稼ぎながら浮かれず、向かい風では守りながら次の一手を打つ。

景気を言い訳にしない。

でも、景気を見ないふりもしない。

この両方ができる会社は強い。

ファンは資産計上されない。でも、キャッシュを連れてくる – ファンという言葉を、経営数字へ翻訳する

ファンを増やそう。

響きはいい。だが、会議でこの言葉だけが出てきたら少し警戒したい。

誰をファンと呼ぶのか。何が増えればファンが増えたことになるのか。その人は利益を生むのか。

ここまで決めなければ、ファンは便利な精神論で終わる。

面白いのは、ブランドや顧客関係が企業価値を支えていても、社内で育てたブランドは会計上、そのまま資産として認識されないことだ。IAS第38号でも、内部創出ブランドや顧客リストなどは無形資産として認識しない扱いになっている。

貸借対照表には載らない。

でも、経済価値がないわけではない。

むしろ、その価値は将来の売上とキャッシュフローに現れる。

ファンは、売上ではなく将来キャッシュフローで測る

ファンの経済価値は、いいねの数では決まらない。

繰り返し買う。値上げ後も残る。新商品を試す。周囲に勧める。問い合わせや販売にかかるコストが下がる。

こうした行動が積み重なり、顧客一人あたりの将来キャッシュフローが厚くなる。

顧客満足度と企業価値を扱った研究では、顧客満足が将来キャッシュフローの成長や変動リスクと関係することが示されている。

会計・管理会計の言葉へ翻訳するなら、見る項目はかなり具体的だ。

継続率。解約率。購入頻度。顧客単価。粗利益率。紹介率。顧客獲得費。顧客生涯価値。

ファン施策に広告費を使ったなら、売上だけでなく回収期間を見る。イベントを開いたなら、参加人数より、その後の継続購入や紹介を追う。

熱量は大事だ。

でも、熱量を測定から逃げる理由にしてはいけない。

ファンは、会社との関係だけで生まれるわけではない

ブランド・コミュニティの研究では、顧客は企業だけでなく、顧客同士のつながりを持つ。共通意識、儀式や伝統、仲間への責任感がコミュニティを形づくるとされる。

ここが、普通のリピーターとファンの違いだ。

商品を買って終わりではない。使い方を共有する。初心者を助ける。ブランドの歴史を語る。新しい顧客を連れてくる。

企業がすべての接点を有料で作らなくても、顧客同士が価値を増幅してくれる。

投資家目線では、これは営業効率の話になる。

新規顧客獲得費が下がる。解約率が下がる。口コミが増える。値引きへの依存も小さくなる可能性がある。

ただし、ファンは会社の所有物ではない。

期待を裏切れば、強い支持は強い反発に変わる。コミュニティが大きいほど、悪い情報も速く広がる。

ファンを囲い込むのではなく、信頼を預かっている。

この感覚を失うと危ない。

ライバルより多く動くより、違う競争をつくる

競争が企業を鍛えるのは確かだ。

ただ、競争が激しければ激しいほど、常にイノベーションが増えるわけではない。Aghionらは、競争とイノベーションの間に逆U字型の関係を示した。競争が弱すぎれば企業は動かない。一方、激しすぎて利益を回収できなければ、遅れた企業は投資する意欲を失う。

だから、ライバルよりたくさんやる、だけでは弱い。

同じ商品を、同じ顧客へ、同じ売り方で届け、最後は価格で殴り合う。これでは努力量が増えても、業界の利益が削られる。

経営戦略の仕事は、行動量を増やすことではない。

何をやらないかを決め、勝負する場所を選び、顧客が離れにくい理由をつくることだ。

BtoCならブランドやコミュニティが効くかもしれない。BtoBなら品質、納期、技術対応、切替コストが強みになる。素材産業ならコスト競争力や権益、設備効率がものを言う。

すべての業種に競争はある。

だが、すべての業種に同じ勝ち方があるわけではない。


ファンを増やすとは、人気者になることではない。

次も選ばれる理由を積み上げることだ。

その理由が、継続購入、紹介、価格耐性、低い解約率へ変わり、最後にキャッシュフローになる。

決算書には、ファンという科目はない。

だからこそ、数字の手前にある信頼を見抜ける投資家は強い。

結論|市場のせいにしない。でも、市場をなめない

会社の業績は、ライバルとの勝負だけでは決まらない。

市場そのものが伸びることもあれば、縮むこともある。金利や為替が利益を押し上げることもある。反対に、優れた現場が外部環境に押し流されることもある。

それでも、同じ環境にいる会社の結果が同じになるわけではない。

ここに経営の意味がある。

市場の水位は選べない。

でも、どんな船をつくるかは選べる。積み荷を軽くするか、航路を変えるか、仲間を増やすか、次の嵐に備えて現金を残すか。

経営とは、天気を支配することではない。

天気が変わっても、目的地を見失わない仕組みをつくることだ。

投資も同じだと思う。

過去最高益という明るい数字だけを追わない。減益という暗い数字だけで切り捨てない。その利益をつくった風と、その風の中で前へ進んだ力を分けて見る。

すると、決算書の見え方が変わる。

数字は冷たい。

でも、その数字の奥には、顧客に選ばれようとした工夫があり、守ろうとした雇用があり、次の一手に賭けた意思決定がある。

勝ち組とは、ずっと追い風を受けた会社ではない。

向かい風の中でも、自分たちが何者かを忘れず、やるべきことを積み重ねた会社だ。

市場の水位は、いつか変わる。

最後に残るのは、泳ぎ方を学び続けた会社である。

このテーマをさらに深く考えるための5冊

この記事では、景気と企業努力、市場シェアと利益、ファンとキャッシュフローの関係を考えてきた。

ただ、企業の強さはひとつの理論だけでは見抜けない。

経営戦略だけを学ぶと、数字が見えなくなる。
会計だけを学ぶと、数字が生まれた理由を見失う。
マーケティングだけを学ぶと、売上と利益を混同しやすい。

戦略、会計、投資、顧客。

この4つを行ったり来たりできるようになると、決算書が単なる数字の表ではなく、企業がどの市場で、何を武器に戦っているのかを記録した物語に見えてくる。

ここから先を、もう一段深く考えたい人に向けて5冊を選んだ。

1.『戦略の要諦』リチャード・P・ルメルト

戦略という言葉は、会社の中でかなり雑に使われている。

売上を伸ばす。
業界トップを目指す。
顧客満足度を高める。

どれも立派な目標だが、それだけでは戦略にならない。

本書が突きつけるのは、戦略とは壮大な目標を掲げることではなく、いま突破すべき最重要ポイントを見極め、そこへ力を集中することだ、という考え方だ。戦略を業績目標や長期ビジョンと混同せず、克服できる課題を特定するプロセスとして解説している。

ライバルより多く行動すれば勝てる。

そう考えてしまう人にこそ読んでほしい。

経営資源には限りがある。人も、お金も、時間も足りない。その状況で何でもやろうとすれば、結局はどれも中途半端になる。

必要なのは、努力量を増やすことではない。

どこに努力を集めれば、状況が一気に動くのかを見つけることだ。

景気のせいにせず、かといって根性論にも逃げない。この記事のテーマを、経営戦略の側から最も深く掘り下げてくれる一冊である。

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2.『決算書「分析」超入門2026 100分でわかる!』佐伯良隆

過去最高益だから、良い会社。
減益だから、悪い会社。

決算をこの二択で読んでいると、かなりの確率で企業の実力を見誤る。

本書は財務三表の基本から始まり、収益性、安全性、成長性を順番に読み解いていく。売上と利益だけでなく、資産の増え方、運転資金、キャッシュの流れまで確認する構成になっている。実在企業の決算を使い、増収、利益減少、最高益、V字回復などの背景を分析する点も分かりやすい。

この本のよさは、難しい会計用語を覚えることより、数字同士のつながりをつかむことに重点を置いている点だ。

売上は増えているのに、なぜ利益が減ったのか。
利益は出ているのに、なぜ現金が減ったのか。
資産の増加は成長投資なのか、それとも在庫の滞留なのか。

こうした問いを持てるようになると、決算書の見え方は一気に変わる。

会計を初めて学ぶ人はもちろん、決算ニュースを読んで投資判断をしているものの、いまひとつ数字を深掘りできていない人にも入りやすい。

記事を読んで、まず決算書を見る力を身につけたいと思ったなら、この本から入るのが読みやすい。

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決算書「分析」超入門2026 100分でわかる! [ 佐伯良隆 ]
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3.『真のバリュー投資のための智慧と実践』柳下裕紀

安くなった株を買うことが、バリュー投資ではない。

本当に見るべきなのは、その企業が長い時間をかけて価値を増やし続けられるかどうかだ。

本書では、ROIC、参入障壁、ビジネスモデル、M&A、複利的な価値創造などを、国内外の企業分析と結びつけて解説している。競争優位という定性的な話と、企業価値評価という定量的な話を往復できる構成になっているのが特徴だ。

決算書を読めるようになっても、それだけでは投資判断は完成しない。

高い利益率は、ブランドによるものなのか。
特殊な技術によるものなのか。
単に市況がよかっただけなのか。
その利益を生むために、どれだけの資本を使っているのか。

数字の裏にある競争優位を見つけ、最後に企業価値へ落とし込む必要がある。

本書は決して軽い読み物ではない。

ただ、企業分析を本気で深めたい人にとっては、何度も戻って使える教科書になる。決算発表のたびに売上高や営業利益を確認するだけの投資から、一歩抜け出したい人に向いている。

株価ではなく、事業を見る。

その感覚を鍛えたいなら、手元に置いておきたい一冊だ。

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真のバリュー投資のための智慧と実践 [ 柳下 裕紀 ]
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4.『顧客生涯価値マーケティング 持続的な関係性をつくる』岩永洋平

ファンを増やしたい。

企業の発信でよく見かける言葉だが、経営数字へ翻訳されないファン施策は、簡単に自己満足へ変わる。

本書が扱う顧客生涯価値、いわゆるLTVは、一回の売上ではなく、ひとりの顧客との関係から長期的にどれだけの価値が生まれるかを見る考え方だ。

持続的な購買関係がどのように作られるのかを、D2C事業者の調査、消費者の購買意向、事例研究などから掘り下げている。単に顧客を囲い込むのではなく、また買いたいと思われる関係をどう作るかが中心テーマになっている。

新規顧客を集め続けても、すぐに離れてしまえば利益は残らない。

広告費を使って一度買ってもらう。
購入後の接点がない。
次の購入につながらない。
また広告費を使う。

これでは、穴の開いたバケツへ水を注いでいるのと同じだ。

継続率、購入頻度、顧客単価、粗利益、紹介。

ファンという柔らかい言葉を、経営で使える数字へ変えたい人に、本書はよく合う。

マーケティング担当者だけでなく、事業責任者や管理会計に関わる人が読むと、売上の質を考える視点が増えるはずだ。


5.『未顧客戦略 消費者の無関心から逃げない 記憶×習慣の科学』村山幹朗・芹澤連

ファンを大事にすれば、会社は成長する。

これは間違いではない。

ただし、既存顧客だけを見ていても、市場は大きくならない。

ここが落とし穴だ。

企業側は自社の商品に毎日向き合っている。だから、消費者も同じくらい興味を持っていると錯覚しやすい。

現実には、多くの人は商品を嫌っているわけではない。

そもそも、気にしていない。

本書は、企業が見落としがちな無関心層やライトユーザーに焦点を当て、ノンユーザーを継続的に獲得するための考え方を、実証研究を基に整理している。既存顧客への集中が、場合によってはブランドの成長を遠ざけるという、耳の痛い論点にも踏み込んでいる。

ファンを深く愛することと、新しい顧客を広く獲得すること。

企業には両方が必要だ。

既存顧客だけを見れば、コミュニティは濃くなるが小さくなる。新規顧客だけを追えば、広告費が膨らみ、関係が薄くなる。

このバランスをどう取るのか。

この記事で触れた、市場全体を広げるという視点を、マーケティングの側から考え直せる一冊だ。

ファンマーケティングという言葉に少しでも違和感を持った人ほど、面白く読めると思う。


決算書を読むところから始めたいなら、

『決算書「分析」超入門2026』

経営戦略の本質を考えたいなら、

『戦略の要諦』

企業分析と投資判断を本格的に深めたいなら、

『真のバリュー投資のための智慧と実践』

顧客との長期的な関係を数字で考えたいなら、

『顧客生涯価値マーケティング』

ファン重視の経営を、別の角度から疑ってみたいなら、

『未顧客戦略』

が入り口になる。

本を読む目的は、知識を増やすことだけではない。

次に決算書を開いたとき、これまで見えていなかったものが見えること。

会議で誰かが景気のせいだと言ったとき、本当にそうなのかと問い直せること。

人気の会社を見たとき、その熱量が売上、利益、キャッシュフローへどう変わっているのかを考えられること。

一冊の本で、会社は変わらない。

ただ、会社を見る目は変わる。

そして投資でも仕事でも、最後に大きな差を生むのは、その小さな見え方の違いだったりする。

それでは、またっ!!


引用論文・会計基準

  1. McGahan, A. M. & Porter, M. E.(1997)
    How Much Does Industry Matter, Really?
    Strategic Management Journal, 18, 15–30.
    年度、業界、親会社、個別事業の各要因が企業収益性の差をどの程度説明するかを分析した研究。
  2. Rumelt, R. P.(1991)
    How Much Does Industry Matter?
    Strategic Management Journal, 12, 167–185.
    収益性の違いについて、業界要因と事業固有要因を分けて検証した代表的研究。
  3. Bamiatzi, V., Bozos, K., Cavusgil, S. T. & Hult, G. T. M.(2016)
    Revisiting the Firm, Industry, and Country Effects on Profitability under Recessionary and Expansion Periods: A Multilevel Analysis.
    Strategic Management Journal, 37, 1448–1471.
    景気後退期には、業界要因より企業固有要因の影響が強まる可能性を示した研究。
  4. Syverson, C.(2011)
    What Determines Productivity?
    Journal of Economic Literature, 49, 326–365.
    企業間に大きく持続的な生産性格差が存在することと、その要因を整理したレビュー論文。
  5. Brandenburger, A. M. & Stuart, H. W.(1996)
    Value-based Business Strategy.
    Journal of Economics & Management Strategy, 5, 5–24.
    企業、顧客、供給者が生み出す価値と、その価値の獲得を区別して整理した研究。
  6. Teece, D. J.(2007)
    Explicating Dynamic Capabilities: The Nature and Microfoundations of Sustainable Enterprise Performance.
    Strategic Management Journal, 28, 1319–1350.
    環境変化を察知し、機会を捉え、企業資源を再構成する能力について論じた研究。
  7. Gruca, T. S. & Rego, L. L.(2005)
    Customer Satisfaction, Cash Flow, and Shareholder Value.
    Journal of Marketing, 69, 115–130.
    顧客満足と将来キャッシュフロー、株主価値との関係を検証した研究。
  8. Muñiz, A. M. Jr. & O’Guinn, T. C.(2001)
    Brand Community.
    Journal of Consumer Research, 27, 412–432.
    ブランドを中心に生まれる顧客同士の共通意識、伝統、責任感を整理した研究。
  9. Aghion, P., Bloom, N., Blundell, R., Griffith, R. & Howitt, P.(2005)
    Competition and Innovation: An Inverted-U Relationship.
    Quarterly Journal of Economics, 120, 701–728.
    競争とイノベーションの間に、単純な比例ではなく逆U字型の関係があることを示した研究。
  10. IFRS Foundation
    IAS 38 Intangible Assets.
    内部創出ブランド、顧客リストなどを無形資産として認識しない会計上の取扱いを定めている。

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